研究概要(2012年度)
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研究概要
未だ満たされていない医療ニーズに応える医薬品として,バイオ医薬品等の開発と実用化には大きな期待が寄せられている.平成24年度は,5品目のバイオ医薬品が新有効成分として承認されたことに加え,第3,4番目のバイオ後続品が相次いで承認された.また,新たな分子メカニズムを持つ抗体医薬品やがんワクチンなど先端的バイオ医薬品の開発研究が進んでいる.このような現状を踏まえ生物薬品部は,バイオ医薬品等の開発促進と審査の迅速化に資する,バイオ医薬品等の品質・有効性・安全性評価に関する生化学的研究,並びに先端的バイオ医薬品等の早期実用化に向けたレギュラトリーサイエンス研究を実施している.
平成24年度は,バイオ医薬品等の品質評価に関する研究として,糖タンパク質医薬品等の試験的製造,構造・物理的化学的性質,生物活性,免疫化学的性質,不純物,及び感染性因子に関する評価技術の開発と標準化を行った.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究として,抗体医薬品等の薬理作用及び体内動態評価法に関する研究,免疫原性評価法の標準化,及びインターフェロン製剤の薬剤疫学研究等を行った.また,ヘパリン製剤の規格及び試験方法の策定を含む高分子生理活性医薬品等の品質評価に関する研究を実施した.さらに,革新的医薬品開発支援に資する研究として,トランスジェニック植物・昆虫由来タンパク質医薬品,及び高度改変タンパク質医薬品等の品質・安全性評価に関する研究,ウイルス等感染性因子の安全性評価に関する研究を実施した.
研究業績
1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究
1) バイオ医薬品の合理的品質管理技術及び安全性評価手法の開発と標準化(政策創薬マッチング研究事業)
①カラムスイッチングシステムと液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を組み合わせて,抗体医薬品のグライコフォームをモニタリングするPATシステムを構築し,培養工程で利用できることを確認した.
②酸性糖鎖含有糖タンパク質医薬品の糖鎖試験法の標準化を行った.
③抗体医薬品等の結合性試験に用いられる非競合ELISAを対象とし,試験条件設定における実験計画法の有用性,良好な結果を得るための試験デザイン及びデータ解析手法,各試験デザインで適した試験成立条件を明らかにした.また,日局参考情報
表面プラズモン共鳴法の案を作成した.
④HEVのカプシドタンパク質をバキュロウイルスを用いて昆虫細胞で大量に生合成し,培養上清中に分泌されたタンパク質を精製し,非エンベロープ人工ウイルス様粒子を作製することができた.
2) 医薬品の品質,有効性及び安全性確保のための規制の国際調和の推進に係わる研究(厚生労働科学研究費補助金)
①抗TNF-α抗体医薬品に対する高親和性ペプチドを用いてカラムを作製し,血中抗体医薬品の回収に利用できることを示した.今後,抗体医薬品のグリコフォームと血中濃度の関係の解析に役立つことが期待される.
②抗HER2抗体の実験的製造システムを構築し,プロテインAカラムクロマトグラフィー工程をモデルとして,宿主由来タンパク質(HCP)除去のためにデザインスペースを設定する際の留意点を抽出した.また,ショットガン解析で残留するHCPを同定した.
③海外におけるバイオ後続品のガイドラインについて,新規策定/改訂の動向,及び記載内容を調査し,バイオ後続品の規制に関する国際的動向を明らかにした.また,これらとの比較により日本のバイオ後続品指針の特徴並びに必要と考えられる改訂事項を明らかにした.
④バイオ医薬品のトランスジェニックマウス及びT細胞アッセイにおいて,バイオ医薬品の目的物質由来不純物である凝集体が免疫原性を誘導することを文献調査等により明らかにした.
⑤遺伝子治療Regulators Forum等の資料を調査し遺伝子治療の海外規制動向を明らかにすることにより,国内遺伝子治療臨床研究指針の改定で盛り込むべき安全性要件を明らかにした.
3) 水素/重水素交換反応及び質量分析法(HDX/MS)による糖タンパク質の高次構造解析技術の開発(科学研究費補助金(文部科学省))
バイオ医薬品の作用機序の構造的背景を解明する目的で,HDX/MSによりTNF-αと抗TNF-α抗体医薬品の相互作用解析を行い,抗TNF-α抗体医薬品のエピトープ候補を明らかにした.
4) 医薬品の製造・品質管理の高度化と国際化に対応した日本薬局方の改正のための研究(厚生労働科学研究費補助金)
エリスロポエチンをインタクトの状態でLC/MSにて分析し,デコンボリューションにより質量スペクトルを得た.観測されたほとんどのピークはポリペプチド鎖に結合した糖鎖の質量の違いとして帰属可能であった.ピーク解析ソフトウェアにより各グライコフォームピークの強度を求め,ピーク強度比並びにその再現性の評価を行い,LC/MSは,グライコフォーム類似性評価法として有用であることを確認した.
5) バイオ後続品の品質評価等に関する研究
抗CD20抗体リツキシマブの先行品及び海外で後続品として使用されている製品について,SPR法を用いた結合特性解析を行い,後続品ではFcγRIIa及びFcγRIIIaとの結合性が先行品と異なることを見出した.
6) 抗体医薬品の医薬品各条における規格及び試験方法の設定に関する研究
①抗体医薬品のインタクト質量分析において,マススペクトルをデコンボリューション処理する際のパラメータが質量スペクトルに及ぼす影響について検討した.質量分析計及びデコンボリューションのソフトウェアにそれぞれ特徴があることが分かった.
②抗体医薬品の相対力価の算出において4-パラメータロジスティックモデルによる回帰式を用いる際に,回帰式の係数を用いた試験成立条件設定が有用であることを確認した.
2.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究
1) 免疫原性評価手法の開発と標準化(政策創薬マッチング研究事業)
抗体医薬品をウサギに免疫して抗薬物抗体を作製し,各種分析方法を用いて抗原抗体結合活性を測定した結果,いずれの方法もヒト血清の添加により回収率は顕著に低下することを明らかにした。
2) 膜結合型TNF-αとの複合体形成に着目した抗TNF-α抗体医薬品の生物学的特性解析(科学研究費補助金(文部科学省))
膜結合型TNF-αを発現する細胞株を複数樹立し,既承認の抗TNF-α抗体医薬品の膜結合型TNF-αに対する結合親和性及び免疫エフェクター細胞活性化能の差異を明らかにした.
3) 薬物結合抗体の動態関連分子結合性が細胞内・体内動態に及ぼす影響の解明(科学研究費補助金(文部科学省))
標的細胞内に薬物を輸送することが可能な抗体(抗HER2抗体,抗EGFR抗体)に化合物を結合し,細胞内での動態解析を行うための抗体薬物複合体モデルを11種作製した.また,抗原結合性を解析するために,EGFR細胞外領域の発現・精製を行った.
4) バイオ医薬品のバイオアナリシス分析法バリデーションに関する研究(厚生労働科学研究費補助金)
リガンド結合法を用いた生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関して,ガイドラインに盛り込むべき項目を明らかにした.
5) 抗体医薬品によるインフュージョン反応の発現メカニズム解析と予測系の構築(科学研究費補助金(文部科学省))
抗体医薬品をプレートに固相化し,末梢血単核球(PBMC)から放出される18種類のサイトカインを同時に測定する実験系を構築した.10種類の抗体医薬品の比較により,PBMCにおける抗原発現の有無,抗体サブクラスにより異なったサイトカイン放出が生じることを明らかにした.また,FCGR2A遺伝子の多型により生じるFcγRIIa
L273P変異体において,受容体架橋刺激による細胞内タンパク質のチロシンリン酸化が亢進することを明らかにした.
6) 抗体医薬品の構造特性・機能及び免疫原性と新規Fc受容体DC-SIGNの関連に関する研究(科学研究費補助金(文部科学省))
糖転移酵素との共発現あるいは糖転移酵素阻害剤の添加によるシアル酸高付加型・高マンノース型糖鎖修飾をうける抗体発現系を構築し,得られた抗体の特性解析に着手した.
7) 治験対象バイオ医薬品の品質・安全性に関する研究
昨年に引き続き,治験対象医薬品ヒト初回投与試験安全性確保のための要件を明らかにした.
8) ホルモン等の作用発現に関与する諸因子に関する研究
培養ラット肝細胞において,増殖促進因子として作用するアネキシンA3のノックダウンにより,増殖抑制に関与する可能性のあるperoxiredoxin-1の発現が増加することをプロテオーム解析により明らかにした.
3.高分子生理活性医薬品の品質に関する研究
1) ヘパリン医薬品の活性試験及び純度試験等に関する研究
①日局ヘパリンカルシウム各条定量法のパブリックコメント案を策定した.
②日局ヘパリンカルシウム各条抗第Xa因子活性・抗第IIa因子活性比のパブリックコメント案を策定した.
③日局ヘパリンナトリウム各条定量法のパブリックコメント案を策定した.
④日局ヘパリンナトリウム各条抗第Xa因子活性・抗第IIa因子活性比のパブリックコメント案を策定した.
⑤日局ヘパリンナトリウム注射液各条定量法のパブリックコメント案を策定した.
2) グリコサミノグリカン類の特性解析技術の開発(科学研究費補助金(文部科学省))
微量グリコサミノグリカンの構造及び分子不均一性解析技術を開発する一環として,アセトン沈殿法を利用した微量糖ペプチド及び糖鎖回収方法を開発した.また,ナノフローLC/MSの最適化を行った.
4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究
1) 新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品の品質・安全性確保に関する研究(政策創薬マッチング研究事業)
トランスジェニックカイコを用いて生産された抗CD20抗体の生物活性を測定し,トランスジェニックカイコ由来の抗体は哺乳動物細胞で生産されたものと比べて,FcγRIIIaに対して高親和性で高ADCC活性を示すこと,一方でCDC活性が減弱していることを明らかにした.また,トランスジェニックカイコをバイオ医薬品の生産基材として用いるための要件を考察し,バンク化及びバンクの試験方法に関する具体的な考え方を提示した.
2) ウイルス等感染性因子安全性評価に関する研究(厚生労働科学研究費補助金)
①細胞組織利用医薬品に感染する可能性のあるウイルスリストを作成し,一部のウイルスについて,文献データ及び患者感染率を基にリスク分析を行った.
②ウイルス感染リスク評価の一環として,プロテオミクスの技術を用いた細胞表面のウイルス受容体解析を行うため,グアニジン塩酸を用いた改良ゲル内タンパク質回収方法を開発した.
③細胞組織加工医薬品に混入の恐れのあるヒト感染ウイルス,ウシ胎児血清,ブタトリプシンを汚染する可能性のあるウイルスをリストアップし,その高感度の試験法とウイルスのモニター評価系の検討を行った.また自然宿主以外の細胞への馴化過程の解析を行った.
④バイオ医薬品のウイルス安全性について,企業において明らかになった培養工程でのウイルス汚染事例を調査し,その対策について考察した.また,ウイルスクリアランス試験に用いる適切なモデルウイルスの組み合わせ,及び抗体医薬品の精製工程におけるウイルスの不活化/除去方法を考察した.
⑤医薬品への異常プリオン混入リスクの見直しを目的として欧米の規制動向を調査した結果,欧米でプリオンリスクの再評価が行われており,当初の想定よりもリスクが低いと考えられていることが明らかになった.
3) 革新的医薬品の開発環境整備を目指したレギュラトリーサイエンス研究(厚生労働科学研究費補助金)
Fc領域改変抗体の非臨床評価において注意すべきヒトとモデル動物間のFc受容体(FcγR及びFcRn)の種差について,最新の知見をまとめ,考察した.また,Fc領域の構造変化のモデルとして強制酸化処理を施したセツキシマブを用いて,各種Fc受容体との相互作用及び免疫エフェクター細胞活性化能について解析を行った結果,酸化処理によりFcγRIIaを介したエフェクター細胞の活性化が減弱する可能性を明らかにした.
4) 血液製剤への核酸増幅検査(NAT)の実施及びその精度管理に関する研究(厚生労働科学研究費補助金)
前年度の調査研究に基づいて血液製剤のNATガイドラインで改定すべき項目等を明らかにした.また,NAT試験法設定においてバリデーションに使用するウイルス標準品等の作製を行った.
5) 抗体医薬品等のバイオ医薬品の合理的開発のための医薬品開発支援技術の確立を目指した研究(保健医療分野における基礎研究推進事業)
①HDX/MS 及びペプシン消化を組み合わせた手法により,血中半減期の異なる抗TNF-α抗体及びFc融合タンパク質のFc領域の高次構造解析を行い,高次構造の差異を明らかにした.
②前年度までに構築したADCC活性測定レポーターアッセイ系を用いることで抗原エピトープの差異を反映したADCC活性の評価が可能であり,抗体医薬品の初期スクリーニングに有用であることを示した.細胞株の安定供給のため発現安定性の高いレポーター細胞株を樹立した.
③抗体の動態評価法として,蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)型の標識抗体及びspectral unmixing法を用いて,in vivoで抗体と分解物を区別してイメージング解析する方法を開発した.
④昨年度に引き続き,選定した2種類のPEI結合カラムについて,さらに複数のウイルス除去及び不純物除去の最適化条件を検討し,その有用性を明らかにした.
6) スーパー特区における薬事上の課題抽出及び対応に向けた調査研究(科学技術戦略推進費)
昨年度に引き続きスーパー特区採択課題者からの薬事相談,並びに分野別意見交換会を通じて,革新的医薬品・医療機器の治験・承認申請における課題を抽出した.
7) 医薬品の活性測定法及び薬理作用評価法に関する研究(政策創薬マッチング研究事業)
①網羅的にキナーゼ阻害活性を測定し,抗腫瘍効果を有する化合物がオーロラキナーゼなどの複数のキナーゼを阻害することを明らかにした.
②オーロラキナーゼ阻害活性が見出された化合物が,ヒト肝癌由来HuH7細胞の細胞周期をG2/M期で停止させることを明らかにした.
8) 高機能性製剤の構成要素としてのタンパク質医薬品の評価に関する研究
高機能性製剤の構成要素となる抗体医薬品について,IgGサブクラス毎のFcγ受容体結合特性の特徴を明らかにした.
9) 新世代ポストゲノム創薬による革新的医薬品の品質・安全性評価技術の構築
タバコBY2細胞を用いて生産したTNFR-Fc融合タンパク質は植物細胞特有の糖鎖修飾をうけること,植物型の糖鎖修飾は抗原結合・中和活性に影響を及ぼさない一方で,Fcγ受容体との結合能及び熱安定性を低下させる可能性を明らかにした.
10) 新興感染症ワクチン等の品質及び有効性評価手法の検討に関する研究(厚生労働科学研究費補助金)
がんワクチンガイドラインに盛り込むべき要素を明らかにするために,NIH臨床試験データベースを中心に,世界各国で実施されている臨床試験においてどのような免疫指標を用いた検討が行われているかを解析した.また既存の抗がん剤における評価指標との関連性についても調査を行い,がんワクチンガイドライン作成のために基礎データを収集した.