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研究概要(2017年度)

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研究概要

平成29年10月末をもって,生物薬品部は,用賀庁舎での業務を終え,11月1日より,川崎庁舎での業務を開始した.平成29年度は,厚生労働省の骨太の方針2017において,「バイオ医薬品及びバイオシミラーの研究開発支援方策等を拡充」「2020年末までにバイオシミラーの品目数倍増を目指す」ことが謳われた他,医薬品産業強化総合戦略~グローバル化を見据えた創薬~において,「国内におけるバイオ医薬品の生産基盤の整備,研究開発力の強化」「バイオ医薬品の開発・製造全体のシステムに精通した人材育成の推進」「バイオ医薬品の生産技術や品質管理手法に関する基盤的な研修プログラムの策定と研修の実施」等が盛り込まれ,国内でのバイオ医薬品の開発と製造の推進に関し,これまでになく多くの関心が集まった.バイオ医薬品の開発・製造を担う人材の育成を目指して,平成29年8月に一般社団法人バイオロジクス・研究トレーニングセンター(BCRET)が設立されたことも,本邦におけるバイオ医薬品の開発と製造の拡充を目指す動きの一つである.
 平成29年には,抗体医薬品を中心に7品目の新有効成分バイオ医薬品と2品目のバイオ後続品が承認された.先駆け審査指定制度の対象品目に新たに4品目のバイオ医薬品が指定される等,アンメットメディカルニーズを満たす医薬品として,バイオ医薬品への期待は益々高まっている.
 生物薬品部では,バイオ医薬品・バイオ後続品の開発支援が活発化する中,臨床有効性・安全性の確保と密接に関連付けた品質リスクマネジメントに資する評価手法の開発を中心に,レギュラトリーサイエンス研究を行った.
 平成29年度からAMED創薬基盤研究事業の新たな課題として,ヒューマンサイエンス振興財団を得て,製薬企業等21社との官民共同研究を開始した.本課題では,バイオ医薬品の品質評価の基盤技術を共同して開発・標準化することで,最新の知見と先端技術を活用して,品質安全性の確保されたバイオ医薬品の開発効率化に貢献することを目指している.先期までの官民共同研究では,糖鎖分析法を中心に官民共同研究を行ってきたが,今期は凝集体評価法を中心とし,糖鎖試験,宿主細胞由来タンパク質試験,バイオアッセイ及びAnalytical QbDを課題とした.平成29年6月29日にキックオフ会議を開催し,日本におけるバイオ医薬品品質評価の基盤技術開発・標準化の取り組みとして海外に情報発信するため,会議録を”Recent Topics of Research in the Characterization and Quality Control of Biopharmaceuticals in Japan”としてまとめ,J Pharm Science誌に投稿,掲載された.AMED医薬品等規制調和・評価研究事業では,改変型抗体医薬品の品質安全性確保に関する研究,及び,バイオ医薬品の免疫原性等安全性評価に関する研究を実施した.
 これらの先端的な研究の他,平成29年度から開始された医薬品等GMP対策事業において,生物薬品部でも収去品の公的試験を定常的に実施することとなり,3品目の試験を実施した.
 平成29年度に生物薬品部から発表された主な論文は,以下の通りである.木吉,多田,原園,橋井,柴田,石井らによる論文”Assessing the Heterogeneity of the Fc-Glycan of a Therapeutic Antibody Using an engineered FcγReceptor IIIa-Immobilized Column”(Sci. Rep. 2018)では,共同開発したFcγRIIIa固定化カラムにより,Fc糖鎖のガラクトース残基数を識別できることを明らかにし,抗体医薬品の新たな分析手法としての有用性を明らかにした.
 柴田,多田,鈴木,石井らによる論文“Comparison of different immunoassay methods to detect human anti-drug antibody using the WHO erythropoietin antibody reference panel for analytes”(J Immunol Methods 2017)では,抗エリスロポエチン抗体国際標準パネルを用い.抗薬物抗体分析に用いられるバイオレイヤー干渉法,表面プラズモン共鳴法,電気化学発光法による分析手法の特徴を明らかにした.
 小林,石井らによる論文”Comparative study of the number of report and time-to-onset of the reported adverse event between the biosimilars and the originator of filgrastim.”
(Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2017)では,欧州で報告されているフィルグラスチムの先行品とバイオシミラーの副作用報告の比較結果を報告した.
 これらの研究活動の他,薬事・食品衛生審議会,及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)における日局改正及び審査業務等に協力した.
 人事面では,平成29年4月1日付けで,青山道彦博士が研究員として採用され,第三室に配属された.
 海外出張は以下の通りであった.石井部長:11th Workshop on Recent Issues in Bioanalysis(米国・ユニバーサルシティ:平成29年4月3 ~7日,口頭発表);ICH EWG会議(カナダ・モントリオール:平成29年5月17日~6月1日,スイス・ジュネーブ:平成29年11月11日~15日);小林主任研究官:International Conference on Pharmacoepidemiology & Therapeutic Risk Management (アイルランド・ダブリン:平成28年8月25~28日);柴田寛子室長:USP 12the Annual International Symposium on Pharmaceutical Reference Standards(米国・ロックビル:平成28年11月3~4日,口頭発表).

研究業績

1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) バイオ医薬品の凝集体/不溶性微粒子試験法の開発と標準化(AMED 創薬基盤推進研究事業)

光遮蔽法(LO)及びフローイメージング法(FI)で複数種類の共通試料を用いた多機関共同測定を実施し,同一機種を使った機関では同様の結果が得られること,透明で複雑な形状の凝集体ほどLOでは検出されにくく,FIの装置間差も大きくなることを明らかにした.

2) 標準的な糖鎖試験法の開発(AMED 創薬基盤推進研究事業)

これまでの検討結果及び文献情報等を基に糖鎖分析手順案を作成した.これまでに,①糖鎖遊離条件,②遊離糖鎖の精製,③2-AB,2-AA及び2-APの誘導体化条件,④誘導体化糖鎖の精製条件,⑤2-AB誘導体化糖鎖の分離条件の妥当性が確認された.

3) 宿主細胞由来タンパク質試験法に関する研究(AMED 創薬基盤推進研究事業)

①日局参考情報・宿主細胞由来タンパク質試験法の原案を作成した. ②宿主細胞由来タンパク質(HCP)試験法の重要試薬である抗HCP抗体の適格性評価手法について,モデルHCP及びモデル抗HCP抗体を用いた実施事例を示すとともに留意点を明らかにした.

4) バイオ医薬品の力価試験法に関する研究(AMED 創薬基盤推進研究事業)

4-パラメータロジスティックモデルを用いた相対力価算出に関し,モデルデータを用いた解析のケーススタディを行った.

5) 改変型抗体医薬品等の構造解析に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

非天然アミノ酸含有低分子化抗体をモデルとして水素重水素交換/質量分析(HDX/MS)分析条件の最適化を行った.また,ペプチドマッピングにより構造解析を行い,酸化されやすい部位の特定を行った.

6) 改変型抗体の長期安定性の予測法の確立(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

低分子化抗体について非天然アミノ酸を導入による熱安定性の低下は無いことを明らかにした.また非天然アミノ酸導入低分子化抗体に対して薬物修飾を行い,抗体薬物複合体を作製した.

7) 改変型抗体医薬品の品質安全性評価に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

国際一般名の公開情報等をもとに,現在開発が進められている改変型抗体医薬品の構造上の特徴を明らかにした.また,これらの改変型抗体医薬品の品質安全性確保の課題を抽出した.

8) Fc受容体固定化カラムを用いた抗体医薬品の特性解析法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

糖鎖改変抗体分子等を用いて,FcγR受容体アフィニティークロマトグラフィー分離パターン及び抗体エフェクター活性との相関を明らかにした.様々な抗体分子を用いて,特性解析法としての本カラムの有用性を評価した.

9) 水素重水素交換/質量分析による糖タンパク質糖鎖-複合体の相互作用解析技術の開発(科学研究補助金)

トロンビン,アンチトロンビン(AT),及びヘパリン類の複合体の相互作用解析を行い,トロンビン及びヘパリン存在下におけるATの高次構造変化を明らかにした.HDX/MSは糖鎖結合を伴うタンパク質間相互作用の解析手法として有用であることを実証した.

2.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) 高速液体クロマトグラフィー/質量分析を用いた高分子薬物濃度測定法に関する研究(AMED 創薬基盤推進研究事業)

2) 免疫原性評価法に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

①抗体医薬品に対する抗薬物抗体測定系において健康人血清を用いて設定したカットポイントに関し,バイオ医薬品非投与患者血清を用いて,その妥当性を確認した. ②キメラ化抗薬物抗体(ヒトIgG1サブクラス)を作製し,抗原との結合特性等を解析すると共に,これらの抗薬物抗体の検出に関し,分析手法(表面プラズモン共鳴法,バイオレイヤー干渉法,電気化学発光法)による違いを明らかにした.

3) 免疫原性予測のための動態解析手法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

マウス新生児型Fc受容体(FcRn)との親和性の異なる抗体や,その抗原抗体複合体をマウスに投与し,改変体の種類により,抗薬物抗体産生量が異なること等を明らかにした.

4) 細胞応答を指標とした抗薬物抗体の評価手法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

リツキシマブに対する抗薬物抗体パネルを用いた解析により、構築した抗体-抗薬物抗体免疫複合体によるFcγ受容体活性化能測定系が,抗薬物抗体の特性解析手法の一つとして有用であることを明らかにした.

5) Pre-existing antibodyに着目した改変型抗体医薬品の安全性予測・評価に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

改変型抗体のモデルとして断片化抗体を用い,正常ヒト血清中におけるpre-existing antibody の存在の有無を測定可能なアッセイ系を構築した.

6) 免疫グロブリン製剤に含まれる凝集体の特性と安全性に関する研究(科学研究費補助金)

免疫グロブリン製剤に含まれる抗体等を試料として,凝集体を形成しやすい抗体分子の特性を明らかにした.

7) 抗体医薬品の有害作用発現に関連するヒト免疫応答メカニズムの解析(科学研究費補助金)

様々な条件により誘導した抗体医薬品凝集体を用いた検討を行い,凝集体の分子サイズと免疫細胞活性化能の関連について明らかにした.

8) 補体活性に着目したバイオ医薬品の凝集体特性と安全性との連関(科学研究費補助金)

Fcγ受容体IIIb発現レポーター細胞株を樹立し,類似の細胞外ドメインを持つFcγ受容体IIIaとの比較解析を中心に,抗体医薬品によって誘導されるFcγ受容体IIIbのシグナル伝達の一部を明らかにした.

9) Fcγ受容体IIIbを介した,抗体医薬品によるヒト好中球活性化機構の解明Fcγ受容体IIIbを介した,抗体医薬品(一般試験研究費)

Fcγ受容体IIIb発現レポーター細胞株を樹立し,類似の細胞外ドメインを持つFcγ受容体IIIaとの比較解析を中心に,抗体医薬品によって誘導されるFcγ受容体IIIbのシグナル伝達の一部を明らかにした.

10) バイオ後続品による有害事象の調査(一般試験研究費)

世界各国におけるバイオ後続品等による有害事象の報告状況を調査した.

11) バイオ医薬品の国内外における有害事象発現状況の調査(一般試験研究費)

インフュージョン関連反応の併用薬等を調査し,インフリキシマブによるインフュージョン関連反応において抗ヒスタミン剤併用例では調整済みオッズ比が有意に高いことを明らかにした.

3.日本薬局方等における生物薬品関連試験法の整備と国際調和に関する研究

1) ヘパリン医薬品の活性試験及び純度試験等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

NMRと主成分分析を組み合わせた手法は,ブタ及びウシ由来など基原の異なるヘパリンナトリウムの構造的特徴を識別するための簡便かつ迅速な解析手法として有用であることを実証した.

2) 日本薬局方の国際化に関する調査研究(医薬品承認審査等推進費)

第十七改正日本薬局方に収載される生物薬品関連の各条,一般試験法,及び参考情報について,適切な英語表記に関する調査を行った.

3) 医薬品品質保証システムの国際的な進歩に対応した日本薬局方改正のための研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

抗体医薬品の日局各条の雛型を作成することを目標に,糖鎖プロファイルと力価試験法の試験方法の記載例を作成した.

4) 生体試料中薬物濃度分析法バリデーションの国際調和に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ICH M10(Bioanalytical Method Validation)Technical Document案の主要項目のうち,適用対象,分析法のバリデーション,実試料分析の記載案を作成した.

5) バイオ医薬品のライフサイクルマネジメントに関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ICH Q12(医薬品のライフサイクルマネジメント)の 運用に関連し,バイオ医薬品の承認申請書における規格及び試験方法の合理化記載案を作成した.

6) タンパク質定量法に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

米国薬局方に収載されたchapter <507> Protein Determination Proceduresの記載内容,及び,米国薬局方及び欧州薬局方の動向について調査した.

7) 日局グルカゴン各条試験法に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

昨年度検討したHPLCを用いた合成グルカゴン定量法について分析法バリデーションを実施し,日局各条試験法として利用可能であることを実証した.

8) 液体クロマトグラフィーを用いた生物薬品の試験における分析条件変更管理等に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

インスリンヒトのペプチドマップ法をモデルとして,G20 クロマトグラフィー案に示された分析条件の調整方法がクロマトグラムに及ぼす影響を確認し,G20 液体クロマトグラフィー案に記載の調整方法はバイオ医薬品の試験に適用する場合においても妥当であることを確認した.

9) 日本薬局方等の医薬品品質公定試験法拡充のための研究開発(一般試験研究費)

バイオ医薬品の品質確保の在り方に関する標準的な考え方を明示するため,日局参考情報「バイオ医薬品の品質確保の基本的考え方」に盛り込むべき項目を明らかにした.

10) インフリキシマブ国際標準品の品質評価に関する研究(一般試験研究費)

インフリキシマブ国際標準品候補品3種類に関して,TNF阻害活性及びTNF結合能に関して相対活性を評価し,測定結果をWHOに報告した.

4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究

1) FcRLの分子認識機構に着目したリガンド探索と機能解析(科学研究費補助金)

表面プラズモン共鳴法を用いたリガンド探索を行った.更に,FcRL分子の安定性を評価したが,非常にどのFcRL分子も安定性が低く,溶液中で不安定であるために,リガンドとの親和性評価が行えない可能性が示唆された.

2) 抗体医薬品の血中半減期延長技術確立を目指したFcRn親和性の基盤研究(科学研究費補助金)

アミノ酸置換によるFcRn親和性改変抗体(アダリムマブ改変体)についてHDX/MS等による解析を行い,アミノ酸置換部位以外の構造の変化と,Fcの機能との関連について明らかにした.

3) 質量分析を用いた糖タンパク質の網羅的な部位特異的糖鎖差異解析手法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

O-結合型糖鎖付加ペプチドの精製・濃縮技術を最適化する一環として,JacalinやMALレクチン等を利用したO-結合型糖鎖付加ペプチドのアフィニティーカラムを作製した.

4) 特殊ペプチドの品質評価手法に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

液体クロマトグラフィー/質量分析による特殊環状ペプチドの構造解析手法を開発した.

5) 特殊ペプチド医薬品の品質安全性評価に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

化学薬品及びバイオ医薬品に関するICH品質ガイドラインを精査し,これまでに運用されてきた品質評価手法に関するギャップ分析を行った.