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研究概要(2016年度)

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研究概要

生物薬品部では,生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の品質・有効性・安全性確保に資するレギュラトリーサイエンス研究を行っている.
 平成28年に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオ医薬品は10品目に上り,うち7品目が抗体医薬品であった.前年度に承認された免疫チェックポイント阻害抗体医薬品について,その高額な薬価が話題となって費用対効果の議論にも発展し,当該品目の薬価改定のみならず,薬価制度の見直しにも波及した.一方で,バイオ後続品に関して,協議会設立や議員連盟の活動,日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会への学会名変更決定,経済財政諮問会議でのバイオ後続品シェア目標への言及等,国内でのバイオ後続品開発・普及の推進に向けた様々な動きも活発化した1年であった.バイオ医薬品・バイオ後続品には,厚生労働省の保健医療2035に掲げられる「より良い医療」を「より安く」の方針どおり,我が国の保健衛生の向上に資する医薬品として,益々の充実が求められていると言えるだろう.
 これらバイオ医薬品の恩恵を安心して受けられるためには,その品質安全性が確保されていることが必要であり,生物薬品部では,これまでに引き続き平成28年度も,先端的分析技術の開発動向や疾病・副作用発現メカニズムに関する最新の知見,製品開発動向等を踏まえ,バイオ医薬品の品質安全性評価技術の開発と標準化に取り組んだ.波及効果が特に大きい成果としては,全てのバイオ医薬品注射剤の規格及び試験方法で設定が求められる不溶性微粒子試験法に関し,米国で認められていた低容量による試験実施が可能であるかを官民共同研究において実験的に検証し,同様の試験法設定が可能であることを確認して,試料の取扱いに関する留意事項と共に新たな試験法原案を作成したことが挙げられる.
 近年,生物薬品部では,技術的課題に重点をおいて研究活動を行ってきたが,平成27年度からAMED研究班においてICH Q12(ライフサイクルマネジメント)に関する国内での議論を支援していた活動に加え,平成28年6月のICHリスボン会合において厚労省からの提案により新規トピックとして採択されたM10(生体試料中薬物濃度分析法バリデーション)の専門家作業部会に参加することとなり,Q5E以降,約10年ぶりにICH活動に直接的に貢献できる体制が整った.今後も,厚生労働省/PMDAとの連携のもと,国際調和活動にも積極的に協力していく所存である.

研究業績

1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) 先端的バイオ医薬品の品質・安全性確保のための評価法開発(AMED 創薬基盤推進研究事業)

  1. カルバミン酸アンモニウムを用いた非還元的アルカリβ脱離によるO-結合型糖鎖試験法は,再現性の高い糖鎖プロファイルを示し,O-結合型糖鎖試験法として有用であることを明らかにした.また,本試験法を規格及び試験方法として用いる際の留意事項を明らかにした.
  2. これまでの検討をもとに,日局「注射剤の不溶性微粒子試験」の低容量化及びタンパク質の取り扱いに対応した「タンパク質医薬品注射剤の不溶性微粒子試験法」案を作成した.
  3. 加熱及び脂肪酸により誘導したタンパク質凝集体を用いて,光遮蔽法及びフローイメージング法の再現性を評価し,装置間及び機関間の違い及び凝集体の特性が計数値に及ぼす影響を明らかにした.
  4. ペプチドマップ,糖鎖プロファイル,サイズ排除クロマトグラフィー及びSDSキャピラリー電気泳動について,代表的なシステム適合性試験の要件と設定例を作成した.
  5. 日局参考情報・宿主細胞由来タンパク質試験法の原案作成に向け,素案を作成するとともに,試験実施上の課題を抽出した.

2) 次世代抗体医薬品等の品質・安全性評価法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

  1. 前年度までに樹立したFcγ受容体発現レポーター細胞株とProtein Lを用いた抗体固相化法を組み合わせることにより,抗体Fc領域を介した免疫細胞の活性化を迅速かつ簡便に評価可能なアッセイ系を構築した.
  2. バイオ医薬品の製造工程で用いられるシングルユース製品に関するリーク試験の必要性,実施方法,有用性を中心に議論し,シングルユースシステムを用いて製造されるバイオ医薬品の品質確保と安定供給のための要件をまとめた.
  3. これまでに最適化した水素重水素交換/質量分析(HDX/MS)により,均一糖鎖構造を有する抗体の高次構造解析を行い,糖鎖構造の差異により高次構造が変化することを明らかにした.

3) 水素重水素交換/質量分析による糖タンパク質-糖鎖複合体の相互作用解析技術の開発(科学研究費補助金(日本学術振興会))

糖タンパク質-糖鎖複合体の相互作用部位解析技術を開発する一環として,HDX/MSにより,AT-UFH,及びAT-LMWHの複合体の相互作用解析を行い,糖鎖結合に伴う高次構造変化の差異を明らかにした.

4) Fc受容体固定化カラムを用いた抗体医薬品の特性解析法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

Fcγ受容体アフィニティークロマトグラフィーによる抗体分子の分離特性を明らかにした,また,糖鎖のFcに対する構造的寄与を明らかにした.

2.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究

1) 先端的バイオ医薬品の品質・安全性確保のための評価法開発(AMED 創薬基盤推進研究事業) 

  1. これまでに最適化したヒト血清中抗体医薬品を分析対象とした液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)による薬物濃度測定方法について,前処理条件の妥当性の検証を行うとともに,複数機関により分析法バリデーションを実施して,実行可能性を確認した.
  2. 抗薬物抗体測定におけるカットポイント設定法を中心に,リガンド結合法を用いた抗薬物抗体測定に関する技術的要件を明らかにした.

2) バイオ医薬品のウイルス安全性に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

バイオ医薬品製造工程で汎用されるウイルス試験として,PCR法と細胞変性試験を取り上げ,信頼性確保の要件を明らかにした.

3) 免疫原性評価法に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

  1. 抗エリスロポエチン抗体パネルを対象に,表面プラズモン共鳴法,バイオレイヤー干渉法,電気化学発光法による抗薬物抗体測定法を構築し,各分析法の特徴を明らかにした.
  2. 抗体医薬品に対する抗薬物抗体分析法を構築し,構築した分析法について妥当性確認(再現性や共存薬物の影響等)とカットポイントの設定を行った.
  3. 抗体医薬品2種(アダリムマブ,インフリキシマブ)に対する抗薬物抗体をラットで作製し,遺伝子配列の決定,キメラ化を行った.

4) 免疫原性予測のための動態解析手法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

マウス新生児型Fc受容体(FcRn)との親和性の異なる抗体数種をマウスに投与し,臓器分布の違いを解析した.また,抗原抗体複合体を形成することによる分布の変化を明らかにした.

5) 細胞応答性を指標とした抗薬物抗体の評価手法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

抗薬物抗体のモデルとして抗CD20抗体リツキシマブを認識するイディオタイプ抗体を作製した.結合親和性及び認識エピトープの異なる抗リツキシマブ抗体を用いて,免疫複合体の分子サイズとFcγ受容体活性化能の相関について明らかにした.

6) 免疫グロブリン製剤に含まれる凝集体の特性と安全性に関する研究(科学研究費補助金)

免疫グロブリン製剤より人為的に生成した凝集体に含まれている抗体の特性解析を行い,凝集体を形成しやすい抗体分子の特徴を明らかにした.

7) 抗体医薬品の薬効発現に影響する因子に関する研究(一般試験研究費)

  1. セツキシマブの細胞増殖抑制作用は,標的がん細胞のガングリオシド量に影響されないこと,グルコシルセラミド合成酵素阻害剤活性を持つことが知られているPDMPのガングリオシド合成阻害以外の作用によって増強されることを明らかにした.
  2. PDMPは,ヒトがん細胞株A431の皮下移植による坦がんモデルマウスにおけるセツキシマブの腫瘍増大抑制作用を増強しないことを明らかにした.

8) 抗体医薬品の有害作用発現に関連するヒト免疫応答メカニズムの解析(科学研究費補助金)

Fc領域の構造の異なる抗体医薬品凝集体による免疫細胞活性化に関する検討を行い,抗体サブクラス等のFc領域の構造の差異により,凝集体によって活性化されるFcγ受容体の種類及び活性化強度が異なることを明らかにした.

9) バイオ後続品による有害事象の調査(一般試験研究費)

日本や欧州におけるフィルグラスチムの後続品について,種々の有害事象の報告割合や,死亡を含む重大転帰の割合,及び初回発現時期等を先行品と比較して、一部の後続品では骨痛の発現時期が先行品よりも有意に早いこと等を明らかにした.

10) バイオ医薬品の国内外における有害事象発現状況の調査(一般試験研究費)

各種の抗体医薬について,世界各国における心不全や心筋梗塞等の症例報告を調査した.インフュージョン関連反応や間質性肺疾患の併用薬等を調査し,多くの抗体医薬品についてはインフュージョン関連反応において抗ヒスタミン剤併用例では粗オッズ比が有意に高いことを明らかにした.

3.日本薬局方等における生物薬品関連試験法の整備と国際調和に関する研究

1) ヘパリン医薬品の活性試験及び純度試験等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

日局ヘパリンカルシウム各条に,日局一般試験法 核磁気共鳴スペクトル測定法<2.21>を適用した確認試験を設定するため,当該試験法の特異性等を確認し,ヘパリンカルシウム原薬のロット分析等を行い,当該確認試験法としての妥当性を確認した.

2) 日本薬局方等の医薬品品質公定試験法拡充のための研究開発(一般試験研究費)

日局収載生物薬品の品質確保の在り方を明示するため,生物薬品の定義,特徴,品質評価・管理の要件をまとめた生物薬品総則の素案を作成した.

3) 医薬品品質保証システムの国際的な進歩に対応した日本薬局方改正のための研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

抗体医薬品の日局各条の雛型を作成することを目標に,抗体医薬品各条における試験項目と想定される規格の一覧を作成した.また,ペプチドマップを用いた確認試験,及び,サイズ排除クロマトグラフィーを用いた順と試験に関し,標準的な試験方法に基づくクロマトグラムを取得した.

4) 宿主細胞由来タンパク質の試験法に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

日局参考情報として宿主細胞由来タンパク質試験法を収載する際の骨子について整理し,米国薬局方及び欧州薬局方に収載された試験法と対比させた結果,相違が無いことを確認した.

5) 日本薬局方糖鎖試験法の国際調和に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

代表的な操作手順案の作成を目的に,抗体医薬品,ウシリボヌクレアーゼB及びヒトα1酸性糖タンパク質を用いて,2-AB誘導体化並びにamino HILIC/FL法及びamide HILIC/FL法の各工程の操作手順の再現性を確認した.

6) 日本薬局方の国際化に関する調査研究(医薬品承認審査等推進費)

第十七改正日本薬局方に収載される生物薬品関連の各条,一般試験法,及び参考情報について,適切な英語表記に関する調査を行った.

7) 日局グルカゴン各条試験法に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

合成グルカゴンの定量法を,動物を用いた生物学的定量試験法からHPLCを用いた試験法に変更するため,HPLCによる試験条件を設定した.

8) 液体クロマトグラフィーを用いた生物薬品の試験における分析条件変更管理等に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

システム適合性を満たす範囲でHPLCの条件を変更可能な範囲の検討材料として,インスリン ペプチドマップを選定し,検討を開始した.

9) 生体試料中薬物濃度分析法バリデーションの国際調和に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

医薬品規制調和国際会議(ICH)にて新たに採択されたトピックM10(Bioanalytical Method Validation)に関し,Concept Paper及びBusiness Planを作成した.また,ガイドラインの目次と本文に関する草案を作成した.

10)リツキシマブ国際標準品の品質評価に関する研究(一般試験研究費)

リツキシマブ国際標準品候補品3ロットについて,ADCC活性,CDC活性,抗原発現細胞への結合性の三点に関して相対活性を評価し,測定結果をWHOに報告した.

11) バイオ医薬品のライフサイクルマネジメントに関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ICH Q12(医薬品のライフサイクルマネジメント)に関し,バイオ医薬品関連の課題に対する科学的側面からの提案をまとめるため,ウイルス不活化工程,陰イオン交換クロマトグラフィー工程,及び,細胞応答性試験を用いた力価試験に関し,Established Conditionsの具体例を提案した.

4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究

1) 新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品の品質・安全性確保に関する研究(AMED 創薬基盤推進研究事業)

トランスジェニックカイコを用いて製造されるバイオ医薬品の品質リスクマネジメントの考え方を明らかにした.

2) 医薬品の力価測定法に関する研究(AMED創薬基盤推進研究事業)

  1. ヒト カプサイシン受容体TRPV1を安定発現するヒト神経芽腫細胞株を樹立し,疼痛抑制作用の力価測定法を確立した.
  2. MDCK細胞を用いたウイルス感染評価法について,抗インフルエンザウイルス作用の力価測定法としての有用性を確認した.

3) FcRLの分子認識機構に着目したリガンド探索と機能解析(科学研究費補助金)

表面プラズモン共鳴法を用いて,FcRLに結合するリガンド探索を行った.各FcRLに対するIgGサブクラスの結合は確認できなかった.

4) 抗体医薬品の血中半減期延長技術確立を目指したFcRn親和性の基盤研究(科学研究費補助金)

FcRn親和性の解析方法として表面プラズモン共鳴法とELISAを用いた場合の解析結果の違い,FcRn親和性を改変するためのアミノ酸置換に対するFab部分の影響,FcRn親和性改変が抗体の構造に及ぼす影響について明らかにした.

5) 質量分析を用いた糖タンパク質の網羅的な部位特異的糖鎖差異解析手法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

衝突誘起解離(CID),高エネルギー衝突解離(HCD),及び電子移動解離(ETD)を利用したLC/MSによるO-結合型糖鎖付加ペプチド解析手法の最適化を行い,Fc融合タンパク質の意図しないO糖鎖修飾を明らかにした.