国立医薬品食品衛生研究所 National Institute of Health Sciences
生物薬品部 Division of Biological Chemistry and Biologicals













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 バイオ医薬品と免疫原性に関する情報

 ● 免疫原性とは?
 ● バイオ医薬品における免疫原性の発生率
 ● 免疫原性がバイオ医薬品の有効性・安全性に及ぼす影響
 ● 免疫原性に関するガイドライン
 ● 抗体の検出方法
 ● 抗体の検出アッセイの注意点
 ● 中和抗体のアッセイ(準備中)
 ● 免疫原性の原因となる因子(準備中)
 ● より詳細な情報(参考となる総説)




免疫原性とは?
 一般的に、抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質を免疫原性と呼びます。バイオ医薬品は、タンパク質でできている医薬品であるため、バイオ医薬品に対する抗体が誘導される可能性があります。抗体が誘導されることで様々な問題が生じることもあるため、バイオ医薬品の品質を確保するためは、免疫原性について十分に理解し、評価することが重要です。


バイオ医薬品における免疫原性の発生率
 1980年代に導入された組換えDNA技術を用いて生産されたバイオ医薬品は様々な疾患の治療に有効であり、医薬品に革命をもたらしました。現在、日本では、86種類のバイオ医薬品が医療現場に提供されています。半数以上のバイオ医薬品はヒトが本来産生するタンパク質と同じアミノ酸配列を持ちます。このような製品では、抗体が産生されないことが期待されていました。しかし、予想に反してこれらの製品でも抗体産生が誘導されることがあります。
 抗体の発生頻度は製品により異なりますが、例えば、国内臨床試験において、ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤(ゾレア皮下注)では、0%、抗ヒトTNFモノクローナル抗体製剤(レミケード点滴静注)では、6.1〜29.7%(対象疾患で異なる)、ファブリー病治療薬(ファラザイム点滴静注)では、85%であることが報告されています(各医薬品のインタビューフォームより)。

免疫原性がバイオ医薬品の有効性・安全性に及ぼす影響
 バイオ医薬品に対する抗体が誘導されても、有効性や安全性において問題とならない場合がほとんどです。しかし、稀ではありますが、下記のような有効性が低下した事例や有害な反応を引き起こした事例が報告されています。
● 欧州において、インターフェロンベータの中和抗体(活性を打ち消すタイプの抗体)が誘導され、抗体価が高かった患者さんで治療効果が低下した (1, 2)
● 1998年以降、欧州において、エポエチンアルファの中和抗体の誘導により、患者さん自身の内在性タンパク質(エリスロポエチン)が働かなくなり、赤芽球癆(赤血球の減少により起こる再生不良性貧血の1つ)が増加した (3, 4)。添加剤のポリソルベート80によって製剤容器から溶け出した物質がアジュバント(免疫原性を高める物質)となったことが発生原因のひとつであることが明らかとなり、その後、容器などが改善されたため、赤芽球癆は減少した(5)
 (1) Sorensen, P.S., et al., Neurology, 67 (9), 1681-3 (2006)
 (2) Hesse, D., et al., Eur. J. Neurol., 14 (8), 850-9 (2007)
 (3) Casadevall, N., et al., N. Engl. J. Med., 346 (7), 469-75 (2002)
 (4) Gershon, S.K., et al., N. Eng. J. Med., 346 (20), 1584-6 (2002)
 (5) Locatelli F., et al., Perit. Dial. Int., 27 (Suppl2), S303-7 (2006)

免疫原性に関するガイドライン
● 米国のガイドライン
 Guidance for Industry Assay Development for Immunogenicity Testing of Therapeutic Proteins. (2009)
  PDF
● 欧州のガイドライン
 Guideline on immunogenicity assessment of biotechnology-derived therapeutic proteins.
  EMEA/CHMP/BMWP/14327/2006 (2006)  PDF
 Guideline on immunogenicity assessment of monoclonal antibodies intended for in vivo clinical use.
  EMA/CHMP/BMWP/86289/2010 (2010) PDF


抗体の検出方法
抗体を検出するために、様々な方法が用いられます。それぞれ長所及び短所があり、単一の方法では不十分なので、いくつかの方法を併用することが必要です。以下に、代表的な検出方法を示します。
測定法 操作 長所 短所
直接ELISA 抗原をプレートに固定し、これに抗体を含む血清サンプルを加え、さらに酵素標識したヤギ抗ヒトIgG抗体のような二次抗体を結合させる。基質を加え、酵素反応による発色等により検出する。 @短時間で測定できる。
A多くのサンプルを一度に測定できる。
B感度が高く操作が容易。
@免疫グロブリンの非特異的な抗原への結合によりバックグラウンドが高くなる可能性がある。
A結合親和性の低い抗体は洗浄中に除かれ検出されない可能性がある。
B種特異的な二次抗体が必要。
ブリッジングELISA 酵素標識二次抗体の代わりに酵素標識抗原を用いる以外は、直接ELISAと同じ。 @短時間で測定できる。
A多くのサンプルを一度に測定できる。B感度が高く操作が容易。
B種特異的な二次抗体を必要としない。
C直接ELISAに比べて特異性が高い。
@2種類の抗原コンジュゲートが必要。
A抗原をラベリングすることにより抗原が変化するかエピトープが遮蔽される可能性がある。
BIgG4は検出できない。
C結合親和性の低い抗体は洗浄中に除かれ検出されない可能性がある。
放射免疫沈降法 溶液中で抗体と放射能標識した抗原を結合させ、その複合体をプロテインAあるいはプロテインGを固定化したビーズと結合させ、ビーズの放射能のカウントを測定する。 @ELISAほどではないが、多くのサンプルを一度に測定できる。
A感度及び特異性が高い。
@プロテインAはIgG3とIgM、プロテインGはIgMを結合できないため検出できない。
A放射性物質を取り扱う施設が必要。
Bバイオ医薬品が抗体医薬品の場合は測定できない。
表面プラズモン共鳴 センサーチップに固定した抗原を結合させ、それに結合した抗体の質量増加分をシグナルとして検出する。 @自動化が可能。
A低親和性の抗体でも検出できる。
B抗体のアイソタイプを決定できる。
C検出試薬が不必要。
@抗原のチップへの固定化により高次構造が変化する可能性がある。
A再生過程で抗原が変性・分解する可能性がある。
B感度はELISA法に劣る。


抗体の検出アッセイの注意点
抗体の有無・量がが正確に測定されていることが重要
● マトリックス効果
抗体の抗原に対する結合は様々な因子より妨害される可能性があります。その代表的なものは、マトリックス(サンプルに含まれる目的とする抗体以外の成分及びバイオ医薬品)です。通常サンプルとして用いる血清には、多量のマトリックス(血清タンパク質及び脂質)が含まれています。マトリックスによる干渉は、バイオ医薬品が投与された患者の抗体の結合アッセイを妨害する可能性の高いマトリックスを含むサンプル及びバイオ医薬品が投与されていない結合アッセイを妨害する可能性の低いマトリックスを含むサンプルに陽性コントロール抗体を添加し、前者で測定した抗体価を後者で測定した抗体価で割り、回収率を求めることにより評価できます。通常回収率の差が20%以内であれば許容範囲と考えられます。
● アッセイの妨害因子
サンプル中にバイオ医薬品が含まれている場合、結合アッセイにおいて固定した抗原であるバイオ医薬品との結合を競合するため、結合アッセイを妨害する可能性があります。バイオ医薬品が抗体の結合アッセイを妨害するかどうかは、サンプルにバイオ医薬品がどれだけ含まれるかに依存するため、できるだけバイオ医薬品が体内から排出されてからサンプルとなる血液を採取する必要があります。バイオ医薬品の妨害の程度は、一定濃度の陽性コントロールに各種濃度のバイオ医薬品を添加した後にアッセイすることで評価できます。また、抗体とバイオ医薬品の複合体を酸処理で解離させた後に結合アッセイを行うことで、バイオ医薬品が混在していても測定可能な測定法も開発されています。
● 偽陽性
検出系によっては、様々な要因で偽陽性が生じることがあるため、注意が必要です。例えば、VEGFやTNFαを標的とした抗体医薬品などでは、ブリッジングELISA及び表面プラズモン共鳴法による検出では、固定化した抗原(抗体医薬品)に標的タンパク質(VEGF)が結合するため、抗体が産生されていなくても陽性と判定されてしまいます。したがって、サンプルにおける標的タンパク質の濃度を定量すると共に、陰性サンプルに標的タンパク質の濃度を変えて添加するなどして、サンプルに含まれる標的タンパク質による影響を評価しておく必要があります。
適切なカットオフポイントが設定されていることが重要
カットオフポイントとは、陽性あるいは陰性を判断する境界値で、カットオフポイントより高値の場合は陽性、低値の場合は陰性と判定します。真の陽性患者をできるだけ見逃さないようにするには、偽陽性に基づいてカットオフポイントを設定する必要があります。カットオフポイントは、バイオ医薬品未投与で可能であれば標的疾患の患者から得られたサンプルを解析し設定することが望まれます。このようなサンプルを得ることが困難な場合、健常者からのサンプルも使用できます。測定値の分布が正常な分布曲線と合致する場合、バイオ医薬品未投与群の全てのサンプル試験の結果の平均値に標準偏差の1.645倍を加えた値をカットオフポイントとして定義します。この設定により、バイオ医薬品未投与群の5%が統計的に擬陽性となります。最終的には、結合アッセイ系にバイオ医薬品を添加して固定化した抗原に対する競合実験を行うことで、擬陽性の出現率を少なくすることが可能です。

より詳細な情報(参考となる総説)
● バイオ医薬品の免疫原性の原因について
   新見伸吾、原島 瑞、日向昌司、山口照英、「治療用タンパク質の免疫原性 その1」
   医薬品研究、40 (11)、703-715 (2009)
● バイオ医薬品の免疫原性の予測方法について
   新見伸吾、原島 瑞、日向昌司、山口照英、「治療用タンパク質の免疫原性 その2」
   医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス、41 (5)、390-400 (2010)
● バイオ医薬品の免疫原性の測定方法について
   新見伸吾、原島 瑞、日向昌司、川崎ナナ、「治療用タンパク質の免疫原性 その3」
   医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス、41 (9)、726-735 (2010)

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