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研究概要(2014年度)

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研究概要

悪性腫瘍や免疫性疾患等の様々な疾患治療におけるバイオ医薬品の貢献は大きく,未だ有効な治療法のない疾患に適応される新たなバイオ医薬品開発の進展と実用化に大きな期待が寄せられている.申請・承認されるバイオ医薬品の品目数は年々増加傾向にあり,平成26年度は 11品目の新有効成分含有バイオ医薬品が承認された.これらの中には,非天然型の構造を有する融合タンパク質医薬品や修飾タンパク質医薬品,免疫チェックポイント阻害抗体医薬品のように従来のバイオ医薬品とは異なる特性を有する品目も含まれており,これらの先端的なバイオ医薬品の品質・有効性・安全性確保に資する評価研究の重要性が高まっている.加えて平成26年度には,我が国で初めて抗体医薬品のバイオ後続品が承認されており,特許期間の満了に伴い今後ますますの申請品目数の増加が見込まれるバイオ後続品の品質評価に関する研究の実施が求められている.このような現状を踏まえ生物薬品部は,バイオ医薬品等の開発促進と審査の迅速化に資する研究として,バイオ医薬品等の品質・有効性・安全性評価に関する生化学的研究,並びに,先端的バイオ医薬品等の早期実用化に向けたレギュラトリーサイエンス研究を実施している.

平成26年度は,バイオ医薬品等の品質評価に関する研究として,糖タンパク質医薬品等の試験的製造,構造・物理的化学的性質,生物活性,免疫化学的性質,不純物,及び感染性因子に関する評価技術の開発と標準化を行った.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究として,抗体医薬品の薬理作用及び体内動態評価法に関する研究,及びバイオ医薬品の薬剤疫学研究等を行った.また,ヘパリン製剤の規格及び試験方法の策定を含む高分子生理活性医薬品等の品質評価に関する研究を実施した.さらに,革新的医薬品開発支援に資する研究として,新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品,及び高度改変タンパク質医薬品等の品質・安全性評価に関する研究,ウイルス等感染性因子の安全性評価に関する研究等を実施した.

研究業績

1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) 先端的バイオ医薬品の品質・安全性確保のための評価法開発(創薬基盤推進研究事業)

  1. バイオ医薬品のパラメータ管理,及び工程内管理手法に関する研究の一環として,液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を用いた分子変化体評価のためのプロセス分析工学手法を開発した.
  2. 粒子径60 nm~10 µmの標準粒子を用いて,光遮蔽,フローイメージング,レーザー回折及び動的光散乱法の分析能(真度,直線性,範囲)の比較を行い,粒子径毎に適した分析法を確認した.
  3. 光遮蔽法によるポリスチレン標準粒子の測定を複数の試料容量で実施し,注射剤の不溶性微粒子試験法の低容量化に必要な課題を明らかにした.
  4. 各種バイオ医薬品の品質試験におけるシステム適合性の例(案)の一覧を作成した.

2) 医薬品の品質,有効性及び安全性確保のための規制の国際調和の推進に係わる研究(厚生労働科学研究費補助金)

  1. 新規なタイプのバイオ医薬品のための新しいINN命名ルールやルールの変更などについて調査し,既存の命名ルールとの違いなどについて考察した.
  2. 血中抗体医薬品の糖鎖不均一性解析技術を開発する一環として,CDスペクトル及びHDX/MS解析により,これまでに開発した抗体親和性ペプチドの二次構造,及び抗体との相互作用部位を明らかにした.
  3. 日米欧におけるバイオ後続品/バイオシミラーの製品開発及びガイドライン整備の動向を調査し,日本のバイオ後続品指針における課題を考察した.
  4. 遺伝子治療薬の臨床開発開始までに実施すべき非臨床試験のありかたについて調査を行った.またカルタヘナ法の適用と海外で求められている環境への影響評価についての類似性と異なる点について比較した.

3) 水素/重水素交換反応及び質量分析法(HDX/MS)による糖タンパク質の高次構造解析技術の開発(科学研究費補助金(日本学術振興会))

HDX/MSにより,抗TNF-α抗体とTNF-αの相互作用解析を行い,抗TNF-α抗体のエピトープを特定すると共に,相互作用に伴い,TNF-αの構造内部にも変化が生じることを明らかにした.

4) 医薬品の製造・品質管理の高度化と国際化に対応した日本薬局方の改正のための研究(厚生労働科学研究費補助金)

第十六改正日局第二追補に収載されている各条ヘパリン定量法に関して,トロンビン等の試薬の変化により,反応液の吸光度が低く,直線性が試験成立条件外となるケースがあることが報告されたことを受け,緊急の対策として,流通しているトロンビン,及び,アンチトロンビンより日局収載試験法で良好な定量が可能なロット選定を行った.

5) バイオ後続品の品質評価等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

薬審第243号及び薬審1第10号通知の現状に合わせた問題点を整理し,これらの内容を反映した新しい通知案として「バイオテクノロジー応用医薬品(バイオ医薬品)の承認申請の区分及び承認申請に必要な添付資料の作成方法について」を作成した.

6) 次世代抗体医薬品等の品質・安全性評価法の開発(厚生労働科学研究費委託費)

  1. 改変型抗体医薬品のモデルとしてアミノ酸配列改変型抗体の試験的製造を行うとともに,Fcγ受容体発現レポーター細胞を用いたFcγ受容体活性化評価系,及び,ヒト末梢血単核球を用いたサイトカイン放出評価系の改変型抗体医薬品の薬理作用・免疫作用の評価系としての有用性を明らかにした.
  2. HDX/MS により,トランスジェニックカイコ由来糖鎖改変型抗CD20抗体,及びCHO細胞由来抗CD20抗体医薬品のHDX/MS解析を行い,糖鎖改変に伴う高次構造変化を明らかにした.
  3. 次世代抗体医薬品の製造におけるシングルユースシステムの利用が,製造される医薬品の品質と安定供給に及ぼすリスクとリスク低減策を明らかにした.
  4. 改変型抗体の動態解析法として,FRET型標識体を用いて分解の程度を解析するためのacceptor photobleaching法の解析条件を最適化した.

2.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究

1) 膜結合型TNF-αとの複合体形成に着目した抗TNF-α抗体医薬品の生物学的特性解析(科学研究費補助金(日本学術振興会))

抗TNF-α抗体医薬品の複合体形成能の差異がアゴニスト活性の発揮に及ぼす影響を明らかにした.

2) 薬物結合抗体の動態関連分子結合性が細胞内・体内動態に及ぼす影響の解明(科学研究費補助金(日本学術振興会))

表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いた,抗原(HER2,EGFR)結合性の評価法を構築した.また,化合物をチオール基に結合させたADCモデルを作製し,動態関連受容体結合性を解析した.

3) バイオ医薬品のバイオアナリシス分析法バリデーションに関する研究(厚生労働科学研究費補助金)

  1. バイオ医薬品の生体試料中濃度分析において標準的手法として用いられているリガンド結合法に関して,バリデーション及び実試料における信頼性確保の要件を明らかにし,「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法(リガンド結合法)のバリデーションに関するガイドライン」を作成した.
  2. LC/MSを用いたタンパク質等高分子医薬品の生体試料中薬物濃度分析に求められる分析能パラメータを明らかにした.

4) 抗体医薬品の構造特性・機能及び免疫原性と新規Fc受容体DC-SIGNの関連に関する研究(科学研究費補助金(日本学術振興会))

SPR法を用いて,シアル酸高付加型IgG等の結合性を評価した.

5) 治験対象バイオ医薬品の品質・安全性に関する研究

抗体医薬品治験薬の品質安全性評価の要件を明らかにした.

6) バイオ医薬品の薬剤疫学的研究

トラスツズマブによる心不全,及びベバシズマブによる消化管穿孔の臨床試験における初回発現時期について文献を用いて調査した結果,いずれも公開データベースを用いて得られた市販後における初回発現時期よりも早い傾向にあり,追跡期間が短いことなどによると考えられた.

7) 免疫グロブリン製剤に含まれる凝集体の特性と安全性に関する研究(科学研究費補助金(日本学術振興会))

製造工程の異なる各種ヒト免疫グロブリン製剤について定量的レーザー回折による凝集体測定及び糖鎖解析を行い,各製剤の特徴を明らかにした.

8) 非組換え生物薬品(NRBCD)の品質安全性評価法の開発(厚生労働科学研究費委託費)

  1. トロンビン及びアンチトロンビンの濃度を限定しないヘパリン定量法を開発した.空試験液の反応液の吸光度が2.0以下,ヘパリン標準液S4の反応液の吸光度が0.2以上1.0以下と設定することで,良好な直線性が得られることを明らかにした.
  2. ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン製剤として複数の製剤が存在しているが,それぞれの製剤の特徴は不明である.そこで,タンパク質定量,ELISAによるFSH,LH及びhCG定量を実施したところ,各製剤はそれぞれ異なる特徴を持つことが明らかになり,これらの方法が恒常性を担保する上で有用であることが示された.
  3. 日局に収載されている非組換え生物薬品の各条及び各条試験法の現状を整理し,既存及び今後開発されるNRBCDの品質安全性確保の課題を考察した.

9) 個別化医療に向けた抗体医薬品の標的分子の糖鎖構造と薬効・体内動態の関係の解明(科学研究費補助金(日本学術振興会))

  1. 膜糖タンパク質の部位特異的糖鎖構造解析法を開発し,ヒト上皮様細胞癌由来細胞株に発現しているEGF受容体の糖鎖構造を明らかにした.
  2. 抗体医薬品セツキシマブの標的タンパク質EGFRとの結合性に対し,ガングリオシドが抑制的に作用する可能性を示した.

3.高分子生理活性医薬品の品質に関する研究

1) ヘパリン医薬品の活性試験及び純度試験等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

  1. 第十七改正日本薬局方収載に向け,ヘパリンナトリウム各条及びヘパリンカルシウム各条定量法のパブリックコメント案を作
  2. 昨年度検討した日局一般試験法<2.23>原子吸光光度法によるナトリウム定量試験により,原薬ロット分析を行い,日局各条ヘパリンナトリウムのナトリウム定量試験として適用可能であることを確認した.

2) グリコサミノグリカン類の特性解析技術の開発(科学研究費補助金(文部科学省))

  1. 前年度開発したアセトン沈殿法を用いて,ヒト胎児線維芽細胞の膜・ER・リソソーム等に発現している糖タンパク質の糖鎖を明らかにした.
  2. 関節リウマチ患者由来の抗シトルリン化ペプチド抗体の糖鎖不均一性の解析を行い,結合糖鎖のパターンを明らかにした.

4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究

1) 新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品の品質・安全性確保に関する研究(創薬基盤推進研究事業)

トランスジェニックカイコを用いて製造されたTNFR-Fcの特性解析を行い,CHO細胞で製造されたTNFR-Fcとの糖鎖構造の相違を明らかにした.

2) ウイルス等感染性因子安全性評価に関する研究(厚生労働科学研究費補助金)

  1. 細胞表面に発現したウイルス受容体を指標とした細胞組織加工製品のウイルス感受性評価手法を開発する一環として,昨年度開発したレセプトーム解析技術を用いて,ヒトiPS細胞のウイルス受容体解析を行い,12種類のウイルス受容体関連分子を同定した.
  2. 細胞組織加工製品及びバイオ医薬品のウイルス安全性について感染リスク要因を検討し,ウイルス安全性確保に向けたリスクマネジメントケーススタディを行った.
  3. バイオ医薬品の異常プリオン検出法の評価を行った.
  4. 前年度に引き続き,異常プリオンの細胞感染系について,工程評価のためのスパイク材料としての有用性がある点,さらにin vivo感染系との相関性の考え方についてまとめた.
  5. 細胞組織加工製品製造に使われる細胞ストックやフィーダー細胞の安全性確保を目指して,次世代シークエンサーによる実用可能な新規試験法のためのパイプラインを樹立した.

3) 革新的医薬品の開発環境整備を目指したレギュラトリーサイエンス研究(厚生労働科学研究費補助金)

SPR法を用いた解析により,IgGサブクラスの異なる抗体を含む種々の抗体について,ヒト,非ヒト霊長類,及びマウスFcγ受容体結合性の差異を明らかにし,改変型抗体医薬品等の非臨床試験における留意事項の一部を明らかにした.また,ラクトフェリンFc融合タンパク質の特性解析を行い,FcRn及びFcγ受容体結合性,ならびに,Fcγ受容体活性化能に関する特徴を明らかにした.

4) 抗体医薬品等のバイオ医薬品の合理的開発のための医薬品開発支援技術の確立を目指した研究(保健医療分野における基礎研究推進事業)

  1. 抗体医薬品の凝集体形成メカニズムを明らかにすることを目的として,撹拌ストレスを加えた複数の抗体医薬品についてHDX/MS を行い,凝集体形成に関係する領域(hot spot)を特定した.抗体により異なる hot spot が存在することが明らかとなった.
  2. 種々の改変型抗体を用いた検討により,独自に構築した評価系が抗体医薬品候補クローンの選別や抗体骨格の選定に有用であることを明らかにした.
  3. 蛍光共鳴エネルギー遷移型標識法とspectral unmixing解析法を組み合わせた動態評価法を用いて,新生児型Fc受容体(FcRn)結合性の異なる既承認抗体医薬品やその改変体等の動態解析を行い,FcRn親和性が抗体の臓器分布に影響を及ぼすことを明らかにした.

5) Claudinを標的とした創薬基盤技術の開発(厚生労働科学研究費補助金)

抗Claudin-1抗体による抗腫瘍活性発揮の薬理作用メカニズムの解析と抗体骨格の最適化を目的として,9種類の改変型抗体発現ベクターを作製した.このうちADCC活性の増減を意図した改変型抗体を用いて,in vitroおよびin vivoでの生物活性評価を実施し,抗Claudin-1抗体の抗腫瘍活性の発揮においてはADCC活性が主要な役割を果たすことを明らかにした.

6) がんワクチン等の品質及び有効性評価手法の検討に関するレギュラトリーサイエンス研究(厚生労働科学研究費補助金)

がんワクチンの初期臨床試験における考慮事項について,特に免疫応答の評価法や免役応答と臨床効果との相関性をどのように評価するべきかについてガイドライン案をまとめた.また,抗原として用いられる抗イデオタイプ抗体の品質評価の要件についてもまとめた.

7) 医薬品の力価測定法に関する研究(創薬基盤推進研究事業)

多様な薬効を有する医薬品をモデルとし,疼痛抑制作用を指標とした力価試験法の設定における留意点について検討した.