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研究概要(2013年度)

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研究概要

バイオ医薬品の開発には、新たな治療法の提供、QOLの向上、医薬品産業の活性化など,様々な期待が込められている.近年のバイオ医薬品開発の戦略は,新規な標的や作用機序をもつ画期的・革新的バイオ医薬品(ファースト・イン・クラス医薬品)や既存の標的・作用機序に新たな価値を付与した医薬品(ベスト・イン・クラス医薬品,バイオベター),及び低価格化が期待されるバイオ後続品(バイオシミラー)の3つに集約されている.平成25年度は,2品目の抗体薬物複合体を含む5品目の新有効成分含有バイオ医薬品と,第5番目のバイオ後続品が承認された.一方で,バイオ医薬品の開発と製造において,クオリティ・バイ・デザインに代表される新しい概念や技術が導入されるようになってきており,新たな品質評価・管理技術の開発や標準化,及び国際協力の重要性が増している。このような現状をふまえ生物薬品部は,バイオ医薬品等の開発促進と審査の迅速化に資する研究として,バイオ医薬品等の品質・有効性・安全性評価に関する生化学的研究,並びに,先端的バイオ医薬品等の早期実用化に向けたレギュラトリーサイエンス研究を実施している. 

平成25年度は,バイオ医薬品等の品質評価に関する研究として,糖タンパク質医薬品等の試験的製造,構造・物理的化学的性質,生物活性,免疫化学的性質,不純物,及び感染性因子に関する評価技術の開発と標準化を行った.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究として,抗体医薬品の薬理作用及び体内動態評価法に関する研究,免疫原性評価法の標準化,及びインターフェロン製剤の薬剤疫学研究等を行った.また,ヘパリン製剤の規格及び試験方法の策定を含む高分子生理活性医薬品等の品質評価に関する研究を実施した.さらに,革新的医薬品開発支援に資する研究として,トランスジェニック植物・昆虫由来タンパク質医薬品,及び高度改変タンパク質医薬品等の品質・安全性評価に関する研究,ウイルス等感染性因子の安全性評価に関する研究を実施した.

研究業績

1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) バイオ医薬品の合理的品質管理技術及び安全性評価手法の開発と標準化(創薬基盤推進研究事業)

  1. バイオ医薬品のパラメータ管理,及び工程内管理手法に関する研究の一環として,液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を用いた分子変化体評価のためのプロセス分析工学手法を開発した.
  2. 多機関共同研究にてグリコフォーム分析の検討を行い,試験に必要な要件を明らかにした.APTS誘導体化法及びCE/FLを用いた中性糖鎖の標準的糖鎖試験法を作成した.また,HPLC及びCE/FLを用いた酸性糖鎖の標準的糖鎖試験法を作成した.これまでの検討を基に,日本薬局方 糖鎖試験法草案を作成した.
  3. 抗体医薬品等の結合性試験に用いられる競合ELISAを対象とし,①良好な結果を得るための試験デザイン及びデータ解析手法,②各試験デザインで適した試験成立条件を明らかにした.また,日局参考情報 ELISA案を作成した.
  4. 日局参考情報 表面プラズモン共鳴法のパブリックコメント案を作成した.
  5. バイオ医薬品製造工程で,バイオリアクター汚染を引き起こしたことのあるマウス微小ウイルスの広い感染宿主域を明らかにした.また細胞種によってその感染増殖性に大きな差があることがわかった.

2) 医薬品の品質,有効性及び安全性確保のための規制の国際調和の推進に係わる研究(厚生労働科学研究費補助金)

  1. 昨年度開発した抗体親和性ペプチド固定化ゲルを充填したスピンカラムを作製し,血漿試料から一部の抗体医薬品を回収できることを確認した.
  2. ショットガンプロテオミクスの手法により,プロテインAカラム工程の精製分画に特定の宿主細胞由来タンパク質(HCP)が残留することが明らかになり,質量分析法で管理すべきHCP種のリスト作成に有用であることを確認した.また,抗HCP抗体を用いたELISAによる定量法を開発した.
  3. バイオ後続品のガイドライン,及び,製品開発に関する国際的動向を明らかにした.また,バイオ後続品に臨床評価で必須となる薬物動態の評価法に関して,用いられる分析法の種類,特徴と分析結果の信頼性確保のための課題を明らかにした.
  4. 免疫原性が有効性及び安全性に及ぼす影響として,PKの低下を伴う有効性の低下,Ⅰ型アレルギー(過敏症),Ⅲ型アレルギー,インフュージョン反応,バイオ医薬品に対する内在性タンパク質の中和による自己免疫疾患があることを明らかにした.
  5. 遺伝子治療Regulators Forum等を通じ,被験者の長期フォローアップ(LTF)体制について海外規制当局と情報を共有し、わが国のLTFのあり方について考えをまとめた.

3) 水素/重水素交換反応及び質量分析法(HDX/MS)による糖タンパク質の高次構造解析技術の開発(科学研究費補助金(日本学術振興会))

HDX/MSにより抗TNF-α抗体とTNF-αの相互作用解析を行い,抗TNF-α抗体との結合に伴い,TNF-αの高次構造が変化する可能性を見出した.

4) 医薬品の製造・品質管理の高度化と国際化に対応した日本薬局方の改正のための研究(厚生労働科学研究費補助金)

日局ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン各条の改訂が必要とされていることから,市販製剤に含まれる不純物の解析を行った.多数のタンパク質が含まれていること,製品間でばらつきが大きいこと,卵胞刺激ホルモン(FSH)及び黄体形成ホルモン(LH)以外にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)も含まれていることを見出した.LH活性のバイオアッセイをELISA等の試験に置き換えるには,LHとhCGの両方を試験項目とする必要があることが示唆された.

5) バイオ後続品の品質評価等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

  1. バイオ医薬品の承認申請資料等の改正に係る検討会議を開催し,薬審第243号及び薬審1第10号の現状に照らし合わせた問題点の抽出と整理を行うとともに,改訂案の作成に着手した.
  2. インスリン製剤中の添加剤がインスリン多量体安定性に及ぼす影響を明らかにするために,HDX/MSにより,アルギニンを添加したインスリン製剤の多量体安定性を評価した.その結果,アルギニンを添加することにより,多量体安定性が低下することが明らかとなった.

2.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究

1) 免疫原性評価手法の開発と標準化(創薬基盤推進研究事業)

抗モデル抗体医薬品抗体を構築された免疫原性評価法により測定した結果,感度及び精度が良好でマトリックスの干渉を受けにくいことが示された.また,スクリーニングCut Point及び特異性Cut Pointを設定した.

2) 膜結合型TNF-αとの複合体形成に着目した抗TNF-α抗体医薬品の生物学的特性解析(科学研究費補助金(日本学術振興会))

独自に樹立した膜結合型TNF-α発現細胞株を標的として,抗TNF-α抗体医薬品のアゴニスト活性によるアポトーシス誘導測定系を構築し,各種抗体医薬品のアゴニスト活性の比較に着手した.

3) 薬物結合抗体の動態関連分子結合性が細胞内・体内動態に及ぼす影響の解明(科学研究費補助金(日本学術振興会))

抗体薬物複合体(ADC)モデルとして蛍光色素を結合させた抗HER2抗体を用い,抗原発現細胞への取り込み、細胞内での経時的分解を観察する方法を確立した.

4) バイオ医薬品のバイオアナリシス分析法バリデーションに関する研究(厚生労働科学研究費補助金)

リガンド結合法を用いた生体試料中薬物濃度分析法のバリデーション及び実試料分析の信頼性確保の要件を明らかにし,ガイドラインのパブリックコメント案を作成した.

5) 抗体医薬品によるインフュージョン反応の発現メカニズム解析と予測系の構築(科学研究費補助金(日本学術振興会))

これまでに構築したヒト末梢血単核球からのサイトカイン放出測定系を活用し,IgGサブクラスの異なる抗体医薬品によって誘導される炎症性サイトカインの差異を明らかにした.

6) 抗体医薬品の構造特性・機能及び免疫原性と新規Fc受容体DC-SIGNの関連に関する研究(科学研究費補助金(日本学術振興会))

表面プラズモン共鳴法を用いたDC-SIGN結合性評価系を構築し,シアル酸高付加型IgGの結合性を評価した.

7) 治験対象バイオ医薬品の品質・安全性に関する研究

ヒト特異性の高い治験対象バイオ医薬品の安全性予測法に関する研究の一環として,抗体医薬品をモデルとして,in vitro生物活性試験法を用いた推定最小薬理作用量(MABEL)の算出方法について考察した.

8) バイオ医薬品の薬剤疫学的研究

公開データベースにより,トラスツズマブの投与開始から心不全発現までの日数はベバシズマブ等に比較して長いこと,ベバシズマブの投与開始から消化管穿孔発現までの日数はトシリズマブに比較して短いこと等を明らかにした.

3.高分子生理活性医薬品の品質に関する研究

1) ヘパリン医薬品の活性試験及び純度試験等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

  1. 日局ヘパリンナトリウム各条及びヘパリンカルシウム各条定量法の第十六改正第二追補収載案を策定した.
  2. 日局ヘパリンナトリウム各条及びヘパリンカルシウム各条抗第Xa因子活性・抗第IIa因子活性比の第十六改正第二追補収載案を策定した.
  3. 日局ヘパリンナトリウム注射液各条定量法の第十六改正第二追補収載案を策定した.
  4. 日局ヘパリンナトリウム各条エンドトキシン試験法のパブリックコメントを作成した.
  5. 日局一般試験法<2.23>原子吸光光度法によるナトリウム定量試験が日局ヘパリンナトリウム各条に適用できることを確認した.
  6. 三局ヘパリンナトリウム各条の改正状況の調査により,日局ヘパリンナトリウム各条において「ナトリウム定量試験」等の設定が必要であることを明らかにし,日局ヘパリンナトリウム各条の今後の検討課題を整理した.
  7. ヘパリンナトリウム標準品を使用する日局収載品及び試験項目の調査により,ヘパリンナトリウム標準品の品質評価において,プロタミン硫酸塩各条及びプロタミン硫酸塩注射液各条における「ヘパリン結合性試験」への適合性の確認が必要であることを明らかにし,ヘパリンナトリウム標準品品質標準に関する課題を整理した.

2) グリコサミノグリカン類の特性解析技術の開発(科学研究費補助金(文部科学省))

  1. グアニジン塩酸法及びアセトン濃縮法を用いた生体微量糖タンパク質の糖鎖解析法を開発し,GluA1及びA2などの糖鎖構造を明らかにした.
  2. 昨年度までに検討したLC/MSによるグリコサミノグリカン解析技術を用いてαジストログリカンのO-結合型糖鎖解析を行い,Thr379にO-マンノース型糖鎖が付加していることを明らかにした.

4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究

1) 新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品の品質・安全性確保に関する研究(創薬基盤推進研究事業)

トランスジェニック(Tg)カイコ由来の抗CD20抗体の特性解析により,Tgカイコ由来抗体に付加するN-結合型糖鎖の大部分がアフコシル化糖鎖であり,還元末端にガラクトースが付加しないこと,これによりCHO細胞由来の抗体と比較して著しい抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性の増強と補体依存性細胞傷害(CDC)活性の低下が認められることを明らかにした.

2) ウイルス等感染性因子安全性評価に関する研究(厚生労働科学研究費補助金)

  1. 前年度リスト化したウイルスのリスク分析を行った.特に,妊娠可能性のある女性が患者の場合,胎児等への感染リスクが高いとの報告があるウイルスについて,文献調査によりリスクの大きさを推定した.
  2. ビオチン化とストレプトアビジンを利用した細胞表面タンパク質の濃縮法とプロテオミクスの手法を組み合わせることで,効率良く細胞表面に分布するウイルス受容体を回収し,ウイルス受容体の検出効率を高めることができることを明らかにした.
  3. ヒトiPS細胞のウイルス感染性を明らかにするためにRNAウイルスを中心に感染増殖の有無を調べた.その結果ポリオウイルス,シンドビスウイルスが感染増殖することがわかった.
  4. 経口弱毒性生ヒトロタウイルスワクチンへのporcine circovirusの迷入事例における対応を調査することにより,バイオ医薬品にウイルス迷入が判明した場合の安全性の評価手法を検討し,WHOにより示されたリスク評価のディシジョンツリーの有用性を明らかにした.
  5. 異常プリオン検出のための細胞感染系について,欧米の規制動向を調査した.その結果,インビボ系の代替となる手法が開発されつつあり,今後の医薬品への異常プリオン混入のリスク評価に有用であることが明らかになった.

3) 革新的医薬品の開発環境整備を目指したレギュラトリーサイエンス研究(厚生労働科学研究費補助金)

改変型抗体医薬品の分子設計について,薬理作用・体内動態・免疫原性・製剤化・製造工程を考慮して,留意すべき事項をまとめた.また,表面プラズモン共鳴法を用いて,Fcγ受容体結合親和性プロファイリングに適した評価法を構築し,IgG1抗体に関して,抗体医薬品の非臨床評価において課題となるFcγ受容体結合親和性の種差を解析した.

4) 血液製剤への核酸増幅検査(NAT)の実施及びその精度管理に関する研究(厚生労働科学研究費補助金)

NATガイドラインの発出を受け,ガイドラインに沿った試験実施における注意点について整理を行った.またNATの評価に用いる参照ウイルスパネルの整備を行った.

5) 抗体医薬品等のバイオ医薬品の合理的開発のための医薬品開発支援技術の確立を目指した研究(保健医療分野における基礎研究推進事業)

  1. 抗体医薬品の凝集体形成メカニズムを明らかにすることを目的として,撹拌ストレスにより凝集体を形成させた抗体医薬品についてHDX/MS を行い,対照の抗体医薬品との比較により,凝集体形成への関係が示唆される領域を特定した.
  2. 製造方法の異なる抗CD20抗体を用いた実験の結果,構築したADCC活性測定レポーターアッセイ系は,抗体Fc領域のN-結合型糖鎖のα1,6-フコース含量に依存したADCC活性の差異を迅速かつ簡便に評価可能であり,糖鎖構造改変によるADCC活性の増強を目的とした抗体医薬品のスクリーニング及び特性解析に有用であることを明らかにした.
  3. 蛍光共鳴エネルギー遷移型標識法とspectral unmixing解析法の組み合わせにより,抗体の腫瘍や臓器分布を未切断体と切断体に区別して定量出来ることを明らかにした.本解析法を用いて,FcRn結合性の異なる抗体医薬品等の臓器分布解析を開始した.

6) スーパー特区における薬事上の課題抽出及び対応に向けた調査研究(科学技術戦略推進費)

スーパー特区研究のフォローアップとして,引き続き革新的医薬品・医療機器の治験・承認申請における課題を抽出し,その対応を考察した.

7) Claudinを標的とした創薬基盤技術の開発(厚生労働科学研究費補助金)

マウスあるいはラットハイブリドーマ由来の抗体医薬品候補クローンについて Fcγ受容体活性化能を指標としたスクリーニングを実施し,得られたクローンをヒトIgG骨格を有するキメラ抗体に変換した際のADCC活性を評価した.

8) 医薬品の活性測定法及び薬理作用評価法に関する研究(創薬基盤推進研究事業)

  1. 鎮痛作用が予想された化合物及び医薬品を用い,培養神経細胞の神経突起伸長作用及びホルマリン疼痛モデルマウスにおける疼痛関連行動時間を指標とした評価手法の有用性と留意点を確認した.
  2. 抗インフルエンザ作用を有すると予想されている医薬品を用い,インフルエンザウイルスによるMDCK細胞のプラーク形成を指標とした評価手法の有用性と留意点を確認した.

9) がんワクチン等の品質及び有効性評価手法の検討に関するレギュラトリーサイエンス研究(厚生労働科学研究費補助金)

治験プロトコルの詳細な解析に基づいて,対象疾患ごとにガイドラインに取り上げるべき要素を明らかにした.また,品質要件について考察した.