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トラスツズマブ(遺伝子組換え)


【一般名】
トラスツズマブ(遺伝子組換え)
Trastuzumab(genetical recombination)

【解説】
ヒトIgG1に由来するフレーム構造領域及びマウスモノクローナル抗HER2抗体の相補的抗原認識領域を含むヒト化モノクローナル抗体組換えDNA の導入により、チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生される214 個のアミノ酸残基(C
1032H1603N277O335S6:分子量:23,443.14)の軽鎖2分子と449 個のアミノ酸残基(C2192H3387N583O671S16:分子量:49,156.59)の重鎖2分子からなる 糖タンパク質(分子量:148,000)である。

【分子量】
148,000

【剤形】
凍結乾燥注射剤

【性状】
白色~微黄色の塊

【投与経路】
点滴静注

【主な効能または効果】
・HER2過剰発現が確認された転移性乳癌
・HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法

【薬効薬理】
ヒト癌遺伝子HER2/neu(c-erbB-2)の遺伝子産物であるHER2蛋白は、ヒト上皮増殖因子受容体ファミリーに属する増殖因子受容体であり、その細胞質側にチロシンキナーゼ活性領域を有する分子量約185 kDaの膜貫通型蛋白質である。ヒト乳癌細胞において、HER2の高発現が認められているものもある。HER2遺伝子を導入しHER2蛋白が高発現したヒト乳癌細胞MCF7では、親株に比べ腫瘍増殖速度の亢進が観察されている。

抗腫瘍効果
HER2高発現のヌードマウス可移植性ヒト乳癌(MCF7-HER2、BT-474(細胞当たりのHER2レセプター数=1.0×10
6))及び卵巣癌(CAOV3-HER2)に対し抗腫瘍効果が認められた。
MCF- 7-HER2、CAOV3-HER2に対しては、総投与量3~100 mg/kg(3回投与)の範囲で用量依存的に増殖抑制効果を示した。一方、BT- 474に対しては、1日投与量0.1~30 mg/kg(8~10回投与)の範囲で用量依存的に増殖抑制効果を示し、1mg/kg以上の高用量投与群では腫瘍の完全退縮も観察された。
(注)承認された効能・効果は、HER2過剰発現が確認された転移性乳癌、HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法である。

作用機序
本薬はHER2に特異的に結合した後、NK細胞、単球を作用細胞とした抗体依存性細胞障害作用(ADCC)により抗腫瘍効果を発揮する。ヒトInterleukin-2で処理したヒト末梢血単核球を作用細胞として、Na
51CrO4で予めラベルした下記の標的細胞を作用細胞:標的細胞=25:1、12.5:1、6.25:1、3.13:1の比率で混合し、0.1 μg/mLのトラスツズマブを添加し、4時間培養した(37℃、5%CO2)。chrome release assayによりADCC活性を測定した。

・ヒト乳腺上皮細胞184A1株(HER2発現レベル=0.3)
・ヒト乳癌細胞MCF7株(HER2発現レベル=1.2)
・ヒト大腸癌細胞COLO201株(HER2発現レベル=8.3)
・ヒト胃癌細胞MKN7株(HER2発現レベル=16.7)
・ヒト乳癌細胞SK-BR-3株(HER2発現レベル=33.0)

(注)ヒト乳腺上皮細胞184株のHER2発現レベルを1.0としたときの相対値
(注)承認された効能・効果は、HER2過剰発現が確認された転移性乳癌、HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法である。

その結果、いずれの作用細胞:標的細胞比率においても、細胞障害活性とHER2発現レベルの間には高い相関が認められ(作用細胞:標的細胞=25:1、12.5:1、6.25:1、3.13:1の時、それぞれR
2=0.93、0.92、0.87、0.66)、トラスツズマブはHER2高発現細胞に、より強い細胞障害活性を発揮することが示された。
また、ヒト乳癌細胞SK-BR-3(HER2高レベル発現株(細胞当たりのHER2レセプター数=9.0×10
5))及びMCF7(HER2低レベル発現株(細胞当たりのHER2レセプター数=2.2×104)) を本薬150 μg/mLの存在、非存在下で1日あるいは5日間培養した後、細胞のHER2数を求めたところ、いずれの細胞でもHER2のレベルが低下した。この結果より、HER2分子数を低下させることにより細胞増殖シグナルが低減し、その結果本薬が直接的に細胞増殖を抑制するとの機序も考えられる。
ただし、HER2低発現の腫瘍株(MCF7)では、in vitroの試験において、トラスツズマブ惹起のADCC活性は極めて微弱であり、また、直接的な細胞増殖抑制作用(トラスツズマブのマウス親抗体である4D5を用いて行われた)は認められなかった。


<情報は全てハーセプチン注射用添付文書および医薬品インタビューフォームより>