薬剤反応性遺伝子解析プロジェクトの概要


医薬品に対する患者の反応性(薬剤反応性; 薬物応答性)、すなわち薬剤の効果や副作用の発現の程度には、著しい個体差が認められる場合があります。このような個体差の原因の一つとして、薬剤反応性を規定する薬物動態関連分子や薬物標的分子の遺伝子の多型が考えられます。本プロジェクトは、薬剤反応性の個体差の原因となる一塩基多型(SNP)等の遺伝子多型を明らかにし、テーラーメイド投薬(患者個別化薬物治療)に応用することを目的とし、平成12年度から平成16年度にかけて行われました。本プロジェクトでは、国立がんセンター、国立循環器病センター、国立精神・神経センター、国立成育医療センター、国立国際医療センター等と共同して、薬剤投与後の患者さんの血液から得られるDNAや血漿等を用いて、遺伝子解析及び薬物動態(PK)解析を行い、薬効や副作用のでかたと遺伝子多型との相関を検討し、下記の成果を得ております(詳しくは、研究業績をご参照下さい)。なお、本プロジェクト研究の内容の一部は、継続的なプロジェクトである薬物応答予測プロジェクトに引き継がれました。

[薬剤別の研究計画と目的]

抗癌剤に関する研究: イリノテカン、 タキサン系抗癌剤、 5-FU系抗癌剤、 ゲムシタビン

循環器病薬に関する研究: 抗不整脈薬、 b-遮断薬

抗てんかん薬に関する研究

ステロイド薬に関する研究

糖尿病薬に関する研究

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[年度別報告]

平成12年度

平成12年度においては、本プロジェクトの遂行に必要とされる研究体制や施設設備の整備、研究倫理審査委員会への申請及び承認取得等を行った。研究内容としては、対象薬剤の代謝動態や作用に関連するタンパク質をコードする遺伝子約20種類を対象として、全エクソン及びプロモータ領域の塩基配列の決定法を確立し、また、限られた量のDNAの解析を効率よく行うために、必要DNA量の低減化を検討した。日本人由来樹立培養細胞株約100株由来のDNAを利用し、SNPの検出を開始した。解析の結果、約100種の新規SNPを検出した。また同時に、遺伝子異型に基づくタンパク質機能変化を検討するために、タンパク質発現系の構築を開始し、哺乳動物細胞発現系を用いて異型酵素タンパク質を発現させ、機能変化を検討した。さらに、薬剤および代謝物の血中濃度の解析を高速液体クロマトグラフィーで行うための分析条件の確立を、イリノテカン、テガフール、ドセタキセルについて行った。また、インビトロ代謝系により、イリノテカンについては、CYP3A4により新規代謝物が生成されること、及び代謝物SN-38のグルクロン酸抱合体の生成に、UGT1A1の他に、UGT1A9の寄与がありうることを明らかにした。また、抗癌剤テガフールについては、CYP2A6が抗腫瘍活性発現に直接関与していることを明らかにした。

 平成13年度

平成13年度においては、継続して、研究倫理審査委員会への申請及び承認取得を行った。遺伝子多型解析に関しては、新たに薬剤反応性遺伝子を追加して、塩基配列の決定条件を確立した。また、薬物動態(PK)解析としては、カルバマゼピン、ゲムシタビン、パクリタキセル及び対象薬物に含まれる添加物等の分析条件を確立した。また、インビトロ代謝系により、イリノテカン及びその代謝物のCYP3A4に及ぼす作用、テガフールの代謝活性化を担う酵素の同定、メキシレチンのタンパク質付加体に関与するP450酵素の同定等を行った。さらに、平成13年度より、臨床検体に関する多型解析及びPK解析を本格的に開始した。
 多型解析に関しては、薬物動態関連遺伝子を中心に、約30の遺伝子を解析対象として、全エクソン及びプロモーター領域のシーケンシングにより、新規多型の検出を行った。一部の遺伝子に関しては、PCR等を用いるタイピングも併せて行った。平成13年度末における検出SNPの総数は、約380種であり、そのうち、アミノ酸置換を伴うものが約80種で、48種が新規であった。また、前年度に引き続き、異型遺伝子の機能解析を行うための哺乳動物細胞発現系の構築を行い、CYP2C8、CYP3A4、NR3C1等の遺伝子に関して、機能変化を伴うSNPを同定した。

平成14年度

 臨床検体に関する多型解析及びPK解析を継続した。薬剤としては、抗癌剤であるイリノテカン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、抗不整脈薬であるアミオダロン、メキシレチン、抗てんかん薬であるカルバマゼピン、ステロイド薬であるプロピオン酸ベクロメタゾン等を主たる対象とした。多型解析に関しては、約30種の遺伝子を主たる解析対象として、全エクソン及びプロモーター領域のシーケンシングにより、新規多型の検出を行った。一部の遺伝子に関しては、PCR-RFLP、パイロシーケンシング法、TaqMan PCR法、MALDI-TOF-MSによるタイピングも併せて検討した。
 平成14年度末における検出SNPは、約600種であり、新規アミノ酸置換を伴うSNPとしては、約50種を検出した。さらに、得られたSNPを利用することにより、薬剤反応性遺伝子に関して、日本人の詳細な遺伝子型(ハプロタイプ)の同定・分類が可能となった。得られたハプロタイプとPK指標異常との相関解析を進め、既に薬物動態異常の原因となりうるハプロタイプを複数明らかにした。
 平行して、アミノ酸置換SNPに関しては、インビトロ発現系を用いて、異型遺伝子がコードするタンパク質の機能変化の有無を検討した。その結果、約15種の機能変化をもたらす変異を同定した。

平成15年度

 継続して、臨床検体に関する多型解析及びPK解析を行った。薬剤としては、抗癌剤であるイリノテカン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、抗不整脈薬であるアミオダロン、メキシレチン、フレカイニド等、b-遮断薬であるカルベジロール等、抗てんかん薬であるカルバマゼピン、ステロイド薬であるプロピオン酸ベクロメタゾン、デキサメタゾンを主たる対象とした。多型解析に関しては、CYP1A2、CYP2C8、CYP2C9、CYP2D6、CYP3A4、CYP3A5、UGT1A1、UGT1A7、UGT1A8、UGT1A9、UGT1A10、CES2、DPYD、EPHX1、TYMS、CDA、DCK、ABCB1、ABCC2、ABCC3、ABCG2、NR1I2、NR1I3、NR3C1、AHR、SLC22A1、SLC22A2、SLC29A1、SCN5A等の遺伝子を主たる解析対象として、全エクソン及びプロモーター領域等のシーケンシングにより、新規多型の検出を継続した。一部の遺伝子に関しては、PCR-RFLP、パイロシーケンシング法、TaqMan PCR法によるタイピングも行った。
 平成15年度末における検出SNPは、約850種であり、新規アミノ酸置換を伴うSNPとしては、約70種を検出した。また、ハプロタイプの同定・分類を継続し、得られたハプロタイプとPK指標異常等との相関解析を進め、薬物動態異常の原因となりうるハプロタイプをさらに複数明らかにした。また並行して、アミノ酸置換SNPに関して、異型遺伝子がコードするタンパク質の機能変化の有無をインビトロ発現系を用いて検討し、累計約30種の機能変化をもたらす変異を同定した。

平成16年度 (最終年度)

 継続して、臨床検体に関する多型解析及びPK解析を行い、PK異常及び副作用等の臨床情報との相関解析を行った。
 平成16年度末において
検出された多型は累計約1,100種であり、約110種のアミノ酸置換を伴うSNPが検出された。得られた多型を利用する日本人の詳細な遺伝子型(ハプロタイプ)の同定・分類を継続し、累計約35の遺伝子のハプロタイプの同定を行った。また、得られたハプロタイプとPKパラメータ異常及び臨床情報との相関解析を継続し、薬物動態異常または副作用発現と相関する複数のハプロタイプを明らかにした。同時に、アミノ酸置換を伴うSNPに関しては、異型遺伝子cDNAのインビトロ発現系を用いて機能変化の有無を検討し、累計約45種の機能変化を伴う遺伝子多型を同定した。また、薬物動態変化及び機能変化に関与する重要な遺伝子多型に関しては、包括的なタイピング法の確立も行った。

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更新日: 2005年10月1
国立医薬品食品衛生研究所 薬物応答予測プロジェクトチーム