抗 癌 剤 に 関 す る 研 究 : ゲ ム シ タ ビ ン


 本研究は、国立がんセンターとの共同研究である。
 塩酸ゲムシタビン(以下、ゲムシタビン)は代謝拮抗剤に分類され、適用しうる抗がん剤が少なかった非小細胞肺癌細胞に用いられる有望な薬剤である。本薬は癌細胞内で三リン酸化物に代謝され、DNA合成を阻害する。構造的にはAra-Cと類似しているが、デオキシシチジンキナーゼによるリン酸化効率の良さ、リボヌクレオチドリダクターゼを抑制することによるデオキシシチジン三リン酸濃度の低下等、Ara-Cにはない特性を有する。その主な副作用は、骨髄抑制、発熱、疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐などであり、骨髄抑制、特に白血球数減少、好中球数減少、血小板数減少が投与量規制因子となっている。ゲムシタビンは基本的に外来での投与が可能な抗がん剤であり、これらの副作用は比較的軽度なことが多いが、まれに骨髄抑制を始めとする副作用が原因で重篤な病態を呈することがある。それらの副作用の発現には個人差があり、現時点では治療前に副作用を予測することは難しい。
 ゲムシタビンはトランスポータSLC29A1/ENT1により細胞内に取り込まれた後、デオキシシチジンキナーゼ (DCK) によりリン酸化され、活性型ヌクレオチドであるゲムシタビン二リン酸およびゲムシタビン三リン酸に変換される。これらの活性型ヌクレオチドはDNAに取り込まれ、細胞死を引き起こす。ゲムシタビンヌクレオチドの不活性化体はゲムシタビンウラシル体(dFdU)であり、ゲムシタビン一リン酸からdCMPデアミナーゼにより脱アミノ化されてdFdUになる経路が存在する。また、ゲムシタビン二リン酸は、デオキシヌクレオシド三リン酸合成系酵素であるリボヌクレオチドリダクターゼを抑制し、細胞内のデオキシシチジン三リン酸濃度の低下により、DCKによるゲムシタビンのリン酸化が増強されることが知られている。
 本研究では、ゲムシタビンの代謝及び薬理作用に関連する分子の遺伝子多型を明らかにし、有害事象(副作用)や抗腫瘍効果への影響を明確にする。



更新日: 2002年9月15日
国立医薬品食品衛生研究所 薬剤反応性遺伝子解析プロジェクトチーム