抗 癌 剤 に 関 す る 研 究 : イ リ ノ テ カ ン


 本研究は、国立がんセンターとの共同研究である。
 イリノテカンは本邦で開発されたカンプトテシン誘導体で、がん細胞のトポイソメラーゼIを抑制することにより強い抗腫瘍効果を示す。国内では、大腸がんや肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、胃がん、乳がん、悪性リンパ腫等に適用される薬剤で、今日のがん臨床で広く用いられている極めて有望な抗がん剤である。しかし、時にイリノテカンによる治療で高度な下痢がおこり、致命的となる場合もある。その原因を究明し、予防法を確立する研究が行われているが、重篤な下痢が起こる患者の予測は難しいとされる。薬物の吸収、分布、代謝あるいは排泄に関与する分子の遺伝子の違いによって、薬物の血中濃度や体内分布(薬物動態)に個人差が生じ、有害事象(副作用)発現等の生体反応にも個人差が生じてくることはよく知られている。イリノテカンについても、これら薬物動態関連分子の遺伝子多型と薬物動態学的パラメーターの相関を明らかにすることが必要とされる。
 本薬は一種のプロドラッグであり、肝カルボキシルエステラーゼ等により、活性代謝物SN-38に変換される。一方、原薬であるイリノテカンは肝チトクロームP450酵素CYP3A4やCYP3A5で解毒的代謝を受ける。またSN-38はUDP-グルクロン酸転移酵素分子種UGT1A1等で抱合代謝をうけて不活化される。さらに、SN-38のグルクロン酸抱合体(SN-38G)は、胆汁排泄により腸管へと排泄されるが、その輸送にはABCC2/cMOAT/MRP2が関与することが明らかにされている。また、原薬イリノテカンは、P糖蛋白(ABCB1/MDR1)により、活性代謝物SN-38はcMOAT(ABCC2/ MRP2)により、それぞれ胆汁中に排泄される。
 以上のように、本薬の薬物動態は種々の複合的要因により決定されているものと予想される。これらの酵素あるいは膜輸送タンパクの機能の個人差が、薬物動態の個人差を引き起こし、副作用の原因となっている可能性が大きいが、種々の動態関連分子の副作用発現への寄与の大きさについては、不明な点が多い。
イリノテカン及びその代謝物の代謝・排泄に関与する酵素や膜輸送タンパク等の活性の個人差の一部は、それぞれの分子をコードする遺伝子の一塩基多型(SNPs)等に起因すると考えられる。
 本研究では、イリノテカン及びその代謝物の血中濃度と薬物動態関連遺伝子の多型との相関を解析する。患者個別化薬物治療の実現に向けて、イリノテカンに対する薬物応答を担う分子の同定、及びそれらの遺伝子多型と薬効や副作用との相関を明らかにしたい。

 

 

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更新日: 2002年9月14日
国立医薬品食品衛生研究所 薬剤反応性遺伝子解析プロジェクトチーム