抗てんかん薬に関する研究: カルバマゼピン、バルプロ酸等


 本研究は、国立精神・神経センターとの共同研究である。
 カルバマゼピンは精神運動発作の第一選択薬であり、単純および複雑部分発作にも有効である。その作用は過剰なナトリウム活動電位の抑制であり、本薬はナトリウムチャンネル阻害剤である。副作用としては、薬疹、肝障害、骨髄抑制等が報告されており、これらは薬物血中濃度の過度の上昇および体内における薬物代謝経路のバランス等が関与していると考えられる。本薬は体内において、まず活性化体でもあるエポキシ体に変化した後、不活性化体であるジオール体へ代謝される。この過程に関与する薬物代謝酵素(CYP3A4、CYP3A5、CYP2C8、EPHX1等)およびその転写制御因子、および標的分子であるナトリウムチャンネル(SCN2A等)等、カルバマゼピンの薬効や副作用発現に関係する分子の遺伝子多型を同定する。PK解析としては、原薬、10,11-エポキシド体、ジオール体等の血漿レベルを測定している。テーラーメイド投薬の実現を目標に、これら遺伝子多型と血中濃度等のPK指標・副作用等の臨床情報との相関を明らかにしたい。

 バルプロ酸は、大発作や欠神発作および混合発作等の各種てんかんの治療に用いられており、特に欠神発作、特発性強直間代発作等では第一選択薬である。その作用は抑制性神経であるGABA系の作用増強と考えられている。副作用として重要なのは、肝障害であり、その発症には4-ene体等が関与していると考えられている。本薬では、解毒代謝に関与するACADM、CYP4B1、および4-ene体等の生成に関与するCYP2C9、CYP2A6等の薬物代謝酵素およびその転写制御因子、およびGABA受容体等や標的分子として考えられているALDH5A1等を対象としている。PK解析としては、原薬、4-ene体、3-酸化体等の血漿レベルを測定している。これら遺伝子多型と血中濃度等のPK指標・副作用等の臨床情報との相関を明らかとし、テーラーメイド投薬の実現を目指したい。

 フェニトインは大発作および部分発作に有効でる。その作用は過剰なナトリウム活動電位の抑制であり、本薬はナトリウムチャンネル阻害剤である。副作用としては、薬疹、眼振等が報告されており、これらは薬物血中濃度の過度の上昇および体内における薬物代謝経路のバランス等が関与していると考えられる。本薬の解毒代謝に関与する薬物代謝酵素(CYP2C9、CYP2C19等)およびその転写制御因子、および標的分子であるナトリウムチャンネル(SCN2A等)等、フェニトインの薬効や副作用発現に関係する分子の遺伝子多型を同定する。PK解析としては、原薬、水酸化体等の血漿レベルを測定している。これら遺伝子多型と血中濃度等のPK指標・副作用等の臨床情報との相関を明らかとし、テーラーメイド投薬の実現に資する。また、薬疹発症患者では主要組織適合性抗原(HLA)の解析も行う予定である。
 その他に、併用薬として使用されるフェノバルビタール、クロナゼパム等も解析対象とする予定である。

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更新日: 2002年8月30日
国立医薬品食品衛生研究所 薬剤反応性遺伝子解析プロジェクトチーム