■ プロチオホス 検査マニュアル
固相抽出-GC/MSによる分析法(別添方法25)
1.対象物質
ここで対象とする農薬はプロチオホスである.プロチオホスは脂溶性が高いため,実験器具等に吸着されやすいことから,酸性下で固相抽出を行い,GC/MS法によってプロチオホスを測定する.
2.試薬
- (1) 精製水
- 測定対象成分を含まないもの
- (2) メタノール
- 測定対象成分を含まないもの
- (3) ジクロロメタン
- 測定対象成分を含まないもの
- (4) アセトン
- 測定対象成分を含まないもの
- (5) アスコルビン酸ナトリウム
- 測定対象成分を含まないもの
- (6) 1mol/L塩酸
- 濃塩酸を精製水で希釈して,1mol/L塩酸水溶液としたもの.
測定対象成分を含まないもの. ※塩化水素濃度35%以上の濃塩酸を使用する. - (7) 内部標準原液
- 9-ブロモアントラセンの0.100 gを,メタノール10 mLを入れた別々の100 mLメスフラスコに採り,メタノールで定容したもの(9-ブロモアントラセン1,000 mg/L).
これらの溶液は,調製後直ちに冷却しながら1~2 mLのアンプルに小分けし,封入して冷凍保存する. - (8) 内部標準液
- 内部標準原液の一定量をメスフラスコに採り,メタノールで薄めたもの.
この溶液は,使用の都度調製する. - (9) プロチオホス標準原液
- プロチオホス0.100 gを100 mLメスフラスコに採り,アセトンを加えて定容したもの(1,000 mg/L).この溶液1mLにはプロチオホス1mg含む.
この溶液は,調製後直ちに冷却しながら1~2 mLのアンプルに小分けし,封入して冷凍保存する. - (10) プロチオホス標準液
- プロチオホス標準原液の一定量をメスフラスコに採り,ジクロロメタンまたはメタノールで100倍に薄めたもの.
この溶液1mLはプロチオホス0.01mg含む.
この溶液は,使用の都度調製する.
3.器具および装置
- (1) 試料瓶
- 容量500~1000 mLのガラス容器で,ポリテトラフルオロエチレン張りのキャップをしたもの.
- (2) 固相カラム
- Sep-Pak Plus PS-2(265 mg,Waters社製),Oasis HLB Plus(225 mg,Waters社製)のもの.
- (3) オートサンプラー用サンプル瓶
- ガラス製(2.0mL,スクリューキャップ)で不活性化処理をしたもの.
- (4) ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS測定条件については表1を参照)
- ア.分離カラム
- 内径0.20~0.53 mm,長さ30~60mの溶融シリカ製のキャピラリーカラムで,内面に5%フェニル-95%ジメチルポリシロキサンを0.1~0.25μmの厚さに被覆したもの又はこれと同等以上の分離性能を有するもの.
- イ.分離カラムの温度
- 対象物質の最適分離条件に設定できるもの.
- ウ.検出器
- 選択イオン測定(SIM)又はこれと同等以上の性能を有するもの.
- エ.イオン化電圧
- 電子イオン化法(EI法)で,イオン化電圧を70 Vにしたもの.
- オ.キャリアーガス
- 純度99.999%(v/v)以上のヘリウムガスと同程度の感度が得られるもの.
項目 | 設定値 |
---|---|
注入口温度 | 200℃ |
注入法 | スプリットレス法 |
カラム | DB-5MS(30 m×0.25 mm×0.25 μm,J&W社) |
昇温条件 | 40℃(3min)→25℃/min→125℃→10℃/min→280℃(8.1min) |
カラムガス流量 | 1.0 mL/min |
AUX温度 | 250℃ |
イオン化法 | EI法 |
モニターイオン(m/z) | プロチオホス:267(定量イオン),281(確認イオン) 9-ブロモアントラセン(内部標準物質):258 |
4. 試料の採取および保存
試料は,アセトン及び精製水で洗浄したガラス瓶に泡立てないように採取し,満水にして直ちに密栓し,速やかに試験する.速やかに試験できない場合は,冷暗所に保存する.
なお,残留塩素が含まれている場合には,試料1 Lに対してアスコルビン酸ナトリウム10~20 mgを加える.
5. 試験操作
- (1) 前処理
- 水試料500mLを,ジクロロメタン,メタノール,精製水でコンディショニングした固相カラム(Waters社製HLB)に,通水速度10mL/min以下で通水を行った.通水後,固相カラムに精製水20mLを通して洗浄し,10分間,高純度窒素ガスにより脱水・乾燥を行い,ジクロロメタン6mLで溶出を行った.その後,無水硫酸ナトリウムを用いて脱水を行い,高純度窒素ガスを吹き付けて約0.2mLまで濃縮し,内部標準液5μL添加し,ジクロロメタンで0.5mLとしたものを試験液とした.
なお,精製水を用いて上記と同様に操作したものを空試験用の試料水とした. - (2) 分析
- 上記(1)で得られた試験溶液の一定量をガスクロマトグラフ-質量分析計に注入し,表2に示すプロチオホスと内部標準物質とのフラグメントイオンのピーク面積の比を求め,必要に応じて下記(3)で求めた空試験のピーク面積の比を差し引いた後,下記6により作成した検量線から検水中のプロチオホスの濃度を算出する.
農薬名 | モニターイオン(m/z) |
---|---|
プロチオホス | 267,281 |
9-ブロモアントラセン※ | 258 |
※内部標準物質
- (3) 空試験
- 精製水をガラス瓶に採り,上記(1)および(2)と同様に操作してピーク面積の比を求める.
6. 検量線の作成
プロチオホス標準液を段階的にメスフラスコに採り,それぞれに内部標準液の一定量を加え,ジクロロメタンで定容する.これらの一定量をGC/MS装置に注入する.
プロチオホスと9-ブロモアントラセンのフラグメントイオンのピーク面積を求め,プロチオホスの濃度との関係を求める.
参考資料
- 小林憲弘,土屋裕子,五十嵐良明:塩素処理による水道水中プロチオホスの分解とプロチオホスオキソンの生成挙動.水道協会雑誌,89(9), 2–11 (2020).