■ ジチオカルバメート系農薬 検査マニュアル

HS-GC/MSによる分析法(別添方法24)

1.対象物質

 ここで対象とする農薬は,ジチオカルバメート系農薬(ジネブ,ジラム,チウラム,プロピネブ,ポリカーバメート,マンゼブ(マンコゼブ),およびマンネブ)である.
 ジチオカルバメート系農薬は塩酸中で二硫化炭素に分解するため,本分析法では,ジチオカルバメート系農薬に濃塩酸を加えて加熱分解し,発生した二硫化炭素を測定する.

2.試薬

(1) 精製水
測定対象成分を含まないもの.
(2) メタノール
測定対象成分を含まないもの.
(3) アスコルビン酸ナトリウム
測定対象成分を含まないもの.
(4) 濃塩酸
測定対象成分を含まないもの.
 ※塩化水素濃度35%以上の濃塩酸を使用する.
(5) 塩化ナトリウム
測定対象成分を含まないもの.
(6) 内部標準原液
フルオロベンゼンおよび4-ブロモフルオロベンゼンのそれぞれ0.500gを,メタノール10mLを入れた別々の100mLメスフラスコに採り,メタノールで定容したもの(フルオロベンゼン,4-ブロモフルオロベンゼン各5g/L).
 これらの溶液は,調製後直ちに冷却しながら1~2mLのアンプルに小分けし,封入して冷凍保存する.
(7) 内部標準液
内部標準原液の一定量をメスフラスコに採り,メタノールで薄めたもの.2種類の内部標準物質を使用する場合には,2種類の内部標準原液を,メタノール少量を入れた1つのメスフラスコに一定量採取し,同様の希釈操作を行う.この溶液は,使用の都度調製する.
(8) 二硫化炭素標準原液
二硫化炭素(比重1.261)の0.8mLを100mLメスフラスコに採り,メタノールを加えて定容したもの(10000mg/L).この溶液は,調製後直ちに冷却しながら1~2mLのアンプルに小分けし,封入して冷凍保存する.
(9) 二硫化炭素標準液
二硫化炭素標準原液の一定量をメスフラスコに採り,メタノールで薄めたもの.この溶液は,使用の都度調製する.

3.器具および装置

(1) ねじ口瓶
容量40~100mLのもので,ポリテトラフルオロエチレン張りのキャップをしたもの.
(2) アンプル
容量1~2mLのもの.
(3) バイアル
容量10~100mLのもの.
(4) 恒温槽
100℃に保持できるもの.
(5) ヘッドスペース装置(測定条件については表1を参照)
ア.恒温槽
50~80℃の範囲で一定の温度に保持できるもの.
イ.トラップ管
内径2 mm以上,長さ5~30cmのもので,ステンレス管又はこの内面にガラスを被覆したものにポリ-2,6-ジフェニル-p-ジフェニレンオキサイド,シリカゲル及び活性炭を3層に充填したもの又はこれと同等以上の吸着性能を有するもの.
 ただしトラップ操作を行わない場合は,この装置を使用しなくてもよい.
ウ.脱着装置
トラップ管を180~250℃の温度に急速に加熱できるもの.
 ただし,トラップ操作を行わない場合は,この装置を使用しなくてもよい.
表1. ヘッドスペース装置の測定条件の例
項目 パラメータ
オーブン温度 50℃
ループ温度 100℃
トランスファーライン温度 150℃
バイアル平衡時間 20min
圧力タイム 0.2min
サンプルループサイズ 3mL
バイアル圧力 10psi
(6) ガスクロマトグラフ-質量分析計(測定条件については表2を参照)
ア.試料導入部
最適温度が設定できるのもの.
イ.分離カラム
内径0.20~0.53mm,長さ60~75mの溶融シリカ製のキャピラリーカラムで,内面に25%フェニル-75%ジメチルポリシロキサンを1μmの厚さに被覆したもの又はこれと同等以上の分離性能を有するもの.
ウ.分離カラムの温度
対象物質の最適分離条件に設定できるもの.
エ.検出器
選択イオン測定(SIM)又はこれと同等以上の性能を有するもの.
オ.イオン化電圧
電子イオン化法(EI法)で,イオン化電圧を70Vにしたもの.
カ.キャリアーガス
純度99.999%(v/v)以上のヘリウムガスと同程度の感度が得られるもの.
表2. ガスクロマトグラフ-質量分析計の測定条件の例
項目 パラメータ
注入口温度 200℃
注入法 スプリット法(スプリット比5:1)
カラム AQUATIC-2(60 m×0.25mm×1.40μm,ジーエルサイエンス)
昇温条件 40℃(15min)→15℃/min→140℃→20℃/min→250℃(8min)
カラム流量 1.2mL/min
AUX温度 250℃

4. 試料の採取および保存

 試料は,精製水で洗浄したねじ口瓶に泡立てないように採取し,満水にして直ちに密栓し,速やかに試験する.速やかに試験できない場合は,冷暗所に保存する.
 なお,残留塩素が含まれている場合には,試料1Lに対してアスコルビン酸ナトリウム10~20mgを加える.

5. 試験操作

(1) 前処理
バイアルに塩化ナトリウムを検水量10mLに対して3gを入れた後,検水を一定量採り,濃塩酸を検水量10mLに対して10μL添加する.これに内部標準液を一定量注入して密栓する.これを予め100℃に加熱した恒温槽に入れ,1時間加熱したものを試験溶液とする.
 ただし,検水中に含まれる二硫化炭素の濃度が10μg/Lを超える場合には,0.05~10μg/Lの濃度範囲になるように精製水を加えて濃度を調製する.
(2) 分析
上記(1)で得られた試験溶液の気相の一定量をガスクロマトグラフ-質量分析計に注入し,表3に示す二硫化炭素と内部標準物質とのフラグメントイオンのピーク面積の比を求め,必要に応じて下記(3)で求めた空試験のピーク面積の比を差し引いた後,下記6により作成した検量線から検水中の二硫化炭素の濃度を算出する.
表3. モニターイオンの例
物質名 モニターイオン(m/z)
二硫化炭素 76,78,44
フルオロベンゼン※ 96,70
4-ブロモフルオロベンゼン※ 95,174,176

※内部標準物質

(3) 空試験
精製水をねじ口瓶に採り,上記(1)および(2)と同様に操作してピーク面積の比を求める.

6. 検量線の作成

 二硫化炭素標準液を段階的にメスフラスコに採り,それぞれに内部標準液の一定量を加え,さらにメタノールで定容する.精製水を上記5と同様に採り,これに段階的に調製した溶液の一定量を注入する.以下,上記5と同様に操作して,二硫化炭素と内部標準物質とのフラグメントイオンのピーク面積の比を求め,二硫化炭素の濃度との関係を求める.