ホーム

研究概要(2022年度)

2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017

研究概要

生物薬品部は,生物薬品(バイオテクノロジー応用医 薬品/生物起源由来医薬品)の品質・有効性・安全性確保に資するレギュラトリーサイエンス研究を行っている.研究業務の対象となる製品には,アンメットメディカルニーズを満たす新たなバイオ医薬品と,医療上の重要性が確立された製品に関する医療費削減が期待されるバイオシミラーが含まれ,これら製品の品質リスクマネジメントに必要とされる評価法の開発と標準化を先導的に実施することで,バイオ医薬品等の品質安全性確保を通じて社会貢献することを組織目標としている.
 令和4年度は,バイオ医薬品等の品質評価に関する研究として,AMED創薬基盤推進研究事業の官民共同研究班での検討を中心に行い,タンパク質凝集体評価法,不均一性評価のためのインタクト分析法,宿主細胞由来タンパク質評価法,糖鎖分析法の開発と標準化を進めた.新たな分析法として,液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)を用いたMulti-attribute Method(MAM),Fcγ受容体IIIa(FcγRIIIa)アフィニティー クロマトグラフィー,クライオ電子顕微鏡による高次構 造評価,CDスペクトルを用いた高次構造比較等について,分析手法の開発研究を行った.また,JPMAバイオ 医薬品委員会の協力を得て,AMED規制調和事業研究 班において,より進んだ手法を用いて管理戦略が構築されたバイオ医薬品の製造販売承認申請書及びコモンテクニカルドキュメント(CTD)第2部の記載例を作成し, 生物薬品部のウェブサイトで公開した.
 バイオ医薬品等の有効性・安全性評価に関する研究として,インタクトMSを用いた抗体薬物複合体の薬物抗 体比分布の分析法の標準化,部位特異的修飾により作製される抗体薬物複合体の特性解析,抗薬物抗体標準品候補品の作製と国際標準品策定機関への提供等を行った.日本薬局方における生物薬品関連試験法の整備と国際 調和に関する研究では,日局生物薬品各条試験法に関する研究の他,フローイメージング法に関する参考情報案,及び,フローサイトメリーに関する参考情報案を作成した.
 これらの他,新たなモダリティのバイオ医薬品として,エクソソーム製剤の品質評価に関する研究に着手し,サイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱法を 中心に,粒子径分布評価法の分析性能に関する検討を行った.令和5年1月に公表されたPMDA科学委員会 エクソソーム専門部会の報告書作成にも協力した.中分子ペプチドに関して,不純物評価法に関する研究及び品質確保のためのガイドライン案作成を進めた.
 生物薬品部と関係の深い学術分野での令和4年度の大きなトピックは,令和4年4月1日の日本抗体学会の発足であった.近年の新規モダリティにはそれぞれ関連する学会があるが,これまで抗体を対象とした学会はなく,国内で抗体医薬品に関する情報収集や研究発表が集中して行われる場がない状況が続いていた.今後は,国内でも学会活動を通じてより充実したモダリティとして発展し,医療に貢献できることが期待される.第1回日本抗体学会設立記念学術大会は,令和4年11月26-27日に鹿児島で開催され,生物薬品部からも複数の発表を行った.同学術大会において,木吉真人主任研究官が“特異的ペプチドコンジュゲーションによる抗体医薬品のADCC活性増強及び安定性の向上”について,青山道彦研究員が“薬物修飾部位の異なる抗体薬物複合体の特性解析”について発表を行い,それぞれ,ポスター発表優秀賞を受賞した.
 厚生労働省の後発医薬品等品質確保対策事業では,引き続き,バイオシミラーの品質確保のための調査と製品 の試験を行った.国内で流通しているバイオシミラー製 剤の試験として5製剤を対象に,生物活性試験あるいは 純度試験を実施し,規格への適合性を確認した.人事面では,令和4年4月1日付けで,西村仁孝博士が研究員として採用され,令和5年3月31日付けで,小林哲主任研究官が定年退官した.


研究業績

1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) 先端的バイオ医薬品の最適な実用化促進のためのCMC分野における創薬基盤技術の高度化に関する研究
  (AMED 創薬基盤推進研究事業)

バイオ医薬品の品質評価に用いられる分析法の開発に分析法Quality by Design(AQbD)を活用する際の効率的な方法を見出すため,アンケート調査により国内企業におけるAQbDに関する取り組み状況を明らかにした.また,高分子量体および断片体に関する純度試験,宿主細胞由来タンパク質(HCP)試験,および,抗TNFα抗体の生物活性試験を例として,目標分析プロファイル設定に関するケーススタディを行った.この他,バイオ医薬品のCMC研究開発におけるデジタルトランスフォーメーションに向けた件苦情と課題について,国内企業の同行や事例を調査し,総説として公表した.

2) 凝集体及び不溶性微粒子評価技術に関する研究
  (AMED 創薬基盤推進研究事業)

各製薬企業で導入している微粒子の評価手法と使用目的などについて研究班に参加している国内製薬企業等を対象にアンケート調査を行い,凝集体及び不溶性微粒子の管理戦略を構築する際の課題を抽出した.また,微粒子の由来特定に有用な手法と考えられている顕微ラマンを用いて操作手順,分析条件や解析方法の最適化を行った.

3) 高分解能質量分析計を用いたインタクト分析
  (AMED 創薬基盤推進研究事業)

モデル試料としてトラスツズマブ後続品を用いて,電荷プロファイル法,ペプチドマップ法及びインタクトMSの予備共同測定を実施した.等電点電気泳動とイオン交換クロマトグラフィーの分析条件を最適化し,分析結果の傾向を確認した.インタクトMSでは主要なグリコフォームの評価は可能であるが,それ以上の評価を行うためには,イオン交換-MSやタンパク質のサブユニットへの断片化が必要であることを明らかにした.

4) Fc受容体固定化カラムを用いた抗体医薬品の特性解析法の開発
  (AMED 創薬基盤推進研究事業)

FcγRIIIaアフィニティークロマトグラフィーの分析性能評価の一環として,G2,G2F,G0,G0Fの糖鎖を持つ抗体とFcγRIIIaとの結合親和性の熱力学的パラメータを求め,詳細な解析を行った.構造解析の結果との比較により,抗体-FcγRIIIa結合の分子メカニズムを明らかにした.

5) LC/MSを用いた宿主細胞由来タンパク質(HCP)試験法に関する研究
  (AMED 創薬基盤推進研究事業)

LC/MSを用いたHCP分析における新たな試料調製手法として抗薬物抗体を用いた目的物質除去手法を開発し,従来法よりも約10倍に高感度化することを明らかにした.また,LC/MSを用いたHCP分析を活用したHCP試験法の重要試薬である抗HCP抗体の抗原カバー率評価手法について検討し,抗HCP抗体へのHCP結合量に基づいた評価方法を提案した.

6) 次世代抗体医薬品のバイオトランスフォーメーション解析に関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

これまでに構築したインタクトMS分析法により,マウスに投与したトラスツズマブ エムタンシンの薬物抗体比(DAR)分布の生体内における変化を明らかにするとともに,構築した分析手法の有用性を実証した.

7) 次世代抗体医薬品の安定性評価手法に関する研究
  (AMED D 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ヒト末梢血単核球を用いた抗体依存性細胞傷害性(ADCC)活性測定系を構築し,ペプチドコンジュゲートによるADCC活性の向上を確認した.アフコシル抗体の作製を行い,ペプチドコンジュゲートによるADCC活性の向上はアフコシル抗体にも応用できることを明らかにした.承認時に求められる安定性データ等に関して,FDAやEMAなど海外規制当局の動向を調査し,バイオ医薬品の安定性評価の現状と課題を整理した.

8) バイオ後続品に関する市販後安全性調査と品質確保に関する研究
  (一般試験研究費)

国内で流通するバイオ後続品の品質特性や安全性に関するデータ及び欧米の動向に関する調査結果をもとに,バイオ後続品の品質安全性確保と安定供給のための論点を整理した.

9) 次世代抗体医薬品の実用化に向けた品質評価及び管理手法に関する技術的研究
  (AMED 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業)

次世代抗体医薬品等の製造に用いられる細胞基材を樹立する際の留意事項として,クローナリティとシークエンスバリアントを中心に技術的観点から推奨事項を整理し,文書としてまとめた.

10) 質量分析を利用した次世代抗体の構造特性評価手法の確立
  (AMED 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業)

抗体医薬品を対象としたMAMシステムの妥当性を評価するための基準を提案することを目的として,衛研で調製した共通試料を用いて,複数の質量分析装置メーカーとの共同研究を行った.評価対象ペプチドの質量精度,並びに保持時間及びピーク面積強度の室内再現精度等を評価した結果,異なるLC/MSを使用した場合であっても,共通した精度基準でシステムを管理できることを実証した.

11) 微生物等を用いて創製される抗体医薬品の構造特性解析
  (AMED 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業)

酵母を用いて創製された二重特異性T細胞誘導抗体について,糖鎖結合部位のアミノ酸改変を行うことで糖鎖付加量を大幅に減少できること,アミノ酸改変は抗原との結合活性に影響しないことを明らかにした.また研究班で創製されたその他の抗体医薬品候補のジスルフィドマッピング等を行った.

12) 製造工程由来不純物である宿主細胞由来タンパク質 の新規評価法の開発
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

文 献 情 報 等 に 基 づ き,phospholipase B-like 2(PLBL2)等の免疫原性を示すHCP,並びにcathepsin D等の目的物質や製剤成分の分解を引き起こすHCP等を含むProblematic HCPのリストを作成した.PLBL2を分析対象として,LC/MSを用いた定量手法を構築した.

13) 高次構造評価を指向した分光学的手法を用いたバイオ後続品の特性解析法の構築
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

CDスペクトルを使った高次構造評価について,文献等から候補となる測定条件・解析方法を調査した.代表的な測定方法において,抗体医薬品とその後続品で類似したスペクトルが得られることを確認した.


2.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究

1) 抗体薬物複合体の新規薬物分析法の標準化に関する研究
  (AMED 創薬基盤推進研究事業)

インタクトMS法による血液試料中抗体薬物複合体(ADC)のDAR分布分析手法の標準化を図ることを目的として,複数機関との共同研究により,これまでに構築してきた分析手法の実行可能性を評価した.ヒト血漿に添加したトラスツズマブ エムタンシンを対象として分析を行った結果,多くの機関で理論値に近いDAR値が得られ,本分析手法を標準的なDAR分布分析手法として利用できる可能性が示唆された.

2) 多重特異性抗体の生物活性・免疫作用評価に関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

強制劣化処理によって誘導した凝集体による免疫細胞活性化について検討し,Bispecific T-cell Engager (BiTE)型二重特異性抗体凝集体の免疫細胞活性化リスクは,免疫細胞受容体を標的とする抗体の種類や,強制劣化処理条件の違いに起因する凝集体の特性によって異なることを明らかにした.

3) 抗薬物抗体評価と標準パネル
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

抗体医薬品(アダリムマブ,インフリキシマブ)と作製した抗薬物抗体(ADA)の複合体について,FcεR結合性とFcγR結合性の解析を進めると共に,IgE型の抗アダリムマブ抗体を電気化学発光法で検出する系を構築し,IgE型ADAの有用性を評価した.さらに,抗アダリムマブ抗体のWHO国際標準品設定のために候補クローンを選択し,NIBSCに計10クローンのADAを送付した.

4) 抗SARS-CoV-2及び抗薬物抗体評価
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

COVID-19患者試料中の抗ウイルスタンパク質抗体の評価を行い,各種変異株のスパイクタンパク質に対する抗体価の測定結果から,武漢株感染後に得られた抗体は,ベータ株への反応性は低いものの,オミクロン株以外の主要な変異株に対しては, 7 - 8 割程度の反応性を示すことを明らかにした.

5) 免疫原性評価ガイドライン作成に関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

バイオ医薬品の免疫原性評価に関するガイドライン案の作成のため,産官学の専門家からなるワーキンググループを構築し,ガイドラインの草案を作成した.

6) バイオ医薬品に対する抗薬物抗体評価法に関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

バイオ医薬品を投与された関節リウマチ患者血清中のADAの中和活性を評価した.中和活性は,細胞応答性を指標に試料中の残存薬物活性を測定することで,ADAの臨床的な影響を評価可能であることを示した.


3.日本薬局方等における生物薬品関連試験法の整備と国際調和に関する研究

1) 日本薬局方の国際化に関する調査研究
  (医薬品承認審査等推進費)

インタクトMS法による血液試料中抗体薬物複合体(ADC)のDAR分布分析手法の標準化を図ることを目的として,複数機関との共同研究により,これまでに構築してきた分析手法の実行可能性を評価した.ヒト血漿に添加したトラスツズマブ エムタンシンを対象として分析を行った結果,多くの機関で理論値に近いDAR値が得られ,本分析手法を標準的なDAR分布分析手法として利用できる可能性が示唆された.

2) 医薬品の品質管理の高度化に対応した日本薬局方等の公定試験法拡充のための研究開発
  (一般試験研究費)

HCP試験法参考情報に関して,国際調和の提案に向けた課題を明らかにするため,学術論文や学会等の発表を対象にした技術開発状況,及び米国薬局方と欧州薬局方の動向を調査した.

3) バイオ医薬品国際標準品の品質評価に関する研究
  (一般試験研究費)

抗アダリムマブ抗体国際標準品及び抗リツキシマブ抗体国際標準品策定への協力として,標準品候補品に関する情報をWHO/NIBSCに提供した.また,ゴリムマブ国際標準品策定のための国際共同検定に参加し,標準品候補品の生物活性を測定した結果をWHO/ NIBSCに報告した.

4) 医薬品の品質確保のための分析法の開発及びバリデーションに関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ICH Q 2(R 2 )/Q14ガイドライン案として厚労省による意見公募を実施し,主要なコメントを抽出した.中間会合を開催し,主な論点について議論を行い,修正作業の方向性を決定した.

5) 生体試料中薬物濃度分析法バリデーションの国際調和に関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ICH M10ガイドライン案の専門家作業部会における最終合意と総会での承認を経て,国内通知発出のための日本語版を作成した.

6) バイオ医薬品のライフサイクルマネジメントに関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

「より進んだ手法」を用いて管理戦略が構築された事例として,バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品の製造販売承認申請書及びCTD第 2 部:品質に関する概括資料の記載例(モックアップ)を作成し,生物薬品部HPで公開した.

7) AQbDによる分析法のライフサイクルマネジメントに関する研究
  (AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

「より進んだ手法」を使って分析法を開発した場合のCTDの記載事例を使って,提示されたデータに対し て 科 学 的 に 妥 当 と 考 え ら れ るEstablished Conditionsの範囲及び変更カテゴリー設定に関して,考え方を整理した.

8) 日局合成グルカゴン各条定量法等に関する研究
  (医 薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

合成グルカゴン定量法等の近代化,及び,ヒトグルカゴンを有効成分とする品目の日局各条試験法の共通化を図ることを目的として, 2 機関による共同研究を実施し,グルカゴン(遺伝子組換え)各条の定量法及び純度試験類縁物質を合成グルカゴンにも適用できることを確認した.また,合成グルカゴン標準物質が日局グルカゴン(遺伝子組換え)標準品と同等の比活性を有することを明らかにした.これらの研究成果について論文として取り纏めた.

9) 日局各条品生物薬品に含まれる不純物等の規格及び試験法原案の作成及びその検証に関する研究
  (一般試験研究費)

複数の市販抗体医薬品を用いてイオン交換クロマトグラフィーの分析条件の検討を行った.その結果,塩グラジエントにおいては,移動相のpHは,pI値の低い抗体ではやや低めのpHで,pI値の高い抗体では高めのpHで良好な分離が得られること,pHグラジエントでは,低い塩濃度(25 mM以下)で良好な分離が得られることを明らかにした.

10) フローサイトメトリーを用いた生物薬品の試験法に関する研究
  (医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

フローサイトメトリーを用いた生物活性試験のモデルとなる試験方法を構築した.また,構築した試験法を用いて,日常的な測定時の機器設定や,システム適合性/試験成立条件の設定の妥当性について実験的に検証した.


4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究

1) 抗SARS-CoV-2抗体の特性解析に関する研究
  (AMED医薬品等規制調和・評価研究事業)

SARS-CoV-2スパイクタンパク質を外套するシュードタイプウイルスを用いて,ウイルス粒子と抗スパイクタンパク質抗体によって形成される免疫複合体によるFcγR活性化を測定し,免疫複合体のFcγR活性化能が抗体の認識エピトープ(結合クラス)によって異なることを明らかにした.

2) MHC-Associated Peptide Proteomics(MAPPs)解析によるFcRn親和性の変化が抗原提示に及ぼす影響の解明
  (科学研究費補助金)

FcRn親和性を上昇させたアダリムマブ改変体(LS variant),FcRn親和性を減弱したアダリムマブ改変体,コントロールのアダリムマブをヒト樹状細胞に取り込ませ,major histocompatibility complex(MHC)に提示されるペプチドの比較を行った.さらに複数ロットの樹状細胞で検討する必要があるが,今回の検討結果では抗体間で大きくMHCへの提示能が変化していないことを示した.

3) クライオ電子顕微鏡を用いた次世代抗体医薬品の高次構造解析法
  (AMED次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業)

電子顕微鏡を用いて得られた画像から,2D classificationの分子像を作成した.FabとFcが多様な角度を取りうる可能性が示唆された.自然科学研究機構との共同研究により,ネガティブ染色の更なる詳細な解析や,クライオ測定手法について検討した.

4) コンジュゲート抗体の品質評価に関する研究
  (AMED次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業)

部位特異的修飾法を用いて,作製した均一化コンジュゲート抗体の特性解析により,低分子化合物の修飾部位や修飾に用いたリンカー構造が抗体薬物複合体の様々な特性に影響することを明らかにした.

5) 中分子ペプチド医薬品の品質特性解析に関する研究
  (AMED医薬品等規制調和・評価研究事業)

細胞内標的ペプチドの不純物評価及び安定性評価を目的として,劣化試料(酸・アルカリ処理,加熱処理,光照射処理等)及び長期保存試料の調製を行うとともに,一部の試料について分析を開始した.主な不純物が保護基由来成分付加体及び脱アミド体であることを明らかにした.

6) 中分子ペプチド医薬品の品質管理戦略に関する研究
  (AMED医薬品等規制調和・評価研究事業)

中分子ペプチド医薬品の品質評価・管理に関するガイドライン案を作成するため,不純物の管理戦略と安定性評価を中心に研究班で議論を行い,文案の作成と改訂を行った.

7) IgA製剤の品質確保に関する研究
  (一般試験研究費)

IgAを有効成分とする抗体医薬品について,腸管に送達される経口投与製剤,及び,局所あるいは全身循環に投与される製剤に関して,品質確保に必要な評価項目と評価方法について検討した.

8) 抗体医薬品凝集体の非標的細胞取込に関わる受容体の同定
  (科学研究費補助金)

抗体医薬品凝集体の非標的細胞取込に関わる分子の探索のため,CRISPR-Cas9 を用いたgenome wide screening systemを構築し,蛍光標識抗体凝集体の細胞内取込を指標にスクリーニングを実施した.


5.非ペプチド・タンパク質モダリティーバイオ医薬品等の品質評価に関する研究

1) ウイルスベクターの構造特性評価に関する研究
  (AMED医薬品等規制調和・評価研究事業)

レンチウイルスベクターの構成タンパク質であるVSV-Gタンパク質のリコンビナントタンパク質を対象として,ペプチドマッピングを行った.これまでに最適化したゲル内消化法を利用したペプチドマッピングにより良好な配列カバー率が得られることを確認した.

2) エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する調査研究
  (一般試験研究費)

PMDA科学委員会専門部会において,エクソソーム製剤の実用化に向けた製造,品質特性解析,非臨床試験,臨床試験における課題に関する議論に参加し,「エクソソームを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する報告書」を作成した.

3) エクソソーム製剤の品質管理戦略構築に関する研究
  (AMED医薬品等規制調和・評価研究事業)

エクソソーム製剤の粒子径・表面分子といった基本的な品質特性や製造工程由来の微粒子不純物の解析手法を確立した.分離分析手法として,サイズ排除クロマトグラフィー−多角度光散乱によるサイズ分画を含む分析手法を確立し,陰イオン交換クロマトグラフィーを用いた電荷による分画手法についても検討した.

4) マイクロバイオーム製剤の品質確保に関する研究
  (一般試験研究費)

マイクロバイオーム制御を目的とした製剤に関し,管理戦略構築の考え方を検討した.

5) 新興感染症等の緊急時に用いられる回復者血漿製剤の品質確保に関する研究
  (一般試験研究費)

COVID-19の治療を目的として実施された回復者血漿を用いた臨床試験に関する文献情報を収集し,製剤の有効性・安全性確保に必要な品質評価項目と推奨される評価方法について,抗ウイルス抗体とそれ以外の項目に分類して整理した.

6) 新型コロナワクチン等品質安全性確保事業
  (一般試験研究費)

組換えタンパク質で構成されるVLPワクチン製剤の粒子径評価法を検討すべく,3種類の市販製剤を動的光散乱法(DLS)及びナノ粒子トラッキング解析(NTA)で分析した.アルミニウム系アジュバントの存在により分析に妨害が生じたが,サポニン系アジュバントの製剤は両方法で測定可能であることを確認した.