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研究概要(2015年度)

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研究概要

生物薬品部では,生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の品質・有効性・安全性確保に資するレギュラトリーサイエンス研究を行っている.

平成27年は,日本で初めてのバイオ医薬品である遺伝子組換えヒトインスリンが承認されてから30年となり,日本のバイオ医薬品史上,一つの節目の年であった.平成元年に前身の生物化学部をもとに創設された生物薬品部は,この間,バイオ医薬品に関する評価研究の中核を担い,本邦における規制環境整備と国際調和に貢献してきた.近年は,創薬支援を掲げる政府施策を背景に,アンメットメディカルニーズに応える医薬品として期待されながら進化を続ける様々な先端的バイオ医薬品に対応して,科学的・技術的課題に重点をおいて,バイオ医薬品の開発推進と承認審査の迅速化への貢献が求められている.加えて,高騰する医療費の抑制への期待がかかるバイオ後続品の評価研究,さらには,公的試験検査機関としての職務も当部における重要課題である.

平成27年に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオ医薬品は9品目に上り,これらの中には,日本で初めてのトランスジェニック動物由来バイオ医薬品の他,免疫チェックポイント阻害抗体医薬品等が含まれる.また,日本でも8番目のバイオ後続品が承認された.局方国際調和では,フローイメージング法による不溶性微粒子試験法が新たに検討課題に上り,ICH品質分野ではQ12ライフサイクルマネジメントに関する議論が進んでいる.

このような現状を踏まえ,平成27年度は,バイオ医薬品の品質評価に関する研究として,O糖鎖試験法,不溶性微粒子試験法,次世代抗体の製法,生物活性評価に関する研究の他,バイオ医薬品のライフサイクルマネジメントに関する課題抽出等を行った.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究として,抗体医薬品の生体試料中濃度分析法,抗薬物抗体評価法,有害反応発現機構,市販後安全性に関する研究等を行った.また,日本薬局方の生物薬品関連試験法に関する研究として,ヘパリンナトリウム各条のナトリウム確認試験に関する研究,糖鎖試験法の国際調和に関する研究,生物薬品の製造要件に関する研究を実施した.さらに,先端的バイオ医薬品等開発に資する研究として,新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品,及び高度改変タンパク質医薬品等の品質・安全性評価に関する研究等を実施した.

これらの研究活動を通して得られた知見をもとに,日局ヘパリンナトリウム各条試験法原案作成,一般試験法<2.64>糖鎖試験法,参考情報(単糖分析及びオリゴ糖分析/糖鎖プロファイリング法,表面プラズモン共鳴法)のパブリックコメントへの対応,参考情報ELISAの原案作成,参考情報ペプチドマップ法及びSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法の国際調和に向けたコメント案作成に係わった.

研究業績

1.バイオ医薬品の品質評価に関する研究

1) 先端的バイオ医薬品の品質・安全性確保のための評価法開発(AMED 創薬基盤推進研究事業)

  1. カルバミン酸アンモニウムを用いた非還元的アルカリβ脱離によるO-結合型糖鎖試験法は,ピーリング産物の生成及び回収率にばらつきが認められるものの,類似した糖鎖プロファイルが得られることを明らかにし,バイオ医薬品の糖鎖試験法として適していることを確認した.
  2. ポリスチレン標準粒子を用いてフローイメージング法の真度の確認を行い,2及び25μmの粒子を測定する際の注意点を明らかにした.
  3. ポリスチレン標準粒子を用いて,「注射剤の不溶性微粒子試験」を低容量化したときの試験の真度及び精度を多機関共同研究により調べ,低容量化が可能であること及びその要件を明らかにした.
  4. ペプチドマップ,糖鎖プロファイル,サイズ排除クロマトグラフィーについて,代表的なシステム適合性の設定例案を作成し,その要件について考察した.

2) 次世代抗体医薬品等の品質・安全性評価法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

  1. 前年度までに樹立した2種類のFcγ受容体発現レポーター細胞株を用いた改変型抗体の免疫作用評価系の最適化を実施した.ヒト末梢血単核球を用いたサイトカイン放出測定系との比較により,構築した評価系が抗体医薬品の有害作用発現に繋がりうる免疫作用の予測・評価に有用であることを明らかにした.
  2. シングルユースシステムを用いて製造されるバイオ医薬品の品質安全性確保のためのリスクマネジメント手法について,シングルユース製品由来不純物を中心とするリスクアセスメント,及び,リスク対応の考え方をまとめ,White Paperとして公表した.
  3. 日米欧におけるバイオ後続品/バイオシミラーの製品開発及びガイドライン整備の動向を調査し,日本のバイオ後続品指針における課題を考察した.
  4. 抗体を対象としてHDX/MSによる高次構造解析手法の最適化を行った.また,抗体及びFc融合タンパク質のFc領域についてHDX/MS解析を行い,両者のFcRn結合領域の高次構造に差異が認められることを明らかにした.

3) 水素/重水素交換反応及び質量分析法(HDX/MS)による糖タンパク質の高次構造解析技術の開発(科学研究費補助金(日本学術振興会))

HDX/MSによるAT-Hep複合体の相互作用解析により,ATのHep結合部位,及びHepの結合に伴う高次構造変化を確認できることを明らかにした.HDX/MSは糖タンパク質-糖鎖複合体の相互作用解析技術としての応用可能であることを実証した.

4)Fc受容体固定化カラムを用いた抗体医薬品の特性解析法の開発(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

Fcγ受容体アフィニティークロマトグラフィーによって分離される抗体分子の糖鎖構造を明らかにした.また,それぞれの分離ピークにおけるADCC活性やCDC活性などの特性を明らかにした.

5) バイオ医薬品のライフサイクルマネジメントに関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

ICHガイドラインの新規トピックであるQ12医薬品のライフサイクルマネジメントに関し,バイオ医薬品関連の課題に対する科学的側面からの提案をまとめるため,産官のメンバーからなる分科会を構築して,Established Conditions等に関する議論を開始した.

2.バイオ医薬品の有効性・安全性評価に関する研究

1) 先端的バイオ医薬品の品質・安全性確保のための評価法開発(AMED 創薬基盤推進研究事業)

  1. 抗体医薬品を対象として,ヒト血清試料からの濃縮・精製方法,酵素消化方法,及び内標準物質の添加方法等の前処理方法の最適化を行うと共に,各前処理工程において考慮する必要のある標準的な要件を抽出した.
  2. 抗薬物抗体測定におけるカットポイント設定に関し,共通データを用いて多機関での解析を行い,各機関で用いられている統計解析手法を比較すると共に,統計解析手法選択に関する考え方を明らかにした.

2) バイオ医薬品の安全性評価・品質管理に関する研究(AMED 医薬品等規制調和・評価研究事業)

  1. バイオ医薬品の製法開発の際に実施されるウイルスクリアランス工程評価に用いられるウイルス試験について,使用するウイルス,及び,用いられる試験の種類とバリデーションの要件を整理した.また,バイオ医薬品のウイルス安全性に関する専門家からなる分科会を構築し,ウイルスリスクマネジメント要件の明確化と日局への反映に向けた議論を開始した.
  2. 電気化学発光法を用いた抗薬物抗体分析法を構築し,モデル抗薬物抗体を用いた分析能の評価を行った.また,免疫原性評価に関する海外ガイドラインの記載事項を調査し,抗薬物抗体分析法を中心に,免疫原性評価の要件を整理した.
  3. in vivoで分布解析等を実施するための新生児型Fc受容体(FcRn)親和性改変抗体を発現,精製した.導入したアミノ酸改変がマウスの各種Fc受容体との結合性へ及ぼす影響を明らかにした.
  4. 抗体医薬品と抗薬物抗体(ADA)によって形成される免疫複合体の分子サイズとFcγ受容体活性化能の相関について明らかにした.モデルADAとして抗CD20抗体リツキシマブに対する抗イディオタイプ抗体を作製した.

3) 薬物結合抗体の動態関連分子結合性が細胞内・体内動態に及ぼす影響の解明(科学研究費補助金(日本学術振興会))

各種抗体薬物複合体(ADC)モデルを用い,動態関連分子結合性の違いが動態に及ぼす影響を明らかにした.

4) 免疫グロブリン製剤に含まれる凝集体の特性と安全性に関する研究(科学研究費補助金(日本学術振興会))

免疫グロブリン製剤から生成させた凝集体の特性解析を行い,凝集体を形成しやすい抗体分子の特性を明らかにした.

5) 抗体医薬品の薬効発現に影響する因子に関する研究(一般試験研究費)

EGFR発現細胞株において,ガングリオシドの生合成阻害剤PDMPが,抗EGFR抗体セツキシマブの細胞増殖抑制作用及び抗体依存性細胞傷害作用を増強することを明らかにし,セツキシマブの薬理作用が,細胞膜に存在するガングリオシドによる制御を受けている可能性を見出した.

6) 抗体医薬品の有害作用発現に関連するヒト免疫応答メカニズムの解析(科学研究費補助金(日本学術振興会))

抗体医薬品の生産細胞として用いられるCHO細胞の宿主細胞由来タンパク質に対するヒト血清反応性について明らかにした.

7) バイオ医薬品の薬剤疫学的研究(一般試験研究費)

免疫調節作用を有するバイオ医薬品を中心に,各種の抗体医薬品について,医薬品副作用データベースに報告された種々の有害事象の報告オッズ比や発現時期を解析した.インフリキシマブとニューモシスチス肺炎との関連,セルトリズマブ ペゴルと帯状疱疹との関連等が示唆された.

3.日本薬局方の生物薬品関連試験法に関する研究

1) ヘパリン医薬品の活性試験及び純度試験等に関する研究(医薬品承認審査等推進費)

日局ヘパリンナトリウム各条に,ナトリウムに関する確認試験を新規設定するため,日局一般試験法<1.09>定性反応の「炎色反応試験(1)金属塩の炎色反応<1.04>」及び「(2)沈殿反応」のヘパリンナトリウムへの適用について検討し,これらの試験によりヘパリンナトリウムに含まれるナトリウムを確認することができることを実証した.また,ヘパリンナトリウム各条ナトリウム確認試験の原案を作成した.

2) 日本薬局方等の医薬品品質公定試験法拡充のための研究開発(一般試験研究費)

第十七改正日本薬局方において製造要件が定義されることを踏まえ,日局における生物薬品の製造要件の記載方法を考案した.また,生物薬品各条試験法の記載方法を整理し,原案作成要領として提案した.

3)宿主細胞由来タンパク質の試験法に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

米国薬局方及び欧州薬局方に収載予定の宿主細胞由来タンパク質の試験法に関するガイドラインについて,調査分析した.

4) 日本薬局方 糖鎖試験法の国際調和に関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団研究補助金)

抗体医薬品を用いて,2-AB誘導体化及びHILIC/FL法,並びにAPTS誘導体化及びCE/FL法の再現性を確認した.

5) 日本薬局方の国際化に関する調査研究(一般試験研究費)

第十七改正日本薬局方に収載される生物薬品関連の各条,一般試験法,及び参考情報について,適切な英語表記に関する調査を行った.

4.先端的バイオ医薬品等開発に資する品質・有効性・安全性評価に関する研究

1) 新規基材を用いて製造されるバイオ医薬品の品質・安全性確保に関する研究(AMED 創薬基盤推進研究事業)

トランスジェニックカイコを用いて製造されたTNFR-Fcの特性解析を行い,CHO細胞で製造されたTNFR-Fcとの糖鎖構造や熱安定性,凝集性などの物理化学的性質の相違を明らかにした.

2) Claudinを標的とした創薬基盤技術の開発(AMED創薬基盤推進研究事業)

pH感受性蛍光色素により標識した抗Claudin抗体の細胞内取り込み,及び,抗腫瘍薬結合Protein G共存下における細胞傷害活性について検討を行い,作製した抗Claudin抗体が抗体薬物複合体として適用可能であることを明らかにした.

3) 医薬品の力価測定法に関する研究(AMED創薬基盤推進研究事業)

多様な薬効を有する医薬品をモデルとし,疼痛抑制作用の力価試験法の設定に向け,培養細胞及び疼痛モデルマウスを用い,薬理学的な特性を解析した.

4) 抗体医薬品の血中半減期延長技術確立を目指したFcRn親和性の基盤研究(科学研究費補助金(日本学術振興会))

FcRn親和性を改変した抗体について,血中半減期と相関の高いFcRn親和性の解析方法を明らかにすることを目的とし,表面プラズモン共鳴法を用いた各種解析方法に関して,算出される親和性等の違いを明らかにした.