ノロウイルスとは
 

ノロウイルスは直径約30〜40nmの金平糖のような形状をしています(右図)。ノロウイルスは分類学上属名にあたり,種名はノーウォークウイルス(Norwalk virus)です。現在ノロウイルス属にはノーウォークウイルス種の1種のみが含まれているため,どちらで呼んでも同義です。しかし,世界で最初に検出されたノーウォークウイルス(種)の株の名前がノーウォークウイルスであることから,ノーウォークウイルスと記載した場合,種名を意味するのか株名を意味するのか混同しやすいため,ノロウイルスと呼ばれるようになったとされています(株名を指す場合は,1968年に検出されたことからノーウォークウイルス/68と記載されることがあります)。

ノロウイルスの電子顕微鏡像

ノロウイルスの電子顕微鏡像

     
ノーウォークウイルス種は約7.6kbの1本鎖(+)RNAをゲノムとして持っています。その塩基配列の相同性によりGIからGVの遺伝子群に分類されています。このうち,ヒトに感染するのはGI,GIIおよびGIVの3つの遺伝子群のウイルスで,ヒトの感染症や食中毒から検出されるノロウイルスの大半はGIとGIIに属しています。GIIIはウシから検出されたウイルスで,近年ノロウイルス属に含まれるウイルスの中で唯一培養細胞での増殖に成功したマウスノロウイルスはGVに属しています。

GIおよびGIIの各遺伝子群は,それぞれ少なくても14種類(GI/1〜GI/14),21種類(GII/1〜GII/21)の遺伝子型に分類されています。異なる遺伝子型は基本的に抗原性が異なります。後述のように,近年全世界的に流行しているノロウイルスは遺伝子型GII/4に属しています。

ノロウイルスのゲノムには,ORF1(ウイルスの複製に関与する非構造蛋白質をコード),ORF2(構造蛋白質VP1をコード)およびORF3(VP2をコード)の3つの読み取り枠が存在しています。VP1はウイルス粒子を構成する主要な蛋白質で,その粒子表面に位置するP-ドメインのアミノ酸配列は多様性に富み,流行の中で変異を繰り返しています。また,ノロウイルスはORF1とORF2のジャンクション領域で,ゲノムの組み換えを起こします。組み換えを起こしているウイルスはキメラウイルスと呼ばれています。

ノロウイルスはエンベロープを持たないため,エタノールには比較的耐性で,その消毒剤には次亜塩素酸ナトリウムが推奨されています。加熱による不活化は中心温度85℃,1分以上の加熱条件が推奨されています。

ヒトのノロウイルスは未だ培養細胞や小動物での増殖に成功していません。このことがノロウイルスのウイルス学的な性状の究明、抗ウイルス薬の開発、環境中での生存性あるいは不活化条件等の把握等の研究を進める上で、大きな支障になっています。

      

ノロウイルスはカリシウイルス科に属します。カリシウイルス科にはノロウイルスと同様に食中毒や感染症の原因となるサッポロウイルス(Sapporo virus種)が含まれ,同じように属名でサポウイルスと呼ばれる場合が多いです。ノロウイルスの代替えウイルスとしてよく使用されているネコカリシウイルス(Feline calicivirus)はカリシウイルス科のベシウイルス属に含まれます。

 

表 ノロウイルスの分類学上の位置

カリシウイルス科Caliciviridae

ノロウイルス

Norovirus

ノーウォークウイルス

Norwalk virus

サポウイルス

Sapovirus

サッポロウイルス

Sapporo virus

ラゴウイルス

Lagovirus

ヨーロッパ褐色野兎症候群ウイルス

European brown hare syndrome virus

ウサギ出血病ウイルス

Rabbit hemorrhagic disease virus

ネボウイルス

Nebovirus

ニューバリー-1ウイルス

Newbury-1 virus

ベシウイルス

Vesivirus

ネコカリシウイルス

Feline calicivirus

豚水疱疹ウイルス

Vesicular exanthema of swine virus

 

関連情報

ノロウイルス感染症とは(国立感染症研究所)

Norovirus(CDC)

      

(平成24年12月27日掲載)  


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