毒性部について
毒性部では、化学物質・食品・医薬品の安全確保に向け、毒性試験データの精査・評価による規制安全性評価と、毒性機序の解明および新規評価手法の構築研究を推進しています。内分泌かく乱物質やナノマテリアル、PFAS(有機フッ素化合物)など既存の枠組みでは評価の困難な毒性学的課題に対しても先見的な調査・研究を継続しています。従来手法と先端技術を融合した精緻な毒性評価法を開発して行政的に実用化し、ヒトへの健康被害を未然に防止することで、国民の安全な生活の維持に貢献します。

毒性部の過去・現在・未来
[信頼の蓄積から次世代評価系の構築へ — 毒性学の社会実装を牽引する歩みと展望 —]
毒性学とは、医薬品や化学物質によって引き起こされる、生体にとって好ましくない有害反応(毒性)を明らかにし、その発現メカニズムを解明することで、人を健康被害から未然に守ることを目標とする学問です。当部はこの毒性学を基盤とし、1964年の発足以来、国内の多岐にわたる物質の安全性評価を科学的側面から支えてきました。
当部の歩みは、サリドマイド事件後の医薬品の安全性を科学の力で守るという強い社会的要請から始まりました。以来、メチル水銀、AF-2(フリルフラマイド)、遺伝子組換え食品、そして健康食品等の安全性を巡る諸課題に対し、300件を超える広範な毒性試験を通じて有害反応を同定し、行政判断のための信頼性の高い科学的根拠を提供してきました。この長年の蓄積こそが、当部への信頼性の基盤となっています。
生命科学の進展に伴い、毒性学も「定性から定量へ」、「相関から因果へ」という大きな転換点を迎えています。それに伴い、安全性評価法を見直す必要が出てきており、今や、New Approach Methodologies (NAMs、新規アプローチ法)等、現行の動物試験とは異なる評価法の開発も盛んになってきています。当部では生体内の現象を分子レベルで網羅的・量的に解析するため、トキシコゲノミクスやシステム毒性学をいち早く導入してきました。さらに、エクソソーム解析などによる低侵襲なバイオマーカー開発や、ウェアラブルデバイスやMRIを用いた非侵襲かつ経時的な解析に基づく評価法の構築などを精力的に進めてきています。これらは、最新の科学を「ヒトと社会に役立つ形」に調整するレギュラトリーサイエンスの具現化でもあります。また、内分泌かく乱物質やナノマテリアルの生体への影響、化学物質の情動認知行動への影響といった、評価が困難な課題に対しても、伝統的な専門技術と新技術を融合させる研究を推進しています。
これからは、積み重ねてきた膨大な毒性学の知見を、次世代の安全性評価法へと発展・展開させていくことが重要です。この実現に向け、今は行政判断等に必要な伝統的手法による安全性評価を着実に遂行しつつ、NAMs等の新技術を、どのように科学的に堅牢な形で行政の意思決定に活用していくか、その社会実装のための科学的基準の確立を進めます。国民の健康と安全な生活の維持に貢献が私たちの使命です。今後もその実現のため部員一同邁進してまいります。
毒性部長 山田隆志


