研究概要

安全性予測評価部では、以下の業務に取り組んでいます。

化審法に関する業務

化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)とは?

化学物質の有する性状のうち、「分解性」、「蓄積性」、「人への長期毒性」又は「動植物への毒性」といった性状や、環境中での残留状況に着目し、上市前の事前審査及び上市後の継続的な管理により、人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境汚染を防止することを目的としている法律です。
(詳しくは、経済産業省のホームページをご覧ください)

安全性予測評価部では、化審法における新規化学物質及び既存化学物質のリスク評価のうち、厚生労働省が担当する「人健康影響評価」のために、評価書等の原案作成や行政支援を行っています。

安全性予測評価部が評価書等の原案作成を担当するのは、以下の評価です。
・新規化学物質のスクリーニング評価
・一般化学物質等のスクリーニング評価
・優先評価化学物質のリスク評価(一次:評価Ⅰ及び評価Ⅱ)
(*化審法におけるスクリーニング評価・リスク評価については、こちら))

また、既存化学物質のスクリーニング評価のために実施した毒性試験(Ames試験、in vitro染色体異常試験、反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験等)の結果や国際統一化学物質情報データベース (IUCLID)形式にまとめた試験概要を、既存化学物質毒性データベース(JECDB)に掲載し、貴重な毒性試験情報の国内外への共有を行っています。

対象物質については、化審法データベース (J-CHECK)をご覧ください。

食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度に係わる業務

食品を入れる容器や包装するフィルムは食べ物や飲み物の品質保持や持ち運びなど、様々な目的で使用され、私達の日常生活に欠かせないものとなっています。これらは主に合成樹脂から作られており、ネガティブリストによる規制と業界団体の自主的な判断により長年管理されてきました。

昨今、器具・容器包装製品が多様になり、輸入品の増加が進んだことなどを受けて、令和2年6月より食品用器具・容器包装の規制にポジティブリスト制度が導入されました(平成30年6月13日公布の食品衛生法等の一部改正による)。

ネガティブリスト制度が化学物質の原則使用を認めた上で、使用を制限する物質を定めるのに対し、ポジティブリスト制度では安全性が評価された物質の使用のみが許可されます。安全性予測評価部では、数千に及ぶリスト収載物質の毒性情報の収集、ポジティブリストの整備に取り組み、科学的根拠に基づいた合理的な安全性評価を目指しています。

水道における水質リスク評価および管理に関する研究

日本国内の水道水の水質管理区分は、水道法により管理されている水道水質基準項目の他、水質管理目標設定項目及び要検討項目の3つに分類され、人が水道水を生涯摂取し続けることを想定して汚染化学物質に関する基準値や目標値が設定されています。安全性予測評価部では、これらの基準値や目標値等の設定及び改定に資するために、最新の化学物質の毒性情報や国内外の評価手法情報を収集し整理し、厚生労働省に提供しています。近年の研究成果としては、自然災害や事故などによる短期的な水道水質汚染が生じ、汚染化学物質の基準値等が一時的に超えた場合に断水を行うかなどの判断材料として、短期的に許容できる参照値を算出し提案しました。

毒物、劇物指定に必要な評価書に関する業務

毒物及び劇物取締法について

毒物及び劇物取締法は、日常流通する有用な化学物質のうち、主として急性毒性による健康被害が発生するおそれが高い物質を毒物又は劇物に指定し、保健衛生上の見地から必要な規制を行うことを目的としています。

~安全性予測評価部の仕事~

化学物質は厚生労働省の専門家会議で「毒物」又は、「劇物」に指定されます。安全性予測評価部では専門家会議で使用される「評価書」を作成して、急性毒性による健康被害の発生防止に貢献しています!!

毒劇物指定までの流れ

さらに詳しく知りたい方

インシリコ評価手法、IATAに関する研究

十分な試験データのない化学物質について、安全性評価をどのようにすすめていくかが大きな課題となっています。さらに、動物福祉の観点から動物を対象とした試験の削減の流れも着実に進んでいます。こうした動向に対応するため、近年、コンピュータで毒性を予測するin silico毒性評価手法の技術レベルの向上、適用範囲の拡大、安全性評価での実運用が、国際的に強く求められています。安全性評価部ではin silico毒性評価手法に関連した以下の研究開発業務を進めています。

毒性データベースの構築とその国際共有

精度の高いin silico毒性評価手法を開発するために、その基盤となる信頼性の高い毒性データベースを構築しています。また、国内外の諸機関と協力して、毒性データベースの共有を推進しています。

In silico毒性評価手法の検証・改良・新規開発

得られた毒性データベースのデータを用いて詳細な解析を行い、種々のin silico手法(TTC, QSAR, Read-across)について、既存のモデルの検証・改良および新規モデルの開発を進めています。

統合的評価手法の事例研究

また、in silico手法と体内動態、生体内代謝、in vitro bioactivityなどのNAM: New Approach Methodologiesによる各種データを組み合わせた統合的評価手法(IATA; Integrated Approaches to Testing and Assessment)による毒性予測の事例研究に取り組んでいます。OECDのプロジェクトなどにおいて得られた評価結果に基づき、化学物質の毒性予測結果を安全性評価へ利用するに当たっての課題の抽出・整理を行っています。

化学物質安全性ビッグデータベースの構築とAIを用いた医薬品・食品・生活化学物質のヒト安全性予測基盤技術の開発研究

ゲノム安全科学部、毒性部、医薬安全科学部との共同プロジェクトとして、化学物質安全性ビッグデータベースの構築と、人工知能(AI)を用いた医薬品・食品・生活化学物質のヒト安全性予測基盤技術の開発研究を行っています。

In silico毒性評価手法による安全性データの行政的受入れへ向けた取組み

さらに、国内外の機関が主導するワークグループに参画し、in silico毒性評価手法に関する検討、ガイダンスの作成などに協力しています。

関連リンク

ベンチマークドーズ (BMD)法に関する研究

BMD法とは?1)

化学物質のばく露量と、当該物質によりもたらされる影響の発生の頻度又は量との関係(用量反応関係)は、特定の数学的関数(数理モデル)に従うという仮定の下、BMD(一定のBMRをもたらす化学物質のばく露量)及びその信頼区間を算出する方法。BMR(Benchmark Response)とは、用量反応関係全体に数学的関数(数理モデル)を当てはめて得られた関数(用量反応曲線)におけるバックグラウンド反応からの反応量の変化のことをいう。

BMD法は、化審法におけるリスク評価(評価Ⅱ)の人健康影響評価や、食品安全委員会での食品健康影響評価において活用されています。

具体的な活用事例として、各種化学物質の有害性評価値(TDI:耐容一日摂取量など)を求める際に、動物を用いた毒性試験から得られた二値データ(病理所見の発生頻度等)に本法を適用して用量-反応関係を解析し、BMRを10%としたときのBMDL10(Benchmark Dose Lower Confidence Limit: BMDの信頼区間の下限値)を導出し、基点(POD: point of departure)として用います2)

安全性予測評価部では、H22~H24年度食品健康影響評価技術研究「用量反応性評価におけるベンチマークドース法の適用に関する研究」の成果を「BMDLシミュレーション結果データベース」に公開しています。

また、食品安全委員会の評価技術ワーキンググループへの参画など、BMD法に関する近年の国際動向を踏まえ、より良い本法活用のための研究活動を継続しています。

(参考)

1)食品安全委員会 (2019) 食品健康影響評価におけるベンチマークドーズ法の活用に関する指針 (2023年9月改正)
[動物試験で得られた用量反応データへの適用]
https://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/hyoukagijyutukikaku.data/bmdguidance230912rev.pdf

2) ILSI JAPAN 食品リスク研究部会(監修:広瀬明彦)2012年改訂
リスクアセスメントで用いる主な用語の説明
http://www.ilsijapan.org/ILSIJapan/COM/TF/sr/120216_Term_RevisedEdition.pdf

OECD環境健康安全プログラム活動への貢献

OECDの化学物質安全性及びバイオセーフティに関する活動は、環境、健康及び安全 (EHS) プログラムの下で実施される。安全性予測評価部は、以下に示すEHSプログラムの作業分野及び作業部会等の活動に継続的に参加している。

有害性評価計画

有害性評価作業部会

  • IATAケーススタディプロジェクトの下で化学物質のグループ評価の為の統合的試験評価アプローチ (IATA*) 文書の作成
  • 既存化学物質安全性点検事業で行われた毒性試験データのOECD QSARツールボックスへの提供

*AOP(有害性発現経路)とは?:AOPは、健康への有害影響または生態毒性影響に至る生物学的組織の異なるレベルでの因果関係のある一連の事象を記述し構造化したものである(下図参照)。AOPは、メカニズム的推論に基づく化学物質のリスク評価を支援するために構築される毒性学的知識のフレームワークの中心的要素である。

多数の経路を例示して模式化したAOPの概略図
AOP image

*IATAとは?: IATAは、既存の情報の統合的な分析と試験戦略を使用した新しい情報の生成を組み合わせた、化学物質の有害性評価のための実用的な科学ベースのアプローチです。

*IATAにAOPを使用する理由は?: IATAは様々な方法の組み合わせを含み、1つまたは複数の方法論的アプローチ[(Q) SAR、リードアクロス、in chemicoin vitroex vivoin vivo]またはオミクス技術(例えばトキシコゲノミクス)などからの結果を統合することによって知ることができる。

OECD のホームページからの引用を和訳

行政支援

安全性予測評価部のスタッフは、化学物質評価文書や試験法ガイドラインの作成、国内外のレギュラトリー専門家会議への参加等を行い、国内外の各種機関が行う化学物質のリスク評価の発展に貢献しています。

2018-2019年度実績

<国内>

  • 厚生労働省
    • 水質基準逐次改正検討会
    • 化学物質安全性評価委員会
    • 化学物質安全対策部会化学物質調査会
    • 毒物劇物調査会
    • 家庭用品専門家会議
  • 内閣府 食品安全委員会
    • 汚染物質等専門調査会
    • 評価技術企画ワーキンググループ
  • 医薬品医療機器総合機構専門委員会
  • JaCVAM運営委員会
  • その他
    • 国連危険物対応部会

<国際>

  • OECD(経済協力開発機構)
    • ハザードアセスメント作業委員会(WPHA)
    • IATAケーススタディプロジェクト会議
    • (Q)SARツールボックス・マネジメント・グループ会議
  • WHO(世界保健機構)
    • IPCS国際化学物質安全性カード(ICSC)原案検討会議
  • ICH(医薬品規制調和国際会議)
  • EFSA(欧州食品安全機関)Read-Across Work Group