■ PFOS及びPFOA 固相抽出―液体クロマトグラフ―質量分析法 質疑応答集 (Q&A)
令和2年3月30日公開、令和3年3月29日更新(本ページのPDF版はこちら)
1. 試薬
- Q1-1) 分岐鎖PFOS、分岐鎖PFOA及び分岐鎖PFHxSが含まれる標準物質あるいは内部標準物質を用いてもよいか。
- A1-1) 分岐鎖PFOS、分岐鎖PFOA及び分岐鎖PFHxSが含まれる標準物質あるいは内部標準物質を用いてもよいが、直鎖PFOS、直鎖PFOA及び直鎖PFHxSを主成分とし、かつ直鎖PFOS、直鎖PFOA及び直鎖PFHxSの濃度が明確であるものを用いること。
- Q1-2) PFOS、PFOA及びPFHxSの標準物質は、塩(例えばPFOSナトリウム塩)としての濃度が記載された市販標準液を使用してもよいか。
- A1-2) 使用しても問題ない。ただしPFOS、PFOA及びPFHxSはいずれも酸(C8HF17O3S、C8HF15O2及びC6HF13O3S)としての濃度を求めること。
- Q1-3) 内部標準物質を使用しなくてもよいか。
- A1-3) 「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」に従い、各検査機関が自らの標準作業書に示す検査方法の妥当性を評価できれば、内部標準物質を使用しなくてもよい。ただし、「標準検査方法以外の検査方法を検査室に導入する場合」に該当するので、室内精度を含む全ての性能パラメータを確認する必要がある。なお、PFOS、PFOA及びPFHxSは器具及び装置等に吸着しやすい物質であり、内部標準物質を使用しない場合は回収率の補正ができないため、十分な回収率(真度)が得られることを確認すること。
- Q1-4) 内部標準物質として用いる13C-PFOS、13C-PFOA及び13C-PFHxSには、13Cの数が異なる複数の種類の市販品が販売されているが、どのようなものを使用すればよいか。
- A1-4) 直鎖13C-PFOS、直鎖13C-PFOAび直鎖13C-PFHxSを主成分とする標準品であれば、13Cの数や分子内の位置によらず、どのようなものでも使用できる。なお、一般的に入手可能な13C-PFOS、13C-PFOA及び13C-PFHxSの種類を検査方法の表1に例示した。
- Q1-5) 有機フッ素化合物混合標準液及び混合内部標準液は保存可能か。
- A1-5) 有機フッ素化合物混合標準液及び混合内部標準液は用時調製すること。PFOS、PFOA及びPFHxSは難分解性だが、保存容器の開閉を繰り返すとメチルアルコールが徐々に揮発して濃度が変化する可能性がある。なお、有機フッ素化合物標準原液及び内部標準原液は、有機フッ素化合物混合標準液及び混合内部標準液と比べて保存容器の開閉頻度が低いと考えられるため、冷凍保存しても差し支えない。
- Q1-6) PFHxSを分析対象としない場合、有機フッ素化合物混合標準液及び混合内部標準液をどのように調製すればよいか。
- A1-6) PFOS及びPFOAのみを分析対象とする場合はPFHxSの標準原液並びに内部標準原液を調製する必要はない。有機フッ素化合物混合標準液にはPFOS及びPFOAのみ、混合内部標準液には13C-PFOS及び13C-PFOAのみそれぞれ添加すればよい。
2. 器具及び装置
- Q2-1) 固相カラムは例示している充填剤以外のものも使用できるのか。
- A2-1) 「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」に従い、各検査機関が自らの標準作業書に示す検査方法の妥当性を評価できれば、例示している充填剤以外の固相カラムを試験に用いてもよい。ただし、前処理の手順や条件を変更する場合は「標準検査方法以外の検査方法を検査室に導入する場合」に該当するので、室内精度を含む全ての性能パラメータを確認する必要がある。
3. 試料の採取及び保存
- Q3-1) 試料はどの程度の期間、保存できるのか。
- A3-1) PFOS、PFOA及びPFHxSは難分解性であるが、試料採取後、速やかに試験することが望ましい。速やかに試験できない場合は試験日まで試料を冷蔵保存しておくこと。
- Q3-2) 脱塩素処理剤(例えばアスコルビン酸ナトリウム)を添加して検査を行ってもよいか。
- A3-2) 水道水中の残留塩素によりPFOS、PFOA及びPFHxSが分解することはないと考えられるため、採水時に脱塩素処理を行う必要はないが、アスコルビン酸ナトリウム等で脱塩素処理を行った検水を検査に用いても差し支えない。
4. 試験操作
- Q4-1) 固相抽出を行わず、液体クロマトグラフ―質量分析計に直接注入して分析してもよいか。
- A4-1) 「水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン」に従い、各検査機関が自らの標準作業書に示す検査方法の妥当性を評価できれば、固相抽出を行わず液体クロマトグラフ―質量分析計に直接注入して分析してもよい。ただし、「標準検査方法以外の検査方法を検査室に導入する場合」に該当するので、室内精度を含む全ての性能パラメータを確認する必要がある。なお、直接注入による分析を行う場合も、固相抽出を行う場合と同様に、PFOS及びPFOAそれぞれについて暫定目標値の1/10に相当する0.000005 mg/L (5 ng/L)まで測定できることを確認すること。
- Q4-2) PFOS、PFOA及びPFHxSいずれも直鎖と分岐鎖の異性体のピークを分離せず、クロマトグラム上に1本のピークとして観測されるような分析条件を設定して分析してもよいか。
- A4-2) PFOS、PFOA及びPFHxSはいずれも直鎖と分岐鎖の異性体のピークが分離する分析条件を設定して分析を行うこと。PFOS、PFOA及びPFHxSいずれも直鎖と分岐鎖の異性体のピーク面積を合わせて濃度を算定するため、異性体のピークを分離しなくても濃度の算定結果に違いは生じないと考えられる。しかし、異性体のピークを分離しない条件で分析した場合、検査対象物と妨害物のピーク分離が不十分になる可能性があるため、選択性の観点から直鎖と分岐鎖の異性体のピークを分離する必要がある。
- Q4-3) 標準品の分析では直鎖PFOS、PFOA及びPFHxSのピークしか確認できなかった場合、分岐鎖PFOS、PFOA及びPFHxSの保持時間をどのように特定して定性すればよいか。
- A4-3) 本Q&Aの別紙に分岐鎖PFOS、PFOA及びPFHxSを含む試料の分析例(分析条件及びクロマトグラム)を幾つか掲載したので、それらを参考にして分岐鎖PFOS、PFOA及びPFHxSの定性を行うこと。
- Q4-4) 表1のプロダクトイオンには定量イオンと確認イオンが示されているが、確認イオンを用いてPFOS、PFOA及びPFHxSの濃度を求めてもよいか。
- A4-4) 原則として、表1に示した定量イオンを用いてPFOS、PFOA及びPFHxSの濃度を求めること。PFOS、PFOA及びPFHxSはモニターイオンによって直鎖と分岐鎖の異性体のピーク面積の割合が異なる。直鎖と分岐鎖の異性体のピーク面積を合わせて濃度を算出した際に、濃度がより高く算出されるようにする(安全側の評価を行う)ために、十分な強度が得られ、なおかつ分岐鎖の異性体のピーク面積割合が高いプロダクトイオンを定量イオンとして表1に記載した。
5. 検量線の作成
- Q5-1) 直鎖PFOS、PFOA及びPFHxSのピーク面積だけでなく、分岐鎖PFOS、PFOA及びPFHxSのピーク面積も合わせて検量線を作成してもよいか。
- A5-1) 標準物質及び内部標準物質は直鎖PFOS、PFOA及びPFHxSの濃度が明確なものを用いるため、分岐鎖PFOSあるいはPFOAのピーク面積は合わせず、直鎖PFOS及び直鎖PFOAのピーク面積のみを用いて検量線を作成すること。
- Q5-2) PFOS及びPFOAの定量下限は、どの程度の濃度まで確認する必要があるか。
- A5-2) PFOS及びPFOAそれぞれについて、暫定目標値の1/10に相当する0.000005 mg/L (5 ng/L)まで測定できることを確認する必要がある。
- Q5-3) PFHxSの定量下限は、どの程度の濃度まで確認する必要があるか。
- A5-3) PFHxSについては目標値が設定されていないが、PFOS及びPFOAと一斉分析が可能であり、これら2物質と同等の感度が得られることから、PFOS及びPFOAと同程度の濃度まで測定できることを確認することが望ましい。
例えば、PFOS及びPFOAの暫定目標値の1/10を参考に0.000005 mg/L (5 ng/L)まで測定できることを確認することが考えられるが、技術的に可能な範囲で、より低濃度まで測定することは差し支えない。
- A5-3) PFHxSについては目標値が設定されていないが、PFOS及びPFOAと一斉分析が可能であり、これら2物質と同等の感度が得られることから、PFOS及びPFOAと同程度の濃度まで測定できることを確認することが望ましい。
6. 空試験
- 6-1) 空試験(精製水を用いたブランク試験)は検査の都度、行う必要があるか。
- A6-1) PFOS、PFOA及びPFHxSは試験操作中に試料に混入する可能性が高い物質であるため、空試験を毎回行い、検査結果に影響を及ぼさないことを確認する必要がある。
7. その他
- Q7-1) ポリテトラフルオロエチレンが標準液及び試料と触れる部分(例えばチューブ、バルブ、デガッサ等)に使われている固相抽出装置やLC-MSを使用しても問題ないか。
- A7-1) 標標準液及び試料と触れる部分にポリテトラフルオロエチレンが使われている器具や装置を使用した場合、試験操作中にPFOS、PFOA及びPFHxSが溶出し、標準液及び試料に混入する可能性がある。使用する場合には事前に空試験を行い、使用する器具や装置が検査結果に影響を及ぼさないことを十分に確認すること。
- Q7-2) PFOS及びPFOAは得られた濃度を合計することになっているが、PFOS及びPFOAのどちらかが定量下限未満であった場合、どのように濃度を合計すればよいか。
- A7-2) 定量下限未満の物質の濃度は0として濃度を合計すること。
- Q7-3) PFOS及びPFOAの測定結果は合計値のみを報告すればよいか。
- A7-3) 合計値のみを報告すればよいが、事後に検査結果の検証が必要となった場合の対応等のため、PFOS及びPFOAそれぞれの測定結果について記録しておくこと。
別紙 PFOS、PFOA及びPFHxSの分析条件とクロマトグラムの例
分析例1:国立医薬品食品衛生研究所
LC | 機器 | Prominence UFLC (島津製作所) |
LCカラム | InertSustain AQ-C18 (2.1×150 mm, 3μm, ジーエルサイエンス) |
|
移動相A | 10 mM酢酸アンモニウム | |
移動相B | アセトニトリル | |
移動相流量 | B:25% (0-1 min) – B:100% (26-30 min) | |
移動相流量 | 0.2 mL/min | |
カラム温度 | 40℃ | |
注入量 | 5 μL | |
MS | 装置 | LCMS-8050 (島津製作所) |
検出器 | SRM | |
イオン化法 | ESIネガティブモード | |
プローブ電圧 | 3.5 kV | |
その他の MS条件 | ネブライザーガス流量:3 L/min, ドライングガス流量:10 L/min ヒーティングガス流量:10 L/min インターフェイス電圧:3.0 kV インターフェイス温度:300℃, 脱溶媒温度:500℃ DL温度:250℃, ヒートブロック温度:400℃ コンバージョンダイノード電圧:10 kV CIDガス圧力:270 kPa |

分析例2:地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所
LC | 機器 | UPLC H-Class (Waters) |
LCカラム | Ascentis C18 (2.1×150 mm, 5μm, Merck) | |
リテンション ギャップカラム | Delay column for PFAS (3.0×30 mm, ジーエルサイエンス) | |
移動相A | 10 mM酢酸アンモニウム | |
移動相B | アセトニトリル | |
移動相流量 | B:20% (0-2 min) – B:95% (22-28 min) | |
移動相流量 | 0.2 mL/min | |
カラム温度 | 40℃ | |
注入量 | 5 μL | |
MS | 装置 | Xevo TQS-micro (Waters) |
検出器 | SRM | |
イオン化法 | ESIネガティブモード | |
プローブ電圧 | 1.0 kV | |
その他の MS条件 | 脱溶媒ガス流量:1100 L/hr, コーンガス流量:50 L/hr 脱溶媒温度:500℃, イオン源温度:150℃ |

分析例3:東京都健康安全研究センター
LC | 機器 | Acquity Ultra Performance LC (Waters) |
LCカラム | ACQUITY UPLC BEH C18 (2.1×100 mm, 1.7μm, Waters) | |
移動相A | 10 mM酢酸アンモニウム | |
移動相B | アセトニトリル90%+10 mM酢酸アンモニウム10% | |
移動相流量 | B:40% (0-2 min) – B:98% (10-20 min) | |
移動相流量 | 0.2 mL/min | |
カラム温度 | 40℃ | |
注入量 | 2 μL | |
MS | 装置 | TRIPLE QUAD 5500 (AB SCIEX) |
検出器 | SRM | |
イオン化法 | ESIネガティブモード | |
その他の MS条件 | キャピラリー電圧: 4.5 kV, ネブライザーガス: 50 psi 脱溶媒温度: 400℃, ターボガス (脱溶媒ガス): 80 psi カーテンガス: 25 psi |
