■ 水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン 質疑応答集(Q&A)

平成30年3月27日公開,平成30年5月28日更新,令和5年3月24日更新

厚生労働省水道課 国立医薬品食品衛生研究所

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4. 妥当性評価の方法

  • Q4-1) 「検量線の作成方法(上限、濃度点、回帰式の算出方法等)のみ変更した場合は、検量線の評価のみ行えばよい」とあるが、検量線の作成方法を変更した場合、添加試料の評価結果も変わると考えられるが、添加試料の再評価は不要か。
    • A4-1) 妥当性が評価された検量線を用いて添加試料の評価を行っており、評価目標に適合していれば、その後で検量線の妥当性が確保できる範囲で検量線の作成方法を変更したとしても、添加試料の評価結果が目標に適合しなくなる可能性は低いと考えられるため、評価は不要である。添加試料の評価結果が大きく変わると考えられる場合は、添加試料の再評価を行う。
  • Q4-2) 「検量線の作成方法に影響しない部分のみ変更した場合は添加試料の評価のみ行えばよい」とあるが、具体的にはどのような場合が該当するか。
    • A4-2) 採水時に残留塩素を除去するための試薬や、試料の前処理方法(固相カラムの種類や試料の濃縮倍率)等を変更した場合が該当する。ただし、標準液も試料と同様に前処理を行う検査法の場合は、前処理方法の変更により検量線の作成方法に影響するため、検量線の評価も行う必要がある。
  • Q4-3) 測定条件を変更した場合、例えばカラムの温度や流速、質量分析における定量イオン、キャリアーガスやパージガスを変更した場合は、検量線と添加試料の両方の評価を再度行う必要があるか?
    • A4-3) 分析装置の測定条件の変更は、感度、ピーク形状等に影響を与え、定量結果にも影響を与える可能性があるため、検量線と添加試料の両方の評価を再度行う必要がある。ただし、機器のチューニングは測定条件の変更には該当しない。
  • Q4-4) 「試験操作や試験環境の変化が生じない場合(検査担当者の変更等)は、再度評価を行う必要はない」とされているが、検査室を移転した場合は、妥当性評価を再度行う必要があるか。
    • A4-4) 原則としてSOPに変更がなくとも妥当性評価を再度実施する必要がある。検査結果に影響を与えるおそれがない場合に限り評価を省略することができるが、移転前と比べて装置性能が同等以上か、試験環境に由来するブランクレベルが十分に低いかどうか等を確認してから判断する必要がある。
  • Q4-5) 妥当性評価を行う際に、告示法で規定されている空試験及び連続試験を実施する場合の措置は必要か。
    • A4-5) 必要ない。

 妥当性評価された検査方法等の一部を変更した場合に必要となる評価について,表1に整理した。

 表1. 妥当性評価された検査方法等の一部を変更した場合に必要となる評価

変更箇所 具体的な事例 必要となる評価 備考
検量線の作成方法のみ • 検量線濃度の上限、濃度点、回帰式の算出方法等の変更 検量線の評価のみ 妥当性が評価された検量線を用いて添加試料の評価を行っており、評価目標に適合していれば、検量線の妥当性が確保できる範囲で検量線の作成方法を変更したとしても、添加試料の評価結果が目標に適合しない可能性は低いため
検量線の作成方法に影響しない部分のみ • 採水時に残留塩素を除去するための試薬の変更
• 試料の前処理方法(固相カラムの種類や試料の濃縮倍率)等の変更
添加試料の評価のみ 標準液も試料と同様に前処理を行う検査法の場合は、前処理方法の変更により検量線の作成方法に影響するため、検量線の評価も行う必要がある
測定条件の変更 • カラムの温度や流速の変更
• 質量分析における定量イオンの変更
• キャリアーガス、パージガスの変更
検量線と添加試料の評価の両方 感度、ピーク形状等に影響を与え、定量結果にも影響を与える可能性があるため
検査室の移転 • 検査室の移転 検量線と添加試料の評価の両方 検査結果に影響を与えるおそれがない場合に限り評価を省略することができるが、移転前と比べて装置性能が同等以上か、試験環境に由来するブランクレベルが十分に低いかどうか等を確認してから判断する必要がある
その他 • 機器のチューニング
• 検査担当者の変更等
必要なし 試験操作や試験環境の変化が生じないと考えられるため

4-1. 検量線の作成

  • Q4-1-1) 「この一連の測定を繰り返し、各濃度の標準試料の測定データを3個以上取得する」とあるが、連続あるいは同一日に3回以上繰り返し測定したデータが必要か。
    • A4-1-1) 最初のブランク試料から各濃度の標準試料と最後のブランク試料までの一連の測定は連続して行う必要があるが、連続あるいは同一日に3回以上繰り返し測定する必要はない。
  • Q4-1-2) 「この一連の測定を繰り返し、」とあるが、ブランク試料を空試験の試料で代替したり、高濃度の標準試料の後のブランク試料と次の繰り返しにあたる最初のブランク試料を1本のブランク試料で兼ねることは可能か。
    • A4-1-2) 検査対象物の濃度が、検量線の濃度範囲の下限値を下回ることを確認できれば、キャリーオーバーもないことが確認できるため、代替は可能と考えられる。しかし、試料中の検査対象物の濃度が検量線の濃度範囲の下限値を超えた場合、これがキャリーオーバーによるものなのか、精製水に含まれるものなのか、前処理操作中の汚染によるものなのか区別ができないことに留意する必要がある。
  • Q4-1-3) 各濃度の標準試料の真度および精度を求める際の検量線は、3個以上取得した標準試料の測定データからどのように作成すればよいか。
    • A4-1-3) 連続あるいは同一日に全ての標準試料を測定した場合は、2つの方法が考えられる。
      ①全ての標準試料の測定データを用いて1本の検量線を作成し、この1本の検量線から各濃度の標準試料の真度および併行精度を求める。
      ②測定毎に1本の検量線を作成し、それぞれの検量線ごとに各濃度の標準試料の真度および併行精度を求める。
      標準試料の測定が複数日にわたる場合は、②の方法で評価を行う。
  • Q4-1-4) TOCの検量線は補正(直線の傾きはそのままで原点を通るように平行移動)をかけたものを使用しているが、検量線の評価の際も同様に補正をかけた検量線を用いるべきか。
    • A4-1-4) 妥当性評価を行った検量線と同一の作成方法の検量線で水質検査を行う必要があるため、通常の検査時と同様に補正をかけた検量線について評価を行う必要がある。
      この場合、各濃度点の真度および精度の評価においては、検量線と同様の方法で補正をかけてから、または検量線作成に用いた精製水の試験結果(濃度、面積等)を差し引いてから行う。

4-2. 検量線の評価

  • Q4-2-1) キャリーオーバーの評価において、最高濃度の標準試料の測定後に測定したブランク試料中の検査対象物の濃度が、検量線の濃度範囲の下限値を超えた場合はどのような措置が考えられるか。
    • A4-2-1) 下限値を下回ることが確認できるまでブランク試料を繰り返し測定する方法が考えられる。ただしこの場合は、水質検査を行う際にも同一回数だけブランク試料の測定を繰り返す必要がある。
  • Q4-2-2) 検量線の直線性を確保できる濃度範囲が狭く、直線回帰した場合に試料中の検査対象物の濃度範囲を1本の検量線でカバーできない場合は、どのような対応が考えられるか。
    • A4-2-2) 一例として低濃度側と高濃度側でそれぞれ別の検量線を作成して、試料中の検査対象物の濃度によって定量に使用する検量線を使い分ける方法が考えられる。ただしこの場合は、作成した検量線それぞれについて妥当性評価が必要となる。

4-3. 添加試料の調製

  • Q4-3-1) 定量下限における評価は精製水又はミネラルウォーター等を用い、水道水を用いて常在成分の影響がないとみなせる濃度で妥当性を評価する場合も添加試料の試験結果から添加前の試料の試験結果を差し引いて評価してもよいか。
    • A4-3-1) 差し引いて評価してもよい。なお、常在成分の影響がないとみなせる濃度とは、常在成分に対して添加量が誤差にならずに定量できる濃度という意味である。
  • Q4-3-2) 表流水や地下水などの種類の異なる水源の水を用いて妥当性評価を行う場合は、水源毎に分けてデータを取らなければならないのか。
    • A4-3-2) 水源毎に妥当性評価を行う必要はない。妨害物質が多い水での妥当性評価が目標を達成していれば、妨害物質が少ない水でも目標を達成すると考えられるので、妨害物質が多いと想定される水で妥当性評価を行うことが望ましい。
  • Q4-3-3) シアン化物イオン及び塩化シアンの告示法は脱塩素処理が規定されていないが、シアン化物イオンは残留塩素により時間と共に塩化シアンに変化するため、水道水の試験ではシアンと塩化シアンそれぞれの妥当性評価ができないと考えられる。この場合はどのように対応したらよいか。
    • A4-3-3) シアン化物イオンの妥当性評価(水道水添加)においては、水道水にシアン化物イオンを添加し、シアン化物イオンと塩化シアンの両方を測定して合算で評価すること。なお、検量線の外挿により妥当性評価に問題が生じる場合は、4-3(1)②の方法を用いて妥当性を評価すること。

4-4. 添加試料の評価

  • Q4-4-1) 「定量下限が高くならないと判断できる場合は、添加試料の濃度を定量下限としなくてもよい」とあるが、定量下限が高くならないと判断できる場合とは、どのような場合が該当するか。
    • A4-4-1) 検水の量、前処理における濃縮倍率、測定機器への注入量等を増加させた場合が該当する。

参考資料

関連リンク