ノロウイルス遺伝子型GII/4の発生動向と特徴
    

ノロウイルス遺伝子型GII/4の発生動向

近年GU/4と呼ばれる特定の遺伝子型のノロウイルスが世界各地で流行し,多くの集団発生を引き起こしていることが明らかになっています。さらに,GII/4に属するノロウイルスには毎年ないし数年おきに新しい変異株が出現することも示されています。従来ノロウイルスは,国内に限っても検出される遺伝子型が必ずしも全国一様ではなく,地域で流行している株が集団感染や食中毒を起こしていると考えられていました。しかし,少なくても近年のGU/4に関しては世界規模で流行を起こしています。

わが国でも2003年以降GU/4の検出が増加していましたが,流行株の主流を占めるもののその一部に過ぎませんでした。しかし,2006/07シーズンはこのGU/4が大流行しました。国立感染症研究所感染症情報センターのウイルス検出報告数を基にすると,検出ノロウイルスの約90%以上はGU/4であったと推定されます。このように特定の遺伝子型のノロウイルスの検出が多数を占めることは,遺伝子型別が行われるようになって以来はじめてのことでした。さらに遺伝子系統樹分析から2006/07シーズンに検出されたGU/4は大きく3グループに分類され,各地で主流であったタイプは過去の流行では検出されていない2006bと呼ばれる新型であることが明らかにされています。すなわち,2006/07シーズンの主流株GII/4 2006b変異株は出現とともに世界各国に拡がり,国内に侵入後わずかの間に全国各地で大流行を起こしたと考えられています。

そして,2012年の冬季,再びノロウイルスによると思われる感染性胃腸炎やノロウイルスによる集団感染事例や食中毒事件が多発しています。その原因の一つとして,2006/07シーズンと同様に,遺伝子型GII/4の変異株が新たに出現し,それが急速に全国に広まっていることが推察されています。我々のとりまとめによると,この変異株は北海道,大阪市で1月に採取された検体から最初に検出され,これまで全国各地で検出されています。10月以降急激に報告地域が増加しており,今後もさらに多くの自治体から検出報告があるものと予想されます。
    

ノロウイルス遺伝子型GII/4の特徴

遺伝子型GU/4のノロウイルスが世界的に流行したり、多くの食中毒や集団感染を引き起こす理由として、以下のことが考えられます。

(1) ノロウイルスGII/4は変異しやすい
遺伝子型GII/4のノロウイルスは他のノロウイルスと比較して、変異を起こしやすい特徴があります。2006/07シーズン以降をみても、GII/4には毎年ないし数年おきに新しい変異株が出現しています。ノロウイルスの変異は常に生じており、その変異は、流行の規模、ウイルスの感染力あるいは病原性の変化に必ずしも結びつくものではありません。しかし、その変異がウイルスの感染性や宿主の免疫に影響を与える場所に生じた場合は、流行拡大につながる場合があります。2006/07シーズンに大流行したGII/4の変異株である 2006bには、ウイルス構造蛋白質の表面の、腸管細胞に付着する部位付近に変化があることが明らかになっています。そのため、過去に遺伝子型GII/4に感染したヒトでも免疫が十分に機能せず、多くのヒトにとって2006bタイプのGII/4はこれまでに感染したことのない新しいタイプのウイルスとなり、多くのヒトが感染したものと考えられます。2012年に出現した変異株については、今後の詳細な分析の結果を待つ必要がありますが、同様のことが生じている可能性は少なくないと考えられます。
        
(2) ノロウイルスGII/4は感染力が強い
ノロウイルスは腸管に付着する際,細胞表面に発現する組織血液型抗原を利用し、かつノロウイルスの種類によって利用する組織血液型抗原に違いがあると考えられています。組織血液型抗原とはABO式血液型、ルイス式血液型に関与する糖鎖抗原で、赤血球のほか,胃,腸,膵臓など多くの臓器や唾液などで発現しています。赤血球以外の組織や唾液でのABO式血液型抗原の発現にはFUT2と呼ばれるフコース転移酵素が関与し、不活性型FUT2ホモの個体では発現しておらず、非分泌型個体と呼ばれています。

       

ノロウイルスの代表株であるノーウォークウイルス/68は、分泌型個体では感染が成立しますが、非分泌型個体では感染が成立せず、また、血液型でみるとO型のヒトの感染率が高く、B 型では感染率が低いことが報告されています。

          

一方、遺伝子型GII/4のノロウイルスは他の遺伝子型と比較して、結合できる組織血液型抗原の種類が多く、またそれぞれの組織血液型抗原への結合力も強いことが示されています。そのため、ノロウイルスの中で、GII/4は最も感受性者が多く、また、感染力が強いウイルスであると考えられています。
    
       

関連情報   

ノロウイルスのゲノム解析と流行発生のしくみ(日本感染症学会)

ノロウイルスと組織血液型抗原(日本ウイルス学会)

   

   

(平成24年12月27日掲載)   


戻る

国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部第四室ノロウイルス関連情報>ノロウイルス遺伝子型GII/4の発生動向と特徴

部長室 第一室 第二室 第三室 第四室 HOME