〔考察〕
PCB と甲状腺機能に関しては、油症や職業性暴露など比較的高濃度暴露を受けた集団での研究があり、PCB
が甲状腺機能に何らかの影響を及ぼしていることを示唆する報告が多い。ただし、コホート研究、コホート内症例対照研究など良くデザインされた疫学研究は少なく、このために観察された変化が真に臨床的に有意なものであるのかどうかの判断は困難である。観察された甲状腺への影響の機序として、ホルモンレセプターへの結合を介してのいわゆる内分泌系のかく乱以外に、(a)潜在的な甲状腺自己免疫異常を顕在化する、(b)甲状腺に対する作用(例えばラットでは甲状腺に組織学的な肥大を起こすことが知られている)、特に、甲状腺上皮細胞の肥大などを通じて、抗原の提示が起こり、新たに甲状腺自己免疫異常が生ずる、の二つも考慮しておく必要がある。また、子供や授乳期の母親における研究以外に、一般人口においてPCB
の影響を調べた研究はなく、一般人口においても体内の残留が無視できないため研究が必要である。
PCB 以外には有機塩素系化合物のHCB
についての報告があったが、ほとんどが断面研究であり、甲状腺機能に影響があるかどうかは現状の文献のみでは判断できなかった。以上のように、化学物質と甲状腺機能との関連についての疫学研究の知見は、PCB
についてはいくつか報告があった。しかし、それら以外の物質に関する研究は現状ではほとんどなく、因
果関係を評価することは不可能である。有機塩素系化合物のHCB で甲状腺機能への影響が疑われていることを考慮すると、今後は、PCB
以外の有機塩素系化合物の物質についても研究を行う必要がある。〔結論〕
内分泌かく乱化学物質暴露と甲状腺機能についての疫学研究をレビューしたところ、PCB
については甲状腺機能に何らかの影響を及ぼしているという結果が複数の研究で報告されていた。他の有機塩素系化合物に関してはHCB
についてのみ研究されていたが、現時点での知見では、甲状腺機能に影響を及ぼすかどうかは判断できない。その他の化学物質、特に有機塩素系化合物と甲状腺機能の関連に関する研究がなく、両者の因果関係を適切に評価することは不可能であった。この点については信頼性の高い研究デザインを用いた研究の必要性が示唆された。
〔参考文献〕
〔表2-7-1
内分泌かく乱化学物質と甲状腺機能への影響に関するコホート研究〕
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