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Rathore ら(2002)は有機塩素系殺虫剤の負荷量と甲状腺機能に及ぼす影響について検討した。1997〜1998
年にインド、Sawai Man Singh 医科大学病院外来を受診したJaipur 市に居住する女性123
例について血清中甲状腺ホルモン値を測定した。100 例はT4、TSH 値が正常(甲状腺機能正常群)、23 例が血清中T4
値低下とTSH 値上昇を示した(甲状腺機能低下群)。ガスクロマトグラフィーを用いて、2
群間における有機塩素系殺虫剤の質的、量的評価を行った。
検出された殺虫剤のうち、総DDT(p,p'-DDD、p,p'-DDE、p,p'-DDT)は両群とも高く(甲状腺機能正常群6.91±0.55ppm、甲状腺機能低下群8.43±1.15ppm)、次いで総HCH(各3.86±0.35ppm、3.82±0.68ppm)であった。ジエルドリンは甲状腺機能正常群では2.5±0.31ppm
であったが、甲状腺機能低下群では5.38±1.23ppm
と有意に高かった(p<0.05)。ヘプタクロルは甲状腺機能正常群で1.41±0.15ppm、甲状腺機能低下群で1.18±0.24ppm
であった。被験者の大半が高年齢であったが(31〜40 歳:44 例、41〜50 歳:32 例)、農薬残流量は11〜20
歳(25.18±1.8ppm)、21〜30 歳(23.38±6.06ppm)の甲状腺機能低下群でより多かった。
Garry ら(2003)は慢性疾患のない農薬散布者144 例と都市住民対照群49
例において、農薬散布と甲状腺機能との関連性を検討した。農薬使用状況により、除草剤散布のみ(24 例)、殺菌剤と殺虫剤(42
例:殺菌剤の空中散布17 例、地上散布25 例)、当散布期間中に農薬使用なし(52例)、対照群(49
例)に分けて、夏季と秋季の2
回採血し、血中ホルモン濃度を測定した。除草剤散布のみの群では、夏季に比べて秋季でテストステロン値の有意な上昇がみられ、また秋季には卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)値の上昇も認められた。殺菌剤使用についての初期断面疫学研究では、過去の殺菌剤使用歴は散布者間で出生した児の性別比の有
意な変化に関連していることが明らかとなっているが、本研究被験者間でも過去の殺菌剤使用歴は女児の出生数の増加に関連していた。また4
分位した平均総テストステロン濃度が平均値より低い群では、女児の出生数の増加が認められた。農薬散布者間では甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度の夏季から秋季にかけての低下がみられ、特に当シーズン中に殺菌剤の空中散布を行った群では、TSH
値(1.75〜1.11mU/L)に有意な変化が示されたが、対照群にはみられなかった。無症候性甲状腺機能低下症は、対照都市住民被験者間では少なかったが、散布者間では144
例中5 例(TSH 値>4.5 mU/L)に認められた。
Ribas-Fito ら(2003)はヘキサクロロベンゼン(HCB)の高濃度地域で出生した新生児における甲状腺状態と有機塩素系化合物の出生前暴露との関連性について調べた。 |