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Koopman-Esseboom ら(1994)は、オランダで105
組の新生児と母親のペアについて、甲状腺ホルモン(TT4、TT3, FT4, TSH)を測定し、また血液と母乳についてPCB
とダイオキシンを測定した。PCB の濃度の高い乳汁を出す母親のT4、T3 が低く、ペアをなす子供の生後2週間のTSH
濃度が高かったことを観察している。Nagayama ら(1998)は、乳汁中のPCDD、PCDF、Co-PCB
を測定し、1歳児36 人の甲状腺機能との相関を見たところ、これらの物質の毒性指数(TEQ)とT4、T3
が逆相関することを報告している。
Tsuji and
Ito(2003)は油症患者に甲状腺機能検査を行い、油症原因物質の甲状腺機能に対する慢性的影響について検討した。油症認定患者115
例(男48 例、女67 例:平均年齢63.3 歳)に対して福岡県油症一斉検診を行った。甲状腺機能検査としては甲状腺刺激ホルモン(TSH)、トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)を電気化学発光測定法により測定した。血中PCB
濃度が2.3ppb 未満の58 例(低濃度群)と2.3ppb 以上の57
例(高濃度群)に分けて、両群間の甲状腺機能検査異常の出現頻度を検討した。
115 例中、TSH 値、T3 値、T4 値のいずれか1 項目以上に異常を認めた患者は20 例(17.4%)であった。TSH
値の低下を6 例(5.2%)、上昇を13 例(11.3%)、T4 値の上昇を1 例(0.9%)に認めたが、T3
値の異常を示した例はなかった。T3 値の上昇を認めた13 例では、全例T3 値、T4
値は正常であり、潜在性甲状腺機能低下状態と考えられた。血中PCB 濃度とTSH値、T3値、T4
値の間に相関はみられず、低濃度群と高濃度群間でTSH 値異常出現率に差をみなかった。2.HCB
1)コホート研究
Gocmen ら(1989)は、トルコのある地域において過去にHCB
に暴露した集団のうち、その暴露が原因でポルフィリア症になった病歴がある者を対象として、約20-30
年後に後向きの調査を行った。その結果、甲状腺肥大が34.9%にみられた。ただし、この研究では対照群等との比較は行われていない。
2)症例対照研究
該当する文献はなかった。
3)断面研究
Sala ら(1999)は、スペインの電気化学工場近隣の大気中HCB
濃度が高い地域の住民を調べた。無作為に抽出した対象者での平均血清中HCB
濃度は、男性では、その工場で一度も働いたことのない者9.0 ng/mL、過去作業者27.1 ng/mL 、現在作業者54.6
ng/mL、女性では、一度も働いたことのない者14.9 ng/mL、過去作業者22.2 ng/mL 、現在作業者13.5 ng/mL
であった。男女とも、その工場でこれまでに働いたことがある者と一度も働いたことがない者の間で甲状腺機能低下症の罹患率に有意な差はみられなかった。 |