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3)断面研究
Murai ら(1987)の油症患者124 名を16 年後に調査した結果では、血清T3、T4 は対照群より有意に高く、TSH
は対照群と差がなかった。血清PCB レベルとT3、T4、TSH
の間に相関はみられなかった。甲状腺腫の頻度は女性で11/74(15%)であった。さらに、辻ら(1997)による油症患者の28
年後の調査では、油症認定患者81
例中8例に油症発症以後の甲状腺疾患(バセドウ病3例、慢性甲状腺炎2例、甲状腺癌2例、甲状腺腫瘍1例)がみられた。これらの甲状腺疾患有病者は血中PCB
濃度が高値である者に多い傾向があった。これらの甲状腺疾患患者以外に、甲状腺検査のみで異常を示した者は6例で、4例はTSH
軽度上昇、2例は軽度低下を示した。TSH
上昇例の4例中3例は抗甲状腺抗体が陽性であり、慢性甲状腺炎による潜在性甲状腺機能低下症を疑わせる所見であった。TSH
低値を示したものについては、バセドウ病ほど低下の程度が著しくなく病態は不明である。T4、T3、TSH
については、対照群と差がなく、高度暴露群と低暴露群の間でも差がなかった。血清PCB
レベルが高い群で抗サイログロブリン抗体陽性の頻度が高く(19.5% 対
2.5%)、抗ミクロソーム抗体も17%と高頻度であった。Guo ら(1999)は台湾の油症患者の13
年後の調査で甲状腺腫の頻度が高い(20%)ことを報告している。
Langer ら(1996)は大規模なPCB 環境汚染が約40 年間続いていたスロバキアのPCB
製造工場の労働者とその周辺の住民を調べた。PCB
濃度は、脂肪組織中で対照地区の約6倍、人母乳中で約2倍であった。労働者(大部分が女性)245 名と対照地区の被験者572
名とを比較すると、甲状腺容積が工場労働者で有意に大きかった。また、甲状腺腫大(20%、対照群9.4%)、抗サイロイドペロキシダーゼ抗体28.4%、対照群19%)、抗サイログロブリン抗体41.3%、対照群21%)、TSH
受容体抗体(10.4%、対照群1.3%)がいずれも女性労働者で高頻度であった。血中T4、T3、TSH
等については有意な差がなかった。また、Langer ら(1998)は汚染されている都市と対照地域の17 歳の青年(汚染都市454
名、対照965 名)について調べたところ、甲状腺容積が汚染されている都市の青年で有意に大きかったことを報告している。Emmet
ら(1988)は、アメリカの変圧器修理工でPCB 暴露者55 名(現在暴露者38 名、過去暴露者17 名)を、PCB
に暴露されたことのない労働者56 名と比較したところ、暴露者で血中T4 が有意に低かった。T4 とRT3U の積からfree
T4 index を計算すると暴露者で有意に低かった。ただしPCB 濃度との相関はなかった。Bahn ら(1980)は、PCB
の類似化合物であるPBB を取り扱う工場労働者35 人について甲状腺機能検査を行ったところ、4名にTSH
の明らかな上昇がみられ甲状腺機能低下症と診断された。ただし、うち一名には家族歴があった。対照群89
名には甲状腺機能低下症はみられなかった。PBB 群にTSH が上昇している者が多かった。
Mazhitova ら(1998)は、PCB 類の汚染が広がっているカザフスタン共和国のアラル海周辺地域の7.5 才から15
才までの入院学童12 人の甲状腺検査結果を対照のストックホルム市の学童と比較したところ、甲状腺ホルモンとTSH
濃度には有意な差を観察しなかった。
Koopman-Esseboom ら(1994)は、オランダで105
組の新生児と母親のペアについて、甲状腺ホルモン(TT4、TT3, FT4, TSH)を測定し、また血液と母乳についてPCB
とダイオキシンを測定した。PCB の濃度の高い乳汁を出す母親のT4、T3 が低く、ペアをなす子供の生後2週間のTSH
濃度が高かったことを観察している。Nagayama ら(1998)は、乳汁中のPCDD、PCDF、Co-PCB
を測定し、1歳児36 人の甲状腺機能との相関を見たところ、これらの物質の毒性指数(TEQ)とT4、T3
が逆相関することを報告している。 |