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ドイツ・デュッセルドルフでの前向きコホート研究では、171 名の健康母児ペアに対して、7ヶ月時にBISDとFagan Test
を実施し、認知及び神経発達評価を実施した(Walkowiak ら、1998)。さらにその追跡調査として7 ヶ月時、18
ヶ月時、30 ヶ月時、42 ヶ月時における幼児の精神・運動発達をBSID-U、Kaufman
評価尺度を用いて評価した。18ヶ月時には家庭養育環境の質を「HOME(標準化された家庭環境指標)」を用いて評価し、PCB
暴露が幼児における精神・運動発達に及ぼす影響について総合的に検討している(Walkowiak
ら、2002)。なお、出生前及び周産期PCB 暴露については新生児さい帯血と母乳中のPCB-138, PCB-153,
PCB-180 濃度から
推測した。その結果、30 ヶ月時、42 ヶ月時において母乳中のPCB と精神・運動発達には有意の負の関連性が認められた。42
ヶ月時では、母乳保育による出生後PCB 暴露の影響が認められたが、一方で、良好な家庭環境は30
ヶ月以降の発達に正の影響を示した。このことから、バックグラウンドレベルでの出生前PCB
暴露は42ヶ月時までの精神・運動発達を阻害するが、良好な家庭環境はこれらの影響とは拮抗し、発達にプラスの作用を示すことが示唆された。
1959 年〜1965 年にかけて米国12の地域から登録された妊婦とその子ども1207
名を対象としたマルチ・センター研究で、Daniels らは児の神経発達評価として、生後8ヶ月でBSID
を実施した。暴露評価は母親から妊娠中8週ごとと産後6週目で採血し、11 種類のPCB 同族体(PCB28, 52, 74,
105, 118, 138, 153, 170, 180, 194, 203)をtotal PCB
として分析した。母親の血清中のPCB
レベルと児の精神発達(MDI)、運動発達(PDI)の得点との関連は見られなかった(Daniels ら、2003)。PCB
暴露とMDI(精神発達面)との関連は見られないという本研究の結果は、それ以前に報告されている多くの先行研究と一致していた。PDI(運動発達面)との関連については、検査の時期、PCB
の定量化の分析的方法を研究機関間で統一したにもかかわらず、12の研究機関によって相反する結果が見られた。研究センターによって結果が違うのは、食物、水銀・鉛の暴露など、今回測定していない特性に関連している可能性があるかもしれないと考察している
ミラノとその周辺地域で誕生し、少なくとも4 ヶ月まで母乳哺育された25 名の児について、Riva
ら(2004)は、初乳中のPCB と12
ヶ月での視覚機能の関連について調査した。生体資料は出産後2日目の初乳、1ヶ月と3ヶ月の母乳。サンプルはPCB
105、118、138、153、156、180、及びDDT とDDE
を測定した。同時にすべての児において長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFAs)、C18:2 n-6、C18:3 n-3、C20:4
n-6、C20:5 n-3、及びC22:6 n-3 の血漿レベルを出生後3日以内に分析した。血漿中のLC-PUFAs
だけでなく初乳のPCB レベルは、周産期の供給を反映すると考えられた。また視覚機能は12 ヶ月で視覚誘発電位(VEPs)P100
を用い評価した。その結果、
視角60 分の大きさでの提示刺激P100 の潜時はDDT 濃度(r = 0.513)及びPCB 180(r =
0.504)濃度と関連があり、視角15 分のVEP 潜時はPCB 105 を除く、DDT、DDE、及びすべての初乳のPCB
レベルと関連があった(相関係数r = 0.401〜0.618)。また児の血漿レベルにおけるC22:6 n-3は視角60 分(r
= -0.418)、1Hz-2J(r = -0.466)でのP100 の潜時と負の関連があった。C22:6 n-3
をコントロールした後に、初乳中PCB 180 と視角15 分のP100 潜時の部分相関係数は0.403 (p =
0.07)であった。このように、12 ヶ月の健康乳児の視覚機能と初乳中のPCBs、DDT、及びDDE
の間で弱い関連が認められた。しかし影響は、出生数日後の児血漿中長鎖多価不飽和脂肪酸LC-PUFAs
をコントロールした後は明らかではなくなったと報告している。 |