- 国立医薬品食品衛生研究所
- 衛生微生物部
- 第4室
- 寄生虫関連情報
- 食中毒原因物質の疑いがある寄生虫
- 研究業績
食中毒の原因物質の可能性がある寄生虫
現在、食中毒の原因物質として、
Kudoa septempunctata、
Sarcocystis fayeri、
Anisakisが指定されていますが、他にも食中毒との関連性が指摘されている寄生虫が存在します。そのいくつかをご紹介します。
カンパチの生食に伴う食中毒とUnicapsula seriolae
カンパチが原因食と疑われる有症事例は全国で多く発生しています。2010年から2016年の間に発生した魚の生食が原因と思われる有症事例44事例中、20事例がカンパチと関連したものでした。これらの有症事例には特徴があり、既知の病原微生物が検体から検出されない、潜伏時間が非常に短かい、症状は一過性の下痢が多く重症例はない、等が挙げられます。我々はこれらの有症事例の喫食残品のカンパチから粘液胞子中の一種である
Unicapsula seriolaeを検出しました。また、定量的な解析を行ったところ、患者の喫食残品のカンパチの内、62%から10
5/g以上の
U. seriolae胞子が検出されましたが、市場流通品50検体からは胞子を検出できませんでした。この結果から、カンパチの生食に伴う有症事例と
U. seriolaeとの関連性が示唆されました。
有症事例の患者が摂取した胞子数を試算したところ、最小量は3.8×10
6でした。有症事例の残品のカンパチには10
5〜10
8/gの胞子が含まれている事が多いため、刺し身一切れを10gとすると、刺し身数切れで発症する可能性があります。
しかし、
U. seriolaeの毒性が直接証明されていないため、今後、更に研究が必要と思われます。
なお、
U. seriolaeは冷凍処理で死滅すると考えられていますので、予防には冷凍処理が有効であると考えられます。
Kudoa iwatai
Kudoa iwataiはタイなどのスズキの仲間に寄生することが知られており、大変、宿主域の広い寄生虫です。ヒラメに寄生する
K. septempunctataは肉眼で確認することはできませんが、
K. iwataiは魚の筋肉内に白いシストを作るため、肉眼で確認できます。胞子は4個の極嚢を持ちます。これまで、スズキの仲間の生食に関連した有症苦情事例からしばしば検出されており、原因物質の可能性が指摘されています。
鹿肉に寄生するサルコシスティス
馬肉に寄生する
Sarcocystis fayeriは食中毒原因物質として指定されていますが、シカ肉に寄生する
Sarcocystis属も食中毒との関連性が指摘されています。シカ肉には複数種の
Sarcocystis属が寄生していますが、分類はまだあまり進んでいません。これまでの有症事例の残品からは
S. elongataや
S. tarandiに近縁の種や、
S. truncataが検出されています。特に
S. truncataは
S. fayeriが産生する毒素タンパク質と類似の物質を産生していることを我々は明らかにしました。
シカ肉に寄生するSarcocystis属もS. fayeri同様、加熱や冷凍処理によって死滅すると考えられています。