・職域集団を対象とした疫学研究
比較的高濃度の化学物質に暴露されている職域集団を対象とした観察型の疫学研究が、これまでに化学物質のハザード評価及びリスク評価において果たした役割は大きい。日本は職域集団が比較的固定しており、作業環境測定や健康診査などの制度に基づく情報が比較的豊富に存在するため、職域コホートを利用した疫学研究からの成果が期待出来るものと考えられる。研究デザインとしては、有機塩素系化合物などの化学物質に暴露された者を対象とした後ろ向きコホート研究が一般的にはもっとも効率が良いと考えられるが、過去には使用されていなかった化学物質に対しては前向き調査を行う必要がある。いずれの場合も研究の精度を高めるために、複数の職域にまたがった大規模なコホートを作ることが望ましい。今後、新たに内分泌かく乱作用が明らかになる物質が出現し、その健康影響が問題となる可能性もあるため、すべての職域における個々人の暴露情報を登録するシステムを確立しておくことも有意義であると考えられる。エンドポイントが疾患ではない場合についてはエンドポイント評価に適切なバイオマーカーを利用する必要があり、その開発、及び指標としての妥当性の検討も急がれる。
現在、厚生労働科学研究費補助金(化学物質リスク研究事業)による研究班において、職域集団を対象とした疫学研究が開始されているが、さらなる研究が実施されることが望まれる。(3)EDC の人への健康影響に関する研究の継続的な総括とその情報公開
有機塩素系化合物などの化学物質の人への健康影響に関する疫学研究は、国際的な関心を反映して急速に発展し、論文報告の数も増加している。国際的な研究の進展に迅速に対応するために、本報告書で今回試みた、刊行論文のレビューと更新を引き続き継続的に実施することが重要である。そして、このような最新の研究状況に関する総括の成果については、インターネット等を用いて広く国民に周知広報する必要がある。そうした措置を通じて、国民と行政が十分な科学的根拠に基づく情報を共有した上で、EDC
問題の理解と対策が促進されるよう努力すべきである。 |