ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)からの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連情報
http://www.bfr.bund.de/


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は食品や物を介して伝播し得るか?(5月27日更新)
Can the new type of coronavirus be transmitted via food and objects?
Updated BfR FAQ dated 27 May 2020
https://www.bfr.bund.de/en/can_the_new_type_of_coronavirus_be_transmitted_via_food_and_objects_-244090.html

(食品安全情報2020年12号(2020/06/10)収載)


 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による気道疾患COVID-19のアウトブレイクの発生とそれに伴う中国各地での流行に続き、世界各地でこのウイルスが拡散し続けている。ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は、新型コロナウイルスが食品および子供用玩具、携帯電話、ドアノブや工具などの輸入製品についてだけでなく、食器類を介してもヒトに伝播し得るかどうかについて、不安感を抱く消費者から問い合わせを受けている。このような状況を考慮し、BfRは本件について最も重要なQ&Aをまとめており、今回、内容の一部を更新した。


【食品に関する部分のみを紹介】


コロナウイルスに食品や物を介して伝播し得るか?
(食品安全情報(微生物)No.7 / 2020(2020.04.01)およびNo.4 / 2020(2020.02.19)のBfR記事で紹介済)

感染が拡大した地域から輸入された製品はヒトへの感染源になり得るか?
(食品安全情報(微生物)No.7 / 2020(2020.04.01)およびNo.4 / 2020(2020.02.19)のBfR記事で紹介済)

食品およびその他の製品(化粧品など)を介した新型コロナウイルス感染はどのように防ぐことができるか?
(食品安全情報(微生物)No.4 / 2020(2020.02.19)のBfR記事で紹介済)


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、食堂や人が集まって食事をする場所の食器類を介して伝播し得るか?
 一般論として感染者が食器類のそばでくしゃみや咳をすると、コロナウイルスは食器類に付着してその表面上でしばらく生存できる可能性がある。食器や手を介してコロナウイルスが鼻、目、口、喉の粘膜に移行した場合には、塗抹感染が起こり得ると考えられる。しかし、このような伝播経路によるSARS-CoV-2感染は今のところBfRに報告されていない。


手または食器洗浄機の使用による洗浄で、新型コロナウイルスは不活化するか?
 エンベロープをもつウイルスは遺伝物質が脂質膜で覆われているため、コロナウイルスは、油脂除去剤として石鹸や食器用洗剤に含まれるアルコールまたは界面活性剤など、脂質を分解する物質に感受性である。SARS-CoV-2に特化したデータはまだないが、このような物質がウイルスの表面に損傷を与えてウイルスを不活化する可能性は高い。この効果は、食器洗浄機を使用して60℃以上の温水で食器を洗って乾燥させると特に高い。


コロナウイルスはパン製品や生鮮果物・野菜を介して伝播し得るか?
 今のところ、この伝播経路によるSARS-CoV-2感染はBfRに報告されていない。一般論として感染者がパン製品や生鮮果物・野菜のそばでくしゃみや咳をすることで、コロナウイルスがそれらに付着する可能性がある。コロナウイルスの増殖には生きている動物またはヒトという宿主が必要であるため、コロナウイルスは食品中では増殖できない。ウイルスがパン製品や生鮮果物・野菜に付着して短時間のうちに手や食品を介して鼻、目、口、喉の粘膜に移行した場合には、塗抹感染が起こる可能性は考えられる。
 ウイルス感染から自分を守るには、手洗いの習慣や手を顔に近付ないことなど日常の一般的な衛生規範を守ることが極めて重要である。小売店のパン製品は、カウンターやセルフサービスカウンターに設置されているケースなどによって通常は顧客のくしゃみや咳の飛沫がかからないようになっており、このような対策により汚染リスクは最小限となる。果物や野菜を調理する際には、一般的な衛生規範を守るべきであり、これには取り扱う際の食品の洗浄や頻繁な手洗いなどが含まれる。


コロナウイルスは食肉製品を介して伝播し得るか?
 食肉および食肉製品のコロナウイルス汚染は理論的には、とさつ、カット、加工を行う際に起こり得る。しかし、食肉製品の喫食または汚染された食肉製品との接触を介したSARS-CoV-2感染はBfRに今のところ報告されていない。現在の知見によると、食肉生産用の家畜はSARS-CoV-2に感染しないため、食肉を介してヒトが感染することはない。
 一般論として、汚染された手で触れたり、そのそばでくしゃみや咳をするなど衛生規範が守られていない場合には、コロナウイルスが感染者から食肉やソーセージなどに移行する可能性はある。ただし、食肉処理場や食肉カット施設で義務付けられている衛生規則および予防対策は病原体汚染のリスクを最小限にさせ、これはSARS-CoV-2にも有効である。小売店の食肉や食肉製品は、カウンターに設置されているケースなどによって通常は顧客のくしゃみや咳の飛沫がかからないようになっており、このような対策により汚染リスクは最小限となる。ウイルスが食肉に付着して短時間のうちに触れた手を介して鼻、目、口の粘膜に移行した場合には、あくまで理論的にではあるが塗抹感染が起こり得ると考えられる。コロナウイルスの増殖には生きている動物またはヒトという宿主が必要であるため、コロナウイルスは食品中では増殖できない。環境中におけるコロナウイルスの安定性は比較的低いことから、理論的に塗抹感染による伝播が起こり得るのは汚染後短時間のみであると考えられる。現在の知見では、経口/食品による伝播経路は現在のSARS-CoV-2感染アウトブレイクには関与していない。
 ウイルス感染から自分を守るためには、食品を調理する際に手洗いの習慣や手を顔に近付けないなど日常の一般的な衛生規範を守ることが極めて重要である。また、食肉および家禽肉は、他の病原体への感染を防ぐためにも基本的に喫食前に十分に加熱すべきであり、目安として肉汁が透明になり、食肉部分が白っぽい色(家禽肉)、灰色がかった色(豚肉)、灰褐色(牛肉)になるまで加熱する。食品を取り扱う際の衛生に関する詳細な情報がBfRのサイトから入手可能である。
https://www.bfr.bund.de/en/can_the_new_type_of_coronavirus_be_transmitted_via_food_and_objects_-244090.html


コロナウイルスは、汚染の可能性がある飼料を給餌された乳牛の乳を介して伝播し得るか?
 現在の知見にもとづくと、他の食品と同じくSARS-CoV-2が乳を介して伝播する可能性は低い。この伝播経路によるSARS-CoV-2感染はBfRに報告されていない。今のところ、フリードリッヒ・レフラー研究所(FLI)およびロベルト・コッホ研究所は、中国またはその他のSARS-CoV-2感染患者発生国からペットおよび家畜の飼料が関連していることを示す情報は得ていない。
 現時点では、動物用飼料がコロナウイルスの感染源であることを示すエビデンスは存在しない。


コロナウイルスはペットまたは家畜用の飼料を介して伝播し得るか?
 今のところ、BfRは、中国または他のSARS-CoV-2感染患者発生国からペットまたは家畜用飼料の関与を示す情報を得ていない。現時点では、動物用飼料がコロナウイルスの感染源であることを示すエビデンスは存在しない。
 これは、家畜用およびペット用の両方の飼料にあてはまる。家畜への給餌には、粗飼料(生草、乾草、サイレージ)および配合飼料が使用される。配合飼料は、種々の飼料(穀物、大豆ミール、添加物など)を混合した物である。また、配合飼料にはミネラル飼料などの補助飼料も含まれ、動物に必要なエネルギーおよび栄養素を確保するために加えられる。
 ペットへの給餌には既製品が使用されることが多い。乾燥フード(ペレット、ビスケットなど)、ウェットタイプのフード、冷凍フード、穀類フード、スナック類(ドッグビスケット、ドッグクッキー、ドッグチュー)などがある。
 コロナウイルス感染アウトブレイクにおける家畜およびペットの関与についてはFLIが情報を提供している(https://www.fli.de/de/aktuelles/tierseuchengeschehen/coronavirus/)(ドイツ語)。現時点では、家畜がSARS-CoV-2に感染し得ることを示すエビデンスは存在しない。また、感染したヒトからペットへの伝播という疫学的に重要な感染を科学的に検証できるエビデンスも存在しない。


コロナウイルスは、施設の食堂などコミュニティの食品提供施設における飲み物容器を介する伝播によって呼吸器感染症の原因となり得るか?
 上記のような伝播経路は今のところBfRに報告されていない。現在の知見によると、経口/食品の伝播経路(食道および胃を介する)は、現在のSARS-CoV-2感染アウトブレイクに関与していない。主な伝播経路は咳やくしゃみの飛沫であり、呼吸器や時には目、鼻、口の粘膜を介して伝播する。
 食品提供施設においてグラスなど飲み物容器のウイルス汚染が成立するためには、まず感染者が容器を使用することが必要で、その際に手または唾液を介してウイルスが容器に付着する。その後、容器の洗浄が十分でなかった場合には、汚染された容器への粘膜の接触による伝播が理論的には起こる可能性がある。しかし、このような伝播経路によるSARS-CoV-2感染はこれまでに報告されていない。
 エンベロープをもつウイルスは遺伝物質が脂質膜で覆われているため、コロナウイルスは、油脂除去剤として石鹸や食器用洗剤に含まれるアルコールまたは界面活性剤など、脂質を分解する物質に感受性である。SARS-CoV-2に特化したデータはまだないが、このような物質がウイルスの表面に損傷を与えてウイルスを不活化する可能性は高い。
 SARS-CoV-2に関連のあるSARSコロナウイルスの場合、研究機関で行われた実験では、標準的な洗剤と室温の水で5分間洗浄することでウイルスを完全に不活化することが示されている(https://academic.oup.com/cid/article/41/7/e67/310340)。洗浄時間を長くすることや水温を上げることで、不活化の効率が上がる可能性もある。すなわち食器洗浄機またはグラス洗浄機を使用して60℃以上の温水で洗浄すると特に効果的である。この方法が可能でなく手で洗う場合は、洗剤を使用して45℃以上で50℃を越えない(手の保護のため)温水で洗うべきである。温度がこれより低い水で洗う場合は、十分な量の洗剤を使用すること、容器をシンク内で洗浄液に長時間つけておくこと、および丁寧にこすり洗いしてから乾かすよう特に注意が必要である。
 詳細な情報については、BfRが「食品提供施設におけるグラス洗浄機の使用による衛生面での有効性」を発表している。
https://www.bfr.bund.de/cm/343/hygienische_wirksamkeit_von_spuelgeraeten_zum_reinigen_von_trinkglaesern_in_der_gastronomie.pdf)(ドイツ語)


高齢者介護施設における食器類の取り扱いには特別な対策が必要か?
 高齢者施設でノロウイルスやインフルエンザウイルスに対して通常行われている対策や規則すべてが、SARS-CoV-2に対しても有効である。


汚染された冷凍食品を介してSARS-CoV-2に感染することはあり得るか?
 現時点では、冷凍食品も含めた食品の喫食がSARS-CoV-2の感染経路になることを示すエビデンスは存在しない。過去に流行したSARSおよびMERSコロナウイルスは低温に耐性で、−20℃の冷凍状態で感染力を最高2年間維持できる。食品の調理に関する一般的な衛生規則を守るべきである。
https://www.bfr.bund.de/cm/364/protection-against-foodborne-infections.pdf



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部