国際連合食糧農業機関(FAO)からの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連情報
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食品事業における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防に関するガイダンス
COVID-19: Guidance for preventing transmission of COVID-19 within food businesses: Updated guidance
02 August 2021
http://www.fao.org/3/cb6030en/cb6030en.pdf(PDF)
http://www.fao.org/documents/card/en/c/cb6030en/

(食品安全情報2021年17号(2021/08/18)収載)

 国連食糧農業機関(FAO)は、食品事業における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防に関するガイダンスの更新版「COVID-19: Guidance for preventing transmission of COVID-19 within food businesses」を発行した。内容の一部を以下に紹介する。

概要

 現時点で得られているデータからは、食品および食品包装が呼吸器疾患の原因となる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などのウイルスの伝播経路にはならないことが示されている。つまり、SARS-CoV-2がそのまま食品安全上の懸念となるわけではない。しかし、安全な作業環境の提供、個人の衛生対策の推進、および食品衛生指針に関する研修の実施により、食品事業者および食品規制当局がこれらのウイルスのヒト−ヒト感染からすべての従業員を保護することは重要である。これらの対策はリスクにもとづいて策定される必要があり、食品事業従事者ごとに想定されるSARS-CoV-2曝露レベルに応じて実施されるべきである。SARS-CoV-2がそれほど流行していない地域においては、有効な食品安全管理システムに沿った規範があれば十分であると考えられる。ただし、COVID-19の罹患率が上昇した場合は、それに応じて追加の予防措置も講じられるべきである。

 これらの指針の目的は、食品事業におけるCOVID-19の制御に必要となる対策を明示することであり、これにより従業員の安全が守られ、食品供給の安全性が保たれる。これらの対策は、伝統的な食品安全対策や管理に妥協せず、現行の食品安全規範を補うものでなければならない。COVID-19は世界規模のパンデミックであるが、同一国内の地域間および各国間でウイルスの発生状況が大きく異なっている可能性がある。したがって、このガイダンスは、各国・地域の公衆衛生当局による指針および助言と併用されるべきである。2020年4月7日に発行された世界保健機関および国連食糧農業機関(WHO/FAO)の暫定ガイダンス「コロナウイルス感染症(COVID-19)と食品安全:食品事業に関するガイダンス(COVID-19 and food safety: guidance for food businesses)」(食品安全情報(微生物)No.9 / 2020(2020.04.28)WHO記事参照)を代替するものとして、新しいエビデンスにもとづいて情報が更新されたFAOの本ガイダンスが発行された。

食品を介した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播は考えにくい

 ヒトが食品や食品包装を介してCOVID-19に感染する可能性は非常に考えにくい(食品安全情報(微生物)No.19 / 2020(2020.09.16)ICMSF記事および以下Webページ参照)。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32628907/(Goldman, 2020)
https://www.icmsf.org/wp-content/uploads/2020/09/ICMSF2020-Letterhead-COVID-19-opinion-final-03-Sept-2020.BF_.pdf(国際食品微生物規格委員会:ICMSF, 2020)
https://mia.co.nz/assets/Covid-19/2021-01-14-NZFSSRC-COVID-19-foodborne-transmission-final-Kingsbury.pdf(ニュージーランド食品安全科学研究センター:NZFSSRC, 2020)

現時点で得られているエビデンスからは、食品や食品包装がヒトの呼吸器疾患の原因となるSARS-CoV-2などのウイルスの重要な感染経路となることは示されていない。COVID-19は、主にヒト−ヒト間の濃厚接触時に、咳、くしゃみ、大声を出す、歌う、話すなどの行為によって生成される呼吸飛沫やエアロゾルを介して感染する(以下WHO Webページ参照)。
https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/transmission-of-sars-cov-2-implications-for-infection-prevention-precautions

このほかに、感染者の周りの物の表面に一部の呼吸飛沫が付着する可能性もある。コロナウイルスは食品や無生物の表面では増殖できず、ヒトおよび特定の動物の体内のみで増殖可能である。これらのウイルスは、環境中に排出されると徐々に分解されて感染力が弱まる。

 いくつかの研究報告により、SARS-CoV-2は様々な物の表面において生存可能なことが示されている。例えば、プラスチックやステンレススチールの表面では最長72時間、銅の表面では最長4時間、段ボール表面では最長24時間生存できることが証明されている(以下Webページ参照)。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmc2004973(Van Doremalen、T. Bushmaker, 2020)

その他の研究では、様々な温度下やその他の条件下における物の表面でのSARS-CoV-2の安定性が調査された(以下Webページ参照)。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33387315/(Kumar, S.、R. Singh, 2021)

これら全ての研究により、SARS-CoV-2の生存可能性・生残性に関する理解を深めることは可能であるが、これらの研究は通常、相対湿度、温度およびその他の因子が管理された実験室条件下で実施されているため、冷蔵下(または冷凍下)・湿潤であることが多い実際の食品加工・運搬環境でのSARS-CoV-2の安定性を考慮すれば、解釈には注意が必要である。食品・食品包装表面からのウイルスまたはその残余RNA断片の検出は、明らかにこれらの表面が事前に汚染されていたことを示してはいるが、SARS-CoV-2やその他の呼吸器疾患の原因ウイルスが食品や食品包装を介して伝播したり、汚染食品・包装への接触が人の感染の原因となることが確認されたわけではないことに注意すべきである。

 COVID-19の原因ウイルス(SARS-CoV-2)は、食品加工環境で使用されるほとんどの一般的な消毒剤や殺菌剤に感受性である。したがって、各食品事業者の食品安全管理システム(FSMS)で規定された標準的な清掃・消毒方法は食品加工環境の消毒に有効だと考えられる。アルコールを主成分とする表面消毒剤を清掃用として使用する場合は、当該消毒剤のメーカーの指示に従うべきである。一般的に、アルコールを主成分とする消毒剤(エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール)は、SARS-CoV-2などのエンベロープウイルスの感染性を著しく低下させることが明らかになっている。WHOは、アルコール分70%以上の消毒剤を汚染除去に十分な時間接触させることを推奨している(以下WHO Webページ参照)。
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-IPC-WASH-2020.4

有効成分として第4級アンモニウム化合物や塩素を主成分とする一般的な消毒剤にも殺ウイルス効果がある。環境検体の微生物学的サンプリングは衛生管理手順検証のために有効であるが、食品加工施設や食品包装表面のSARS-CoV-2検査は多くの費用・時間を要し、消費者保護のためのリスクベースの政策決定に役立たないため、推奨されない。

食品事業者および従業員の役割(項目のみ紹介)

〇 従業員保護の一般原則

・物理的距離

・個人の衛生管理

・感染防護具

・各作業場における従業員のCOVID-19感染予防について
  − 一次生産
  − 食品の加工
  − 食品の運搬
  − 食品の小売
  − 食品の提供および飲食店


国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部