GMO-db: Comprehensive database on biotechnology products

バイオテクノロジー技術応用食品

DNA技術応用食品の検査方法

ガイドライン

諸外国のGMO規制に関する情報

新育種技術(次世代遺伝子組換え技術)

ゲノム編集技術

ゲノム編集作物の開発状況

ゲノム編集技術応用食品に対する各国の規制


バイオテクノロジー技術応用食品の安全性

バイオテクノロジー技術(遺伝子組換え技術または組換えDNA技術)とは?

バイオテクノロジー技術応用食品の安全性評価について

遺伝子組換え作物のリスク評価

バイオテクノロジー技術応用食品のアレルゲン性


遺伝子改変技術を応用した食品等のリスクコミュニケーション

ゲノム編集技術とは?

遺伝子組換え食品とゲノム編集食品に関するリスクコミュニケーション資料(基礎編)

遺伝子組換え食品とゲノム編集食品に関するリスクコミュニケーション資料(中級編)


バイオテクノロジー技術応用食品

DNA技術応用食品(遺伝子組換え食品)の検査方法

 遺伝子組換え生物とは,ある生物から必要な性質を持つ遺伝子を取り出し,その遺伝子を別の組換えを行う生物(植物・動物)のゲノムに組込んだものである.作成過程で組換えDNA技術を用いるため,古くからある交配育種とは異なり,短期間に目的の性質を持ったものが作成可能である.食品が組換えDNA技術を用いて作成した生物,またはその一部を用いた食品は,遺伝子組換え食品である(食品衛生法に基づく食品,添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号,第1の食品,A食品一般の成分規格第2項)).
 人為的にゲノムDNAの配列を変化させる方法には放射線や化学物質を用いる方法もあるが,組換えDNA技術を用いていないため遺伝子組換え食品として扱われない.

安全性未審査の組換えDNA技術応用食品(厚生労働省)

日本またはいずれの国においても安全性審査が終了していないもの
食品衛生法により流通することはできない.

安全性審査済遺伝子組換え食品(消費者庁)

日本において安全性審査が終了したもの
正しく表示することで流通することができる.

遺伝子組換え表示制度(義務表示と任意表示)のうち,任意表示制度は2023年4月1日から新しくなる.

ガイドライン

Codex guidelines
  • 分析用語に関するガイドライン (CAC/GL 72-2009) (pdf) (日本語訳)
    GUIDELINES ON ANALYTICAL TERMINOLOGY (CAC/GL 72-2009) (pdf)
  • サンプリングに関するガイドライン (CAC/GL 50-2004) (pdf) (日本語訳)
    GENERAL GUIDELINES ON SAMPLING CAC/GL 50-2004) (pdf)
  • 食品中の特定 DNA 配列及び特定タンパク質の検出、同定、定量のための分析法の性能規準及びバリデーションに関するガイドライン (CAC/GL 74-2010) (pdf)(日本語訳)
    GUIDELINES ON PERFORMANCE CRITERIA AND VALIDATION OF METHODS FOR DETECTION, IDENTIFICATION AND QUANTIFICATION OF SPECIFIC DNA SEQUENCES AND SPECIFIC PROTEINS IN FOODS (CAC/GL 74-2010) (pdf)
  • 分析結果の不確かさの推定に関するガイドライン (CAC/GL 59-2006) (pdf)(日本語訳)
    GUIDELINES ON ESTIMATION OF UNCERTAINTY OF RESULTS (CAC/GL 59-2006(Amendment 2011)) (pdf)
  • 組換え DNA 動物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン(CAC/GL 68-2008) (pdf) (日本語訳)
    GUIDELINE FOR THE CONDUCT OF FOOD SAFETY ASSESSMENT OF FOODS DERIVED FROM RECOMBINANT-DNA ANIMALS (CAC/GL 68-2008) (pdf)
  • 組換え DNA植物由来食品の安全性評価の実施に関するガイドライン
    GUIDELINE FOR THE CONDUCT OF FOOD SAFETY ASSESSMENT OF FOODS DERIVED FROM RECOMBINANT-DNA PLANTS (CAC/GL 45-2003) (pdf)
ISO International Standard
  • ISO 21569:2005
    Foodstuffs -- Methods of analysis for the detection of genetically modified organisms and derived products -- Qualitative nucleic acid based methods.
  • ISO 21570:2005
    Foodstuffs -- Methods of analysis for the detection of genetically modified organisms and derived products -- Quantitative nucleic acid based methods.
  • ISO 21571:2005
    Foodstuffs -- Methods of analysis for the detection of genetically modified organisms and derived products -- Nucleic acid extraction.
  • ISO 22753:2021
    Molecular biomarker analysis -- Method for the statistical evaluation of analytical results obtained in testing sub-sampled groups of genetically modified seeds and grains -- General requirements.
  • ISO 24276:2006
    Foodstuffs -- Methods of analysis for the detection of genetically modified organisms and derived products -- General requirements and definitions.
  • ISO/WD 5725-3
    Accuracy (trueness and precision) of measurement methods and results -- Part 2: Intermediate precision and alternative designs for collaborative studies.
  • ISO/IEC 17025:2017
    General requirements for the competence of testing and calibration laboratories.
    ISO17025 2017改定の概要
    日本工業規格 JIS Q 17025:2018
EU-JRC Scientific and Technical Reports

諸外国のGMO規制に関する情報

USA

 アメリカには遺伝子組換え体(GMO)を直接規制するための法律はない.植物の場合は,USDA (united State Department of agriculture)がPPA(Plant Protection Act)に基づき植物ペストに該当するかどうか(7CFR 340.2(資料1))で判断される.食品の場合は,FDAにも事前相談することが推奨されている.動物の場合は,遺伝子改変したものはanimal drugに該当してFDA(Food and Drug Administration)が審査を行う(資料2).2015年オバマ政権により「バイオテクノロジー製品の規制制度の近代化に係る覚書」(USDA, FDA, EPA3つの機関の役割と責任)が出された.その後,ワーキンググループでの検討や外部機関の分析(資料3, 4)を経て、2019年トランプ政権により「農業バイオテクノロジー製品の規制枠組みの近代化」に係る大統領令が発令された(Executive Order 13874(資料5)).
 遺伝子組換え食品の表示については,2020年1月1日より全米バイオ工学食品情報開示基準(7CFR 66(資料6)が施行され,USDAのAMS(Agriculture Marketing Service)が作成したバイオ工学食品リストに基づき,2022年1月1日より表示が義務化される.

(資料1)7CFR340

(資料2)FDA 2017draft (原文) (日本語訳)

(資料3)2017coordinated Framework (原文) (日本語訳)

(資料4)National Strategy for Modernizing the Regulatory System for Biotechnology Products

(資料5)Executive Order 13874

(資料6)7CFR66

欧州およびオーストラリア・ニュージーランド

ヨーロッパは,幾つかの遺伝子組換え作物が承認されており,組換えDNA技術を用いて(Directive2001/18/EC)作られた食品は全て表示しなければならない.検出あるいはトレースできないものまで表示義務化されているが,検証はできない.

(1)EU

(2)ドイツ・オーストリア

(3)イギリス

(4)オーストラリア

  • Gene Technology Act-2000 (原文)
  • Gene Technology Regulations-2001 (原文)

(5)ニュージーランド

  • Hazardous Substances and New Organisms Act 1996 (原文)

新育種技術(次世代遺伝子組換え技術)

 新育種技術とは,欧州のJoint Research Center(JRC)が報告して以来novel plant breeding techniques( NPBTまたはNBTと略される)と呼ばれている新規の植物育種方法である.痕跡が残らない遺伝子組換え法としてすでに新聞報道もされている.従来の遺伝子組換え作物は,優れた形質を発現させるために外来遺伝子を異なる生物種から分離してベクターへ組込み後,細胞へ遺伝子導入(transfection)することにより作出されてきた.このとき,ゲノム上にランダムに挿入されたものの中から,望む形質のみを示すものを選抜する.こうして得られた作物は,遺伝子組換え体(トランスジェニック)であり,その作物を用いた食品は安全性評価を経たのちにこれまで利用されてきた.2010年頃になり,新しい組換え技術が急速に進歩した.そのため,欧州ではJRCが科学文献や特許情報,開発状況などをもとに「new plant breeding techniques」として現状を報告書にまとめた.その後、各国で新育種技術についての考え方についての報告書が公表された.

(資料1)EU Joint Research Center (JRC)

  • New plant breeding techniques- (原文

(資料2)イギリス Advisory Committee on Releases to the Environment(ACRE)

ACRE gives statutory advice to ministers on the risks to human health and the environment from the release of genetically modified organisms (GMOs).

(資料3)フランス 科学委員会 Haut Conseil des biotechnologies (HCB)

Set up by the Genetically Modified Organisms Act (GMO Act) of 25 June 2008, the High Council for Biotechnology is an independent body whose role is to inform public decision-making.

(資料4)オーストラリア・ニュージーランド食品安全局 FSANZ

Food Standards Australia New Zealand (FSANZ) is a statutory authority in the Australian Government Health portfolio. FSANZ develops food standards for Australia and New Zealand.

(資料5)日本

  • 次世代遺伝子組換え技術を用いた作物の現状と問題点(原文
主要地域のNBTに対する規定
  • Regulatory framework to NBT (pdf)
(NBTの研究例)接ぎ木を利用した遺伝子抑制の例

 遺伝子組換えタバコ(Nicotiana benthamiana)とジャガイモ(Solanum tuberosum)との接ぎ木において、穂木のタバコからsmall RNAが台木に移行して標的遺伝子GBSS発現抑制が誘導されること、検出できるオフターゲットは存在しなかったこと、および接ぎ木を最終的に分離したジャガイモには遺伝子組換 え穂木で生成したRNAは残存しないことを示した。 PlosOne, 11(8): e0161729. doi:10.1371/journal.pone.0161729 (pdf)

ゲノム編集技術

バイオテクノロジー製品の開発に用いられる主な技術(参考資料

(1) 放射線・化学物質
60Coなどのガンマ線を照射,またはEMS(エチルメタンスルホン酸)やENU(エチルニトロソウレア)などの変異原性物質で処理することで,突然変異を導入後,育種過程での選抜により望む形質のものを得る方法.

(2) 組換えDNA技術
従来品種に,新たな形質(病害抵抗性,害虫抵抗性など)を付与するために外来遺伝子(土壌細菌やウイルス由来の配列)を導入する方法 遺伝子導入法として,アグロバクテリウム法が主に用いられる.

(3) ゲノム編集技術

  1. ゲノムとは
    ある生物が持つ,1セットのDNAからなる遺伝情報のすべて
  2. ゲノム編集技術とは
    ゲノム編集技術を「人工制限酵素を用いて遺伝子改変を行う技術」と定義すれば,この技術を利用して生物のゲノム上の望む場所(標的部位)に様々な変異(核酸塩基の欠失,挿入,置換や特定塩基のメチル化)や遺伝子の発現を制御することが可能になる.
  3. ゲノム編集技術の具体例
    ZFN (Zinc Finger Nuclease),TALEN (Transcriptional Activator-Like Effector Nuclease),CRISPR/Cas (Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats / CRISPR Associated Proteins)があり,現在は簡便なCRISPR/Casのシステムが最も利用されている.CRISPR/Casでは活性が弱いか,標的部位にアクセスできない場合に,TALENやZFNが用いられる傾向がある.
  4. ゲノム編集技術を応用して作製された食品の取扱い
    薬事・食品衛生審議会,遺伝子組換え等調査会および新開発部会での議論を経て報告書がまとめられた.そこでは,原則として,数塩基の欠失(置換,挿入等)により作製されたもので,用いたベクターやその一部の配列が残存していない限りにおいて,安全性審査は必要としない.

ゲノム編集作物の開発状況

ゲノム編集技術応用食品に対する各国の規制

日本
  • ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領 (pdf)
  • 新しいバイオテクノロジー食品(パンフレット) (pdf)
アメリカ
欧州
ニュージーランド

バイオテクノロジー技術応用食品の安全性

バイオテクノロジー技術(遺伝子組換え技術または組換えDNA技術)とは?

 ある生物Aに、その生物Aが持たない新しい性質(形質)を獲得させるために、他の生物Bの細胞からその有用な新しい性質を持つ遺伝子を取り出し、生物Aの細胞内にその新しい遺伝子に組込む操作を行うこと。
 遺伝子組換え食品の安全性評価基準においては、「組換えDNA技術」として以下のように定義している。
 「酵素等を用いた切断及び再結合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組換えDNA分子を作製し、それを生細胞に移入し、かつ、増殖させる技術(自然界における生理学上の生殖又は組換えの障壁を克服する技術であって伝統的な育種及び選抜において用いられない技術に限る。)」

バイオテクノロジー技術応用食品の安全性評価について

 1996年遺伝子組換え作物の商業栽培が開始されて以降、現在まで日本では遺伝子組換え動物は安全性審査のために申請されたことはない。そのため、安全性評価の基準は植物を対象に作成されてきた。

(1)遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価の原則と基本的な考え方

遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価に当たっては、
・その食品がヒトの健康に及ぼす直接的な有害性、その食品を長期摂取した場合の栄養学
的な悪影響を考慮する必要がある。
 しかし、現在摂取されている多くの食品は、長期にわたる食経験に基づきその有害性がないか、又は限られている、あるいは調理・ 加工により許容し得るものとなっていることが明らかとされてきたものである。 また、従来育種の結果得られた食品に関しても、毒性学的又は栄養学的な安全性試験が課せられてきた訳ではなく、殆どの場合、育種の結果が安全性に係る重大な形質の変化を伴わないという経験に基づき使用されてきたものである。一般 的に、食品の安全性を食品そのままの形で、従来の動物を用いる毒性試験によって評価することには大きな技術的困難が伴い、通常は用いられない。また、当該食品の個別の構成成分の全てに関して、安全性が科学的に証明されているものではない。即ち、これらの食品の多くは、食品の個々の構成成分としてではなく、 食品全体として、経験的にその安全性が確認されたものであるか、重大な健康被 害を及ぼさないことが知られたものである。 遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価においても、個別の成分の全てに関して、安全性を科学的に評価することは困難である。従って、現時点では、既存の食品との比較において、意図的又は非意図的に新たに加えられ又は失われる形質に関して、安全性評価を行うことが合理的である。非意図的に新たな変化が生じる可能性は、必ずしも、組換えDNA技術の使用に限ったことではなく、従来の育種においても発生しうる。しかし、組換え植物(組換え体)の食品としての安全性を評価する上で、非意図的な変化の評価及びその可能性の予測は重要とされよう。
 それは、その安全性に係る長期にわたる経験のない新しい技術に関しては、その技術により非意図的にもたらされた形質の変化に基づき、有害成分が劇的に変化したり、新たな毒性タンパク質が生成する可能性がより高まることを可能な限り予め排除する必要があるからである。 安全性評価は、遺伝子組換え食品(種子植物)の性質の変化が、導入されたDNA(遺伝子)の性質又はそれが挿入されたゲノムにおける変化に基づき、科学的に充分に予測することが可能であり、新たな遺伝子を導入する前の種子植物(宿主)等と導入後の種子植物(組換え体)の相違を充分に比較しうる時に、初めて可能となるものである。

以下の基本的な考え方に従って、安全性の評価を行う。

1 遺伝子組換え食品(種子植物)の食品としての安全性評価が可能とされる範囲は、食経験のある宿主又は従来品種並びに食品(既存の宿主等)との比較が可能である場合とする。その理由は、組換え体において新たに変化した形質以外の性質については、既にその安全性が広く受け入れられており、改めて考慮する必要がないか、又は、その安全性の評価を行う上で必要とされる知見等の蓄積が十分になされていると考えられるためである。

2 安全性評価に当たって考慮されるべき最も主要な点は、組換えDNA技術の応用に伴い、新たに意図的に付加・改変・欠失された形質、新たに生じ得る有害成分の増大などのリスク及び主要栄養成分などの変化が及ぼすヒトへの健康影響 である。さらに、組換えDNA技術によって栄養素、機能性成分、あるいは有害 成分の含量変化を意図して作出された組換え体においては、これらの栄養素等の その他の食品における含量と摂取量を勘案し、ヒトの健康に安全性面での問題がないことを評価する必要がある。

3 遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性に関しては、組換えDNA技術によって種子植物に付加されることが予想される全ての性質の変化について、その可能性を含めて安全性評価を行う。例えば、DNA配列の挿入により植物に特定の形質(意図的な影響)が賦与されると同時に、余分な形質が賦与されたり、既存の形質が失われたり、又は修飾される場合がありうる(非意図的な影響)。非意図的な影響は、植物の健全性又は植物由来食品の安全性について有害であったり、 有益であったり、又はどちらでもない可能性があるが、意図的及び非意図的な形 質の賦与又は変化によってもたらされる事象に関して、毒性学的及び栄養学的観点から個別に評価し、さらに、食品としての安全性を総合的に判断することが必 要とされる。このような安全性評価に当たっては、遺伝子組換え食品(種子植物)がヒトの健康に対し予期せぬ有害影響を与える可能性を最小限とするための充分なデータ又は情報が必要とされる。

4 遺伝子組換え食品(種子植物)については、家庭での調理を含め、食品加工の3 影響も検討する必要がある。例えば、加工後に内因性毒素の熱安定性や重要な栄 養素等の生体利用率に変化が起きる可能性もある。従って、製造における加工条件及び食品成分の変化を示す情報も提供される必要がある。例えば、植物油であれば、抽出過程やその後の精製段階に関する情報が必要とされる。

5 組換え体が、残留農薬及びその代謝産物、毒性代謝産物、汚染物質、その他ヒトの健康に影響を与えるおそれのある物質を間接的に蓄積させる可能性を生じる形質(除草剤耐性など)を示す場合もありうる。安全性評価ではこのような可能性も考慮すべきである。

6 安全性の評価においては、当該種子植物の食品として利用される可能性がある部位について検討する。例えば、菜種油のように、一般に組換え体からの抽出物のみを食する場合であっても、抽出物以外のものを食する可能性がある場合には、 その点も考慮して、組換え体の安全性評価を行う必要がある。

7 安全性評価のために行う試験は、科学的に信頼できる概念と原則に従うと共に、 必要に応じGLPに従って計画・実施されるべきである。また、原データは要求に応じて提出されるべきである。安全性評価に必要とされるデータ又は情報としては、開発者等が作成する実験データの他に、既に公開された科学論文や、第三者からの情報等があるが、それらのデータは科学的に信頼できる方法を用いて入手し、適切な統計学的技術を用いて解析されている必要がある。また、分析方法には可能な限り定量下限値が示されるべきである。

8 安全性評価では、遺伝子組換え食品(種子植物)に新たに発現される物質の試験に際し、その物質の製法又は起源が異なるものの利用が必要となる場合もある。その際は、試験に用いられる物質が、生化学的、構造的及び機能的に組換え体で生成されたものと同等であることが示されるべきである。

9 現在、抗生物質耐性マーカーとして使われているカナマイシン耐性遺伝子等は、 適切に安全性の評価がなされたものであり、直ちに安全性上問題となるものではない。なお、今後の遺伝子組換え食品(種子植物)の開発においては、安全性が充分に評価され、かつ抗生物質耐性マーカー遺伝子を用いない形質転換技術を容易 に利用できる場合には、その技術を用いることも考慮されるべきである。

10 組換えDNA技術については、日々進歩しているものであり、本安全性評価基準に関しても、技術の進歩に伴って、必要に応じた見直しを行っていく必要がある。

平成16年1月29日 食品安全委員会 決定
遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価基準より抜粋

遺伝子組換え食品(種子植物)の全部又は一部を食品として用いる場合の安全性評価基準は、遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価基準を参照

遺伝子組換え作物のリスク評価

Nat. Biotech, 26, 73 (2008))

 コーデックス委員会(FAO/WHO)は、2003年、バイオテクノロジー応用植物由来の調和のとれた市販前リスク評価プロセスのためのガイドラインを採用しました。ガイドラインは、各国が貿易障壁を回避しつつ強力な食品の安全性評価プロセスを実施する一貫した規則を適用することができるようにすることを意図している。各GM作物は、DNAの移入によって人間の健康に悪影響を与える可能性がある意図的および意図しない変化を評価するために、市販前安全性評価を必要とします。目標は、ハザードを特定し、見つかった場合はリスク評価を要求し、適切な場合、リスク管理戦略を策定します(たとえば、承認しない、承認する、ラベル付けおよび/または監視、または制限なしの承認)。このプロセスは科学に基づいており、予測的であることが実証されている以下の方法と基準を使用する必要がある。

 このプロセスは科学に基づいており、予測的であることが実証されている以下の方法と基準を使用する必要がある。新しい方法は検証され、安全性評価を強化することを実証する必要がある。

 潜在的な安全性の評価を導くフレームワークは、以下の詳しい特性情報が必要である。

  • GM植物とその食品としての使用
  • 遺伝子のソース
  • 挿入されたDNAおよび挿入部位のフランキングDNA
  • 発現された物質(例:タンパク質、および新しい遺伝子産物)
  • 新しいタンパク質または代謝産物の潜在的な毒性と抗栄養特性
  • 導入DNAがセリアック病を引き起こすことが知られている小麦、大麦、ライ麦、オート麦または関連穀物由来である場合の、新たに生成するタンパク質の性質
  • 新たに発現するタンパクの潜在的アレルゲン性
  • 毒素やアレルゲンを含む主要な内因性栄養素と反栄養素の特定の宿主植物における増加

バイオテクノロジー技術応用食品のアレルゲン性

 遺伝子組換え食品においては、ヒトの健康影響の観点から、アレルゲン性に関する評価が重要である。評価のポイントは、組換えDNA技術で導入した新規遺伝子産物のアレルゲン性や、もともと持っている内在性アレルゲンタンパクの量的変化である。内閣府食品安全委員会では遺伝子組換え食品の安全性評価を実施しているが、その際、アレルゲン性に関する評価も行われている。

遺伝子組換え食品の安全性評価の原則(食品安全委員会)

評価の必要条件(出発点):
組換える前の既存の作物(食品)と比較できて、相違が明らかであること
  ↓
食品の安全性を、全ての成分ごとに評価するのは困難なので、
・既存の食品を比較対象にして、相違点に着目
・組換えDNA技術によって付加されることが予想される全ての性質の変化について、その可能性も含めて、安全性評価を行う
  ↓
比較対象と同等の安全性であれば、食品としての使用を認める

(消費者団体と食品安全委員会との情報交換会(第10回) 2015年11月13日)資料5

遺伝子組換え食品の安全性評価基準 概要(食品安全委員会)

詳細は食品安全委員会ウェブサイトを参照 資料

  • 宿主(組換える前の既存の食品)について
  • (1) もともとのアレルゲン性を調べる。
    (2) 宿主にもともとアレルゲン性があり、遺伝子組換え後にアレルゲンタンパク質に変化が生じている場合は、アレルゲン性にどのように影響するかを調べる。

  • 遺伝子導入について
  • 目的以外のタンパク質を発現する可能性のあるオープンリーディングフレームが含まれている場合は、そのタンパク質のアレルゲン性を調べる(アレルゲンデータベースを利用)。

  • 組換えDNA技術で導入した新規遺伝子産物について
  • 次の項目についてアレルゲン性を調べる。
    (1) 供与体(導入した遺伝子を本来持っていた生物)のアレルゲン性
    (2) 導入した新規遺伝子産物(タンパク質)のアレルゲン性
    (3) 導入した新規遺伝子産物(タンパク質)の物理化学的処理に対する感受性

    ①人工胃液による酸処理及び酵素(ペプシン)処理
    ②人工腸液によるアルカリ処理及び酵素(パンクレアチン)処理
    ③加熱処理(実際の食品として摂取するまでの加熱処理と同等の条件で)

    (4) 導入した新規遺伝子産物(タンパク質)と既知のアレルゲンタンパク質との構造相同性(アレルゲンデータベースを利用)
    (5) 新規遺伝子産物(タンパク質)に対するアレルギー患者IgE抗体の結合能

    (1)~(4) により安全性が判断できない場合は、次のようなアレルギー患者IgEを用いて、新規遺伝子産物(タンパク質)に対する結合能を調べる。

    ①供与体(導入した遺伝子を本来持っていた生物)がアレルゲン性を持つ場合は、その供与体に対するIgE
    ②既知のアレルゲンと構造相同性がある場合は、そのアレルゲンに対するIgE
    ③ ①,②に該当しない場合は、供与体(導入した遺伝子を本来持っていた生物)の近縁種に対するIgE
    ④ ①~③で適切なIgEが入手できない場合は、主要なアレルゲン(卵、乳、大豆、小麦、そば、えび、ピーナッツ等)に対するIgE
    ※IgE抗体:体内でアレルゲンに結合してアレルギー症状を引き起こす抗体

アレルゲンデータベースを用いたアレルゲン性予測方法

新規遺伝子産物(タンパク質)のアレルゲン性予測方法としては、FAO/WHOが提唱している既知のアレルゲンタンパク質との相同性比較が、標準的手法として国際的に使用されている。また、この手法でアレルゲン性予測を行うことが可能なアレルゲンデータベースが整備されている。

  • FAO/WHOのアレルゲン性予測方法
  • 既知のアレルゲンタンパク質のアミノ酸配列との相同性比較、及び判断基準
    (1) 80個の連続したアミノ酸配列について35%以上の相同性
    (2) 6-8個の連続したアミノ酸配列の完全一致

    Evaluation of Allergenicity of Genetically Modified Foods, Report of a Joint FAO/WHO Expert Consultation on Allergenicity of Foods Derived from Biotechnology, 22 – 25 January 2001 Link

  • FAO/WHOの手法で相同性検索が可能なデータベース
  • ADFS: Allergen Database for Food Safety(国立医薬品食品衛生研究所生化学部) ADFS

    Allergen Online (The Food Allergy Research and Resource Program (FARRP), University of Nebraska–Lincoln) Allergen Online

    COMPARE: the Comprehensive Protein Allergen Resource (HESI, the Health and Environmental Sciences Institute) COMPARE

    SDAP: Structural Database of Allergenic Proteins (The University of Texas Medical Branch) SDAP

    Allermatch (Wageningen University & Research) Allermatch

アレルゲン性評価法についての国際的ガイドライン等

遺伝子組換え食品のアレルゲン性評価法については、国際的組織等でも議論されガイドラインが提唱されている。食品安全委員会の安全性評価基準は、国際的ガイドライン等の内容を検討した上で定められている。

遺伝子組換え食品のアレルゲン性評価ガイドライン等

  1. Assessment of the allergenic potential of foods derived from genetically engineered crop plants in Crit Rev Food Sci Nutr. 1996;36 Suppl:S165-86, by ILSI Allergy and Immunology Institute with International Food Biotechnology Council (IFBC) USA.(PubMed)
  2. Evaluation of allergenicity of genetically modified foods. Report of a joint FAO/WHO expert consultation on allergenicity of foods derived from biotechnology. (Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO), Rome, , 22 – 25 January, 2001.(pdf)
  3. Codex Alimentarius Commission. Alinorm 03/34: Joint FAO/WHO Food Standard Program, Codex Alimentarius Commission, Twenty-Fifth Session, Rome, 30 June–5 July, 2003.
    Report of the 3rd session of the CODEX ad hoc Intergovernmental Task Force on Foods Derived from Biotechnology, Yokohama, Japan, 4-8 March 2002.(pdf)
Weigh of evidenceについて

科学的な安全性評価におけるweight of evidence approachの使用に関するガイダンス(ESFA Scientific Opinion)



遺伝子改変技術を応用した食品等のリスクコミュニケーション

ゲノム編集技術とは?


遺伝子組換え食品とゲノム編集食品に関するリスクコミュニケーション資料(基礎編)


遺伝子組換え食品とゲノム編集食品に関するリスクコミュニケーション資料(中級編)


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