業務内容

 

食品部では食品中の農薬等をはじめとする有害物質等の試験検査に係わる研究を通して,食品の安全性に関する研究を行っている.食品衛生法に基づく規格・基準に関連する分析法の開発及び評価に関する研究,規格基準のない有害物質による健康リスクの評価と危害防止のための分析法整備を行うと共に,これら物質の食品中濃度実態調査を実施している.さらに,食品中の有害物質の検査に必要なサンプリング法の性能とハーモナイゼイションに係わる研究,不確かさ推定法に係わる研究を含めた分析値の信頼性保証に関する研究,有害試薬を用いる既存の公定分析法の見直しに係わる研究,照射食品の検知法の開発研究,食品からのダイオキシン等の有害化学物質の摂取量推定研究を実施している.さらに,平成233月には,福島第一原発事故による食品の放射性物質汚染に対応する業務が発生した.

 

2010年度の業務成績

1畜水産中の殺鼠剤ブロディファコウム及びワルファリンのLC-MS/MSを用いた高感度分析法を開発した.

2畜水産物中のジノセブ等13農薬等の個別試験法,農産物中の2,6-ジフルオロ安息香酸及びプロベナゾールの個別試験法の検討開発を実施した

3高極性〜低極性までの幅広い農薬等を対象とした畜水産物中の残留農薬等新規一斉試験法の検討開発を行った

4通知試験法「GC-MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」及び「LC-MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」の妥当性評価試験を実施した

5フェリムゾン試験法(水産物)等8試験法の評価及び追加検討を実施した

6ヒドロコルチゾン試験法(畜水産物)を開発し,国産豚及び鶏の可食組織(筋肉,脂肪,肝臓,腎臓等)各50検体中のヒドロコルチゾン濃度の実態調査を行った

7通知のエンロフロキサシン等試験法を改良し,分析対象化合物としてマルボフロキサシンを追加した畜水産物中のキノロン系合成抗菌物質12化合物の試験法を開発した.

8加工食品を対象とした農薬等の試験法開発を実施した.

1)迅速・簡便な加工食品中の農薬等の一斉試験法(スクリーニング法)の種々の加工食品に対する適用性を,埼玉県衛生研究所及び東京都健康安全研究センターと協力して検証した.

2)残留基準への適合性を確認することができる試験法開発を目的として,通知のHPLC による動物用医薬品等の一斉試験法T(畜水産物),HPLC による動物用医薬品等の一斉試験法U(畜水産物)[脂肪の方法]及びHPLCによる動物用医薬品等の一斉試験法V(畜水産物)の加工食品への適用性検証試験を実施した.

3)残留基準への適合性確認を目的とした,新規な加工食品中の残留農薬等一斉試験法の検討開発を愛知県衛生研究所と協力して実施した

9清涼飲料水成分規格項目のうち、不検出基準が設定されている鉛、カドミウム、ヒ素の同時分析法を確立した

10ナチュラルミネラルウォーターの成分規格設定に伴う分析法とその性能基準の設定を目的とする基礎的検討を実施した

11鉛摂取量推定に及ぼす分析試料調製方法の影響について詳細に検討した

12植物性食品に由来すると推測される原因不明食中毒病因物質について調査した

13豆類中のシアン化合物を分析する方法としてピリジンカルボン酸・ピラゾロン法の分析性能を評価し規格試験法として採用することの妥当性を確認した

14放射性照射食品の検知法である熱ルミネッセンス法におけるX線の標準照射としての利用を検討した.また,アルキルシクロブタノン法の適用拡大及び振とう抽出法の導入を評価した

15魚及びそれらの加工品に含まれるヒスタミンを分析するための蛍光誘導体化HPLC法を開発した.規格試験法として採用するための妥当性を確認した

 

2010年度の研究業績

1食品中残留農薬等のスクリーニング分析法の開発に関する研究(厚生労働科学研究,食品の安心・安全確保推進研究事業)

1)農産物中の残留農薬の迅速で効率的なスクリーニング分析法開発の一環として,測定における効率化を図るため,LC-TOFMS法の残留農薬分析への適用について検討し,食品マトリックスの影響を受けにくい測定条件を求めるとともにフラグメントイオンを用いた確認方法について検討した.

2)畜水産物中の動物用医薬品及び農薬の包括的なスクリーニング分析法の開発を目的として,可能な限り多くの動物用医薬品及び農薬に適用可能な抽出方法及び脱脂精製方法について検討した.

 

2食品の規格基準に係る測定値に伴う不確かさに関する研究(厚生労働科学研究,食品の安心・安全確保推進研究事業)

1)特定原材料を対象としたELISA法の不確かさ要因の解析及び,不確かさの推定を試みた.試料のモデル加工食品(畜肉ソーセージ)を単一試験室内で繰り返し分析し,得られた結果から測定値の不確かさを推定した.2社のELISAキットを用い,主要な不確かさ要因と予測された抽出時間の影響を明らかにするための条件設定を含めた.この結果,1)卵を対象とする場合には,抽出時間が測定値間の有意差を生じること,2)吸光度および測定値のばらつきの大きさが2キット間で明確に異なること,3)不適切な検量線の作成が測定値にバイアスを生じていることが明らかとなった.キットと分析対象タンパク質との全組み合わせを通じ,測定値の標準不確かさ(RSD%)5.519.8%と推定された.

2)検量線による濃度推定に伴う不確かさの評価を取り上げ,全体の不確かさへの寄与,検量線に伴う不確かさの軽減について考察した.吸光度法,ICP-MS法,HPLCによる分析において,検量線の存在範囲を正しく予想することが可能であり,これから検量線による濃度逆推定に伴う不確かさを推定した.検量線に起因する不確かさが,分析全体の不確かさの30%程度の大きさとなる場合も見られた.

 

3食品を介したダイオキシン類等有害物質摂取量の評価とその手法開発に関する研究(厚生労働科学研究,食品の安心・安全確保推進研究事業)

1)国内に流通している食品に含まれる汚染物質の量と, 摂食によるそれらの摂取量を明らかにすることを目的に,11機関の協力を得て,マーケットバスケット方式による摂取量調査を実施した.その結果,有機塩素系農薬類,PCBs,マラチオン,MEP,ダイアジノンは,1977年の調査開始当初に比べ摂取量が大きく低下していることが明らかとなった.定量結果が得られる試料数が激減したため,摂取量推定におけるNDとなった結果の取り扱いにより,推定値が大きく乖離する状況となった. 鉛,カドミウム,ヒ素,水銀,銅,マンガン,亜鉛の摂取量には大きな変化は見られず,定量結果が得られる試料の割合も高い.鉛,カドミウムはPTWIあるいはTWIに対する摂取量の比率も大きく,今後も監視が必要である.水銀はメチル水銀としてTWIが設定されているため,安全性を評価するためにはメチル水銀としての摂取量推定値が必要である.無機ヒ素としてPTWIが設定されているヒ素の評価においても同様に,無機ヒ素の摂取量推定が必要である.

2)8機関の協力を得て,マーケットバスケット方式によりダイオキシン類(PCDD/PCDFs及びCo-PCBs)の国民平均1日摂取量を求めた.平均1日摂取量は0.81 pgTEQ/kg bw/dayと推定された.

3)鮮魚(15試料)及び魚加工品(25試料),並びに魚介類を含む弁当試料(30試料)中のダイオキシン類濃度を調査した.鮮魚及び魚加工品のダイオキシン類濃度は08.6 pg TEQ/g,弁当類のダイオキシン類濃度は0.00733.3 pg TEQ/gであった.弁当1食を食した場合のダイオキシン類摂取量は,30試料中26試料でTDIの半分以下であった.焼き魚弁当の1試料のみでTDIを上回るダイオキシン類摂取量が得られた.

4)摂取量推定値の信頼性向上のため毒性の強いメチル水銀の選択的な定量分析法の開発を検討した検討した分析法の性能を魚類を基材とした認証標準試料により評価した結果真度は98108%室内精度(RSD%)10.014.9%であった

5)全国の衛生研究所の食品中の有害化学物質検査データを収集し,データベースを作成した.摂取量調査の新たな調査対象を選択するため,データベース内容を解析し,検出率が増加している農薬等を明らかにし,摂取量調査すべき化学物質として選定した.

6)食品中の芳香族炭化水素(PAHs)を分析するためのGC-MS/MS分析条件の予備検討を行った.欧州食品科学委員会及び食品添加物専門家会議がモニタリングを推薦するPAHs16種について,GC注入口温度及びイオン源温度を検討し,良好なピーク形状と面積値が得られる条件を設定した.

7)ダイオキシン類のスクリーニング法である高感度CALUXアッセイの魚試料に対する適用性を評価した.魚試料からの添加回収率は61107%でありスクリーニング法としては適切であった.7検体の魚試料に対して本法と従来法(HRGC/HRMS分析)を比較すると,PCDD/Fs及びCo-PCBsの両分画で良好な相関係数(r > 0.93)が得られた.本法は従来法の数分の一の時間及び費用で魚中のダイオキシン類濃度の把握が可能であり,スクリーニング法として有用であると考えられた.

 

4検査におけるサンプリング計画並びに手順のハーモナイゼイションに関する研究(厚生労働科学研究,食品の安心・安全確保推進研究事業)

1)サンプリング計画ならびに手順のハーモナイゼイションの前提となる「検査」という行為あるいはそれを表す用語について,食品衛生法第28条を中心に整理,明確化することを通じ,法に定められた収去を通じて実行可能な行為について考察した.

2)全く性質の異なる2つの母集団(製造工程の管理された食肉加工品中の食品添加物と汚染穀類中のデオキシニバレノール)の母分散の推定とサンプリングの不確かさの推定を試みた.食肉加工品中の食品添加物のサンプリングの不確かさは,サンプルサイズが3の場合でも7.47.6%(RSD)と推定され,正しく製造管理されている加工食品については,小さなサンプルサイズでも十分な確度で判定可能な分析結果が得られることが示唆された.穀類中のデオキシニバレノール濃度のサンプリングの不確かは,サンプルサイズが3の場合11.820.0%と推定されたが,正確な推定には母集団の分布型を考慮することが必要であると考察された.

3)米国連邦規則集EU規則,厚生労働省のモニタリング計画を含む複数のサンプリング計画を対象に,サンプルサイズとロットサイズの関係についてその比例関係について関数近似を行い,関数型とその係数を推定した.多くのサンプリング計画においてべき乗関数が,もっとも当てはまりが良かった.べき乗関数に実際の値を当てはめた結果,べき数が約0.5の場合に,実際のロットサイズとサンプルサイズの関係に近い曲線が得られることが多いことが明らかとなった.

4)2つの分布を含むコンサインメントからの非ランダムサンプリングのシミュレーションを行った.コンサインメント内の濃度分布が均一であれば,ランダムではないサンプリングでも,ランダムサンプリングと同じ結果が得られた.複数の濃度分布が局在しているようなコンサインメントから非ランダムサンプリングをした場合は,サンプル数を増加させても,サンプル平均値の標準偏差及び判定を誤る確率も減少せず,検査の信頼性が向上しなかった.以上の結果より,不均一な分布からのサンプリングではランダム性が重要であることが明らかとなった. 

 

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Last Update: 9 Sep. 2002