5 生体内での作用発現
生体暴露量の解析についで重要な点は、ヒト生体内での作用機序の検討である。具体的には、(1)ヒト体内におけるこれら物質の受容体の有無、(2)ホルモン様作用発現の有無、(3)ヒト生体内での代謝・解毒のメカニズム、などの検討である。
(1)ヒト体内におけるこれら物質の受容体の有無
いわゆる内分泌かく乱化学物質のヒト生体内受容体については、ヒト副腎皮質由来(H295R
細胞)、ヒト乳腺細胞(T47D)などに、生体内エストロゲンと同様の受容体が存在することを見出した。さらにヒト子宮内膜細胞(HHUA)、ヒト乳腺由来細胞(MCF-7)を用いて、受容体について更に詳細に検討すると、これらの物質はエストロゲンのαとβの受容体と結合することが確かめられた。受容体については、さらに、既知の受容体の他に、未知のいわゆるオーファン受容体の存在の有無についても検討された結果、レチノイン酸関連の受容体も関与することが明らかになった。
(2)ホルモン様作用発現の有無
生体内での作用発現については、農薬であるp,p’-DDT、p,p’-DDD、p,p’-DDE、o,p’-DDT、o,p’-DDD
及びdicofol、フラボノイドである6-hydroxyflavone、apigenin、ダイゼイン、ゲニシュタイン、biochanin
A 及びformononetin、有機スズであるbis(tributyltin) oxide(TBTO)、tributyltin
chloride(TBT)、diphenyltin dichloride(DBT)及びtriphenyltin
chloride(TPT)は、ヒト副腎皮質細胞に対して、そのコルチゾール産出を抑制することが判明した。また乳腺細胞、子宮内膜細胞の増殖を刺激することも確認された。さらにマウスでは、トリブチルスズが免疫系に作用して経口免疫寛容の誘導に影響を及ぼすことが示唆されること、及びベンゾ(a)ピレンはラットの栄養膜幹細胞株(TS
細胞)の分化過程に影響を及ぼすことを見出した。またフタル酸エステルがゲノムDNA
メチル化状態を変えることで広範にわたる遺伝子発現に影響を及ぼしている可能性が示された。
生体内に実際に存在するこれら化学物質の量(体内負荷量)の範囲でどのような作用が発現するか否かの検討が進行中である。
(3)ヒト生体内での代謝・解毒のメカニズム
代謝・解毒の検討は、まだ今後の研究に多くの余地が残されている。
BPA
を例にとると、ラットではその大部分は消化管と肝臓でグルクロン酸抱合されることが判明した。一方、腎臓では代謝は行われず、ろ過・排泄されるのみであると推察された。グルクロン酸抱合体を分解してもとの化学物質に戻す酵素(β−グルクロニダーゼ)の存在も見出し、新たな分子種の発見と共にさらにヒト生体内での作用を明らかとする知見が蓄積されつつある。 |