内分泌かく乱化学物質の生体影響評価を実施する際、実験動物を用いたin vivo
系試験が広く行われている。しかし、低用量域における生体影響を評価するための動物実験の信頼性を確保するためには、飼育・実験環境(飼料、床敷、給水瓶、空気等)における化学物質暴露の影響を明らかにする必要性が指摘されている。
そこで、上記3種の化学物質の他、植物エストロゲン等について飼料等の測定法を構築し、実試料への応用を試みた。
その結果、飼料中には、対象化合物が微量含有され、その量はロットによってばらつく傾向があった。なお、飼料については、バックグランドが低減化された製品も利用できる。
床敷に含まれる化学物質が、どの程度動物実験に影響を及ぼすのか明らかではないものの、有意に高い濃度で化学物質を含有する製品も流通していた。
動物実験を行う時には、飼育・実験環境における水(容器)、飼料、床敷、空気等に含まれる化学物質に留意する必要があると言える。
〔今後の取組〕
1)効率の良い分析法やより精度、感度に優れた分析法の構築に関して情報収集を行い、分析ガイドラインの充実を図る。
(3)低用量問題
〔これまでに分かったこと〕
1)もとより生体内の内在性ホルモン量は、極微量のレベルで調節され、かつ変動しており、低用量で生体作用を示し高用量では作用することなく処理・排泄される。したがって、内分泌様の活性をもつ化学物質も低用量で作用を示すが、その内分泌かく乱作用については、成体では内在性ホルモンへの適応があることやこれまでの調査研究結果から、さしあたり障害
性の焦点にはならないものと判断される。
2)一方で、胚細胞期・胎生期・新生児期・思春期といった形態形成期、機能が安定する前の時点における影響を糸口にした作用機構の解明が研究の焦点となりつつある。
3)低用量問題は、同時に取り上げられた閾値問題、相乗・相加性、用量相関問題などを構成要素とし、相互に密接な関連をもつ。
4)内分泌様活性をもつ化学物質の作用機構の解明や、アリールカーボン受容体とエストロゲン受容体シグナルの相互作用関係の認識などから、作用機構の多様性が判明しつつあり、このことが低用量問題や複合効果の解明にも影響をもつと考えられる。
5)内分泌かく乱作用として、生殖系、免疫系、神経系など、いわゆる高次生命系への影響が焦点となっており、種々の試験結果が明らかになりつつあるが、未だ不明な点が多く、さらに作用機構を解明するための取組が求められる状況にある。
6)なお、問題の解明の中で、膜受容体が発見され、遺伝子機能を介さないホルモン様作用について理解が進むとともに、現状では未知の要因が介在していることを念頭において検討を進めることの意義も喚起された。 |