(食品安全情報2021年2号(2021/01/20)収載)
要旨
CaliciNet Chinaは、中国のノロウイルス感染アウトブレイクの疫学および遺伝子型分布を把握するために、中国疾病予防管理センター(Chinese Centers for Disease Control and Prevention)が省や市などの検査機関を統括しているネットワークであり、2016年10月に立ち上げられた。2016年10月〜2018年9月にノロウイルス感染アウトブレイク計556件が報告され、このうち470件(84.5%)で陽性便検体の遺伝子型解析が行われた。これらのアウトブレイクの大部分がヒト−ヒト感染であり(95.1%)、発生施設は保育施設または学校(78.2%)、発生時期は各年度の11〜3月(63.5%)が多かった。調査対象の2年間に報告された全ノロウイルス感染アウトブレイクのうち、81.2%が遺伝子型GII.2[P16]であった。中国のノロウイルス感染アウトブレイクは保育施設または学校での発生が最も多く、遺伝子型はGII.2[P16]が優勢である。CaliciNet Chinaが継続して行っているサーベイランスにより、ノロウイルスの遺伝子型分布の変動やアウトブレイクの特徴に関する情報が得られ、これらの情報はワクチンなどの効果的な対策の決定に重要である。
結果
〇 ノロウイルス感染アウトブレイクの疫学的特徴
CaliciNet Chinaは2016年に3地域(北京市、広東省、江蘇省)の9検査機関の参加で発足し、参加数は2018年までに中国東部、中央部、西部の6地域(上海市、湖南省、遼寧省を追加)の17検査機関に増えた(図1)。2016年10月〜2018年9月に、ノロウイルス感染アウトブレイク計556件がCaliciNet Chinaに報告された。地域別内訳は、320件(57.6%)が広東省、101件(18.2%)が江蘇省、79件(14.2%)が北京市、38件(6.8%)が湖南省、12件(2.2%)が遼寧省および6件(1.1%)が上海市からの報告であった。アウトブレイクの多くが冬季(11月〜3月)に発生していた(図2)。アウトブレイクの規模に関する情報が427件(76.7%)で報告され、1件あたりの患者数の中央値は15人(四分位範囲:12〜81.5)であり、200人を超えるアウトブレイクが5件あった(表1)。このうち3件は大学で、2件は専門学校で発生した。また、4件はヒト−ヒト感染で、1件は食品由来感染であった。全556件のうち、280件(50.4%)は保育施設、155件(27.9%)は初等教育機関(primary school)【日本における小学校】、61件(11.0%)は中等教育機関(middle school)【日本における中学校・高校】、24件(4.3%)は大学で発生した。感染経路が特定された452件(81.3%)では、ヒト−ヒト感染が最も多く(430件、95.1%)、次いで食品由来(13件、2.9%)、水由来(6件、1.3%)であった(表2)。
図1:疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)のCaliciNet Chinaに参加している検査機関の位置(2016年10月〜2018年9月)
「★」:省/直轄市の検査機関
「●」:市の検査機関
「▲」:地区などの検査機関
黒字:2016年4月に参加
青字:2017年4月に参加
図2:CaliciNet Chinaに報告されたノロウイルス感染アウトブレイク件数の月別分布(2016年10月〜2018年9月)
表1:CaliciNet Chinaに報告されたノロウイルス感染アウトブレイク556件のウイルスの遺伝子型(2016年10月〜2018年9月)
*これらのアウトブレイクについては、ネットワークに参加している検査機関でのRT-PCR法による遺伝子型解析は行われなかった。
表2:CaliciNet Chinaに報告されたノロウイルス感染アウトブレイクの感染経路・発生施設別件数(2016年10月〜2018年9月)
*初等教育・中等教育の一貫校で発生したアウトブレイクが15件、保育施設・初等教育・中等教育の一貫校で発生したアウトブレイクが1件
〇 遺伝子型
全アウトブレイク556件のうち470件(84.5%)について遺伝子型に関する情報が得られた。遺伝子型が報告されなかった86件(15.5%)のうち、72件はネットワークに参加している検査機関による遺伝子型解析が行われず、残り14件はリアルタイムRT-PCR(rRT-PCR)法で陽性であったが従来のRT-PCR法では陰性となったため、遺伝子型解析が行えなかった。遺伝子型が決定されたアウトブレイク470件のうち、430件(91.5%)がGII、26件(5.5%)がGIで、残り14件(2.5%)にはGIおよびGIIの両方に陽性の検体が認められた。全体で、5種類のGIおよび12種類のGIIが検出された。遺伝子型が決定されたアウトブレイク470件のうち、GIはGI.2[P2](11件、2.3%)、GI.6[P11](6件、1.3%)、GI.3[P13](5件、1.1%)などであった。GII感染アウトブレイクのうち349件(74.3%)がGII.2[P16]で、この血清型は調査対象の全期間を通して検出され、2016〜2017年の冬季がピークであった(図3)。GIIでは、その他にGII.3[P12](25件、5.3%)、GII.17[P17](18件、3.8%)、GII.6[P7](16件、3.4%)、GII.4 Sydney[P31](11件、2.3%)などが検出された。アウトブレイクでの検出率が1%未満であった遺伝子型は、GIでは、GI.1[P1]、GI.3[P13]、GI.5[P12]およびGI.6[P11]であり、GIIでは、GII.1[P33]、GII.2[P2]、GII.8[P8]、GII.13[P21]、GII.14[P7]、GIX.1[P15]およびGII.17[P31]であった。2016〜2017年の冬季にはGII.2[P16]が流行してGIの検出はまれであったが(298件中1件、0.3%)、次の季節(2017〜2018年)では172件中24件(13.9%)でGIが検出され、ピークは2018年3月(25件中10件、40.0%)であった。複数種の遺伝子型によるアウトブレイクは2018年3月に多く発生し(14件中9件、64.3%)、主としてGII.17[P17]が2018年1〜4月(14件中9件、64.3%)、GII.6[P7]が2017〜2018年の冬季(16件中13件、81.3%)に検出された。
図3:CaliciNet Chinaに報告されたノロウイルス感染アウトブレイク470件の遺伝子型分布(2016年10月〜2018年9月)
(2017年8月はアウトブレイクの報告がなかった)
〇 疫学的特徴と関連する遺伝子型
GII.2[P16]感染アウトブレイクでは、食品由来が276件中10件(3.6%)およびヒト−ヒト感染が276件中266件(96.4%)で、水由来アウトブレイクの報告はなかった(χ2=10.5、p=0.003)(表3)。複数種の遺伝子型によるアウトブレイクは、単一の遺伝子型のものより、水由来および食品由来に関連する頻度が高かった。
GII.2[P16]は、保育施設および学校で発生したすべてのアウトブレイクにおいて最も優勢な遺伝子型であった。GII.3[P12]感染アウトブレイクは、保育施設(280件中19件、6.8%)、初等教育機関(155件中3件、1.9%)および中等教育機関(61件中1件、1.6%)で多く発生した。GII.17[P17]感染アウトブレイクは、大学(24件中2件、8.3%)、中等教育機関(61件中4件、6.6%)、初等教育機関(155件中7件、4.5%)および保育施設(280件中2件、0.7%)で多く発生した。GI.2[P2]感染アウトブレイクは、中等教育機関で最も多く発生した(61件中5件、8.2%)(χ2=12.907、p=0.002)。検体から複数種の遺伝子型が検出されたアウトブレイク14件のうち、4件が大学、6件が中等教育機関、1件が初等教育機関および3件が保育施設で発生した。
表3:CaliciNet Chinaに報告されたノロウイルス感染アウトブレイクの遺伝子型・感染経路別件数、2016年10月〜2018年9月