Morbidity and Mortality Weekly Report(CDC MMWR)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/mmwr/


食品由来疾患アウトブレイクサーベイランス(米国、2009〜2015年)
Surveillance for Foodborne Disease Outbreaks - United States, 2009-2015
Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR)
Surveillance Summaries / Vol. 67 / No. 10
July 27, 2018
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/ss/pdfs/ss6710a1-H.pdf (PDF版)
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/ss/ss6710a1.htm

(食品安全情報2018年23号(2018/11/07)収載)


背景

 米国では、1年間に食品由来疾患アウトブレイクが約800件、これによる患者が約15,000人、入院患者が約800人、および死亡者が約20人報告されている。既知の病原体によって米国で1年間に発生する食品由来患者は約940万人で、そのうちアウトブレイク関連の患者はごく一部である。しかし、アウトブレイクに含まれない患者の場合、原因食品およびそれに曝露した場所が特定されることは極めてまれである。一方、アウトブレイクでは調査によって病因物質と特定の食品との関連付けが行われることが多く、その結果をもとに公衆衛生当局、食品規制機関および食品業界は食品が汚染された経緯を調べることができる。また、食品由来アウトブレイクの調査から得られたデータは、新規の食品安全課題の特定や、特定の食品を原因とする疾患を防止するプログラムの有効性評価にも使用できる。

 本論文は、2009年1月1日〜2015年12月31日に初発患者が発生した米国の食品由来疾患アウトブレイクをまとめたものである。本論文は、数件の大規模アウトブレイク、および、調査対象期間中のアウトブレイクの原因食品として新たに特定された食品や食品・病原体の組み合わせに注目している。


サーベイランスシステム

 食品由来疾患アウトブレイクは、共通の食品の喫食によって類似の症状を呈する患者2人以上が発生した事例と定義され、食品由来疾患アウトブレイクサーベイランスシステム(FDOSS)がデータを収集している。食品由来アウトブレイクは、1960年代前半から、州・地域・テリトリーの衛生当局が標準報告様式を使用して自主的に米国疾病予防管理センター(US CDC)に報告してきた。2009年から、FDOSSへの報告は同年に導入されたWebベースの全米アウトブレイク報告システム(NORS)を介して行われている。


結果

 FDOSSは2009〜2015年に、アウトブレイク5,760件、これらに関連する患者100,939人、入院患者5,699人および死亡者145人の報告を受けた(図)。アウトブレイクは、全50州、ワシントンD.C.、プエルトリコおよびCDCから報告された。単独州アウトブレイクの報告率は人口100万人あたり2.6件/年であった。すべてのアウトブレイク(複数州にわたるアウトブレイクを含む)の2009〜2015年の報告率も同じく人口100万人あたり2.6件/年であった。単独州アウトブレイクは全アウトブレイクのうち5,583件(97%)を占め、関連する患者数は89,907人であった(アウトブレイク1件あたりの患者数の中央値は8人、範囲は2〜800人)。これらの患者のうち4%(3,733人)が入院した。複数州にわたるアウトブレイクは全アウトブレイクのうち177件(3%)を占め、関連する患者数は11,032人であった(アウトブレイク1件あたりの患者数の中央値は20人、範囲は2〜1,939人)。これらの患者のうち18%(1,966人)が入院した。


図:各年の食品由来疾患アウトブレイク件数(食品由来疾患アウトブレイクサーベイランスシステム(FDOSS)、米国およびプエルトリコ、2009〜2015年)


○病因物質

 単一の病因物質が確定したアウトブレイクは2,953件(51%)で、関連する患者数は67,130人、入院患者数は5,114人、および死亡者数は140人であった。これら2,953件のアウトブレイクで、最も頻繁に報告された病因物質はノロウイルスであった(アウトブレイク1,130件[38%]および患者27,623人[41%]に関連)。2番目はサルモネラの同896件(30%)および同23,662人(35%)で、次いで、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)(191件[6%])、カンピロバクター(155件[5%])、ウェルシュ菌(108件[4%])、サバ毒(scombroid toxin)(95件[3%])、シガトキシン(ciguatoxin)(80件[3%])、黄色ブドウ球菌(35件[1%])、腸炎ビブリオ(35件[1%])およびリステリア(Listeria monocytogenes)(35件[1%])であった。単一の病因物質が確定したアウトブレイクにおいて、入院患者数および死亡者数が最も多かった病因物質はリステリア、サルモネラおよびSTECであった(3菌種合計で入院患者数の82%、死亡者数の82%に関連)。


○原因食品の調理場所

 アウトブレイク5,022件(87%)で原因食品の調理場所が報告され、このうちの4,696件(94%)で単一の場所であった。単一の調理場所が報告されたアウトブレイクでは、レストランが最も多く(2,880件[61%])、次いで仕出し施設(636件[14%])、一般家庭(561件[12%])の順であった。レストランでは、着席スタイルのレストランが最も多かった(2,239件[48%])。アウトブレイク関連の患者数が最も多かった調理場所はレストラン(33,465人[43%])で、次いで、仕出し施設(18,141人[24%])、学校などの公共施設(9,806人[13%])であった。アウトブレイク1件あたりの平均患者数が最も多かった調理場所は公共施設(46.5人)で、レストランは最も少なかった(11.6人)。


○原因食品

 調査によりアウトブレイク2,442件(42%)(関連する患者数は51,341人[51%])で原因食品が特定された。報告された原因食品が特定の1つの食品カテゴリーに属していたアウトブレイクは1,281件(22%)であった。原因食品の食品カテゴリーについて、関連したアウトブレイク件数で見ると、魚類(222件[17%])が最も多く、次いで乳製品(136件[11%])、鶏肉(123件[10%])の順であった。患者数で見ると、鶏肉(3,114人[12%])、豚肉(2,670人[10%])、果菜類(seeded vegetables)(2,572人[10%])の順であった。確定した単一の病因物質と食品カテゴリーの組み合わせについては、関連したアウトブレイク件数で見ると、サバ毒と魚類(85件)が最も多く、次いで、シガトキシンと魚類(72件)、カンピロバクターと乳製品(60件)の順であった。患者数で見ると、サルモネラと卵(2,422人)、サルモネラと果菜類(2,203人)、サルモネラと鶏肉(1,941人)の順であった。サバ毒およびシガトキシンと魚類の組み合わせが関連したアウトブレイクの患者数は計519人で、1件あたりの平均患者数は3人であった。一方、果菜類を原因食品とするサルモネラ感染アウトブレイクでは1件あたりの患者数が平均88人、卵を原因食品とするサルモネラ感染アウトブレイクでは78人であった。

 今回の調査対象期間中にはアウトブレイクの原因食品として新たに特定された食品がいくつかあった。2011年、トルコから輸入された松の実に関連するサルモネラ(Salmonella Enteritidis)感染アウトブレイクでは、患者53人および入院患者2人が発生した。2014年には、カナダから輸入された粉末チアシードによるサルモネラ(S. Gaminara、S. Hartford、S. Oranienburg)感染アウトブレイクで、患者45人および入院患者7人が発生した。2015年のSTEC O26およびO121感染アウトブレイク1件は米国産の生の小麦粉に関連し、24州で患者計56人および入院患者計16人が発生した。同じく2015年のサルモネラ(S. Virchow)感染アウトブレイクは南アフリカ共和国から輸入されたモリンガの葉の粉末が原因食品で、24州で患者計35人および入院患者計6人が発生した。モリンガの葉の粉末は、食品の代替として喫飲する有機粉末シェイクミックスの原材料であった。


○複数州にわたるアウトブレイク

 複数州にわたるアウトブレイクは件数では全アウトブレイクの3%にすぎないが、患者数では11%、入院患者数では34%、死亡者数では54%を占めた。感染源への曝露があった州の数は、複数州にわたるアウトブレイク1件あたり中央値が7州で、範囲は2〜45州であった。複数州にわたるアウトブレイク177件のうち最大の事例は、汚染された殻付き卵によるサルモネラ(S. Enteritidis)感染アウトブレイクであった。このアウトブレイクは2010年に発生し、患者数は10州の1,939人と推定された。患者数が2番目に多かったのは、2015年にキュウリが原因で発生したサルモネラ(S. Poona)感染アウトブレイク(40州の計907人)で、入院患者数は最大であった(204人、患者数の22%)。入院患者数が2番目に多かったのは、2013〜2014年の鶏肉によるサルモネラ(S. Heidelberg)感染アウトブレイク(200人、患者数の32%)で、患者は29州およびプエルトリコから報告された。死亡者数が最大だったのは2011年にカンタロープメロンにより28州にわたって発生したリステリア(L. monocytogenes)感染アウトブレイク(33人[患者数の22%])であり、2番目は2014年にキャラメルリンゴにより12州にわたり発生したリステリア(L. monocytogenes)感染アウトブレイクで7人(患者数の20%)が死亡した。このアウトブレイクは原因食品として新たに特定された食品による事例でもあった。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部