(食品安全情報2018年4号(2018/02/14)収載)
欧州の食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF:Rapid Alert System for Food and Feed)の2016年の年次報告書が発表された。この報告書から病原微生物関連の内容の一部を以下に紹介する。
食中毒事例がきっかけとなったRASFF通知またはRASFFニュース
2016年は、50件のRASFF通知が食中毒事例をきっかけに発せられた。また、RASFFニュースのうち4件が食中毒事例関連であった。当該50件のRASFF通知のうち6件は、ラベル表示に記載がなかったアレルゲンを含む食品の喫食により消費者がアレルギー症状を呈した事例に関連していた。別の10件の通知はマグロでの高濃度ヒスタミンに関連したものであった。これらの通知とは別の29件の通知が病原微生物を原因とする食中毒に関連しており、うち10件がサルモネラ症関連であった。
以下に、食中毒事例に関連して発せられたRASFF通知またはRASFFニュースの一部の具体例についてそれらの表題を示す。
○概要
2016年にRASFFを通じて発せられた新規通知は計2,993件で、このうち警報通知(alert)は847件(28%)、フォローアップ喚起情報(information for follow-up)は378件(13%)、注意喚起情報(information for attention)は598件(20%)、通関拒否通知(border rejection)は1,170件(39%)であった。これらの新規通知が契機となって7,288件のフォローアップ通知が発せられ、新規通知1件あたりのフォローアップ通知件数は平均2.4件であった。警報通知については、新規通知1件あたりのフォローアップ通知件数が平均5.5件に達した。
2015年と比較すると、新規通知の件数は1.8%減少したが、フォローアップ通知の件数は17.5%増加し、全体的には11.1%の増加となった。
○通知国別のRASFF通知件数
表1:ハザード/製品カテゴリー/通知国の組み合わせ別の通知件数(件数が多い上位10位まで)
○原産国別のRASFF通知件数
表2:ハザード/製品カテゴリー/原産国の組み合わせ別の通知件数(件数が多い上位10位まで)
○ハザードおよび製品カテゴリー別のRASFF通知件数(RASFF加盟国を原産国とする食品)
図1:RASFF加盟国を原産国とする食品に関連する通知で最も頻繁に記載されたハザードおよび製品カテゴリー(それぞれ件数の多い上位10位まで、サンキー・ダイアグラム)
●病原微生物
病原微生物関連の通知が最も多く、計352件であった。図1から、RASFF加盟国を原産国とする食品に関連するRASFF通知のかなりの部分が、主に動物由来である食品の病原微生物汚染に関係していることがわかる。この点を詳細に示したのが図2である。
図2:病原微生物種および製品カテゴリー別のRASFF通知件数(RASFF加盟国を原産国とする食品に関連する通知、サンキー・ダイアグラム)
◇サルモネラ属菌
サルモネラ属菌は、RASFF加盟国を原産国とする食品中の病原体として引き続き最も多くの通知(170件)で報告されているが、RASFF非加盟国を原産国とする食品中の病原体としても最も多く(172件)の通知で報告されている。前者の場合、サルモネラ属菌関連の通知の大部分は食肉関連であるが、一部の通知はSalmonella Enteritidisによる卵製品の汚染に関するものであった。上述したように、卵は2016年の食品由来アウトブレイクの重要な原因食品の1つであった。
サルモネラ血清型別の通知件数の解析は、通知の多くが、生鮮家禽肉でのS. EnteritidisおよびS. Typhimuriumに関する食品安全基準の非遵守によるものであったことを示した。
・繰り返し発せられた通知
ポーランドを原産国とする食品のサルモネラ汚染を報告した通知が40件あり、これらは主に家禽肉製品関連(30件)で、最も多かったのは生鮮家禽肉のS. Enteritidis汚染についてであった。これらの繰り返される通知に関連した業者として3社が特定された。
◇リステリア(Listeria monocytogenes)
リステリア汚染に関する通知では、食品としては魚が最も多かった。問題の魚は主にスモークサーモンであったが、その他の燻製魚製品(スモークトラウトなど)に関連した通知もあった。しかし、リステリア汚染に関する通知でフランスが原産国として1位になった理由は燻製魚ではなかった。その主な理由は、製造業者によるチーズの自社検査にあった(9件の通知の契機になった)。数カ国から通知があった場合でも、その前に、フランスの製造業者による自社検査と、その結果を受けての製品撤去が行われていた。関連したチーズ製品は生乳から作られたものが多かった。
製造業者の自社検査は、チーズ以外の食品についてもしばしば、リステリア関連の通知のきっかけとなった。リステリア関連の通知で2番目に多く報告された製品カテゴリーは家禽肉以外の肉・肉製品であった。EC規則No.2073/2005は、そのまま喫食可能な(RTE)食品についてリステリアの食品安全基準を設定している。このため、加熱調理が必要な生の食品については、通常、リステリアをハザードとするRASFF通知の対象とならない。
◇大腸菌(Escherichia coli)
大腸菌関連の通知で件数が最も多かったのは基準値を超える菌数の大腸菌をハザードとするもので、生きた二枚貝の食品安全基準(230 MPN(最確数)/100g)に関連している。スペイン産のイガイ、イタリア産のイガイおよびアサリ(ハマグリ)、ならびにフランス産のイガイ、アサリ(ハマグリ)およびカキに関連していた。
STECは毒素産生能があるため食中毒の原因となり得る。個々の株が実際に疾患を引き起こすか否かは様々な要因に依存しているため、通常、汚染がもたらす健康リスクの推定は容易ではない。STEC汚染は動物またはヒト由来であることから、加熱処理されていない食肉製品やチーズで最も多く見られる。
腸管病原性大腸菌(EPEC)は志賀毒素を産生する遺伝子を有していないが、腸管に付着しこれを傷害する能力を持つ遺伝子を有している。
・繰り返し発せられた通知
2016年2〜3月に、スペイン産の生きたイガイの基準値を超えた菌数の大腸菌汚染に関する通知が繰り返し13件発せられ、すべてイタリアが通知国であった。これらの繰り返される通知に関連した業者として2社が特定された。
◇ノロウイルス
ノロウイルスについては14件の通知があり、このうち11件はフランス産の活カキの汚染の報告であった。これらの繰り返される通知に関連した業者として1社が特定された。
◇カンピロバクター
カンピロバクター汚染についてはデンマークから9件の通知があり、そのほとんどが生鮮鶏肉関連で、1件がイタリア産のルッコラに関連したものであった。
○ハザードおよび製品カテゴリー別のRASFF通知件数(RASFF非加盟国を原産国とする食品)
図3:RASFF非加盟国を原産国とする食品に関連する通知で最も頻繁に記載されたハザードおよび製品カテゴリー(それぞれ件数の多い上位10位まで、サンキー・ダイアグラム)
●病原微生物
病原微生物関連の通知は計231件であった。RASFF加盟国を原産国とする食品に関連する通知の場合(図2)と比べ、非加盟国を原産国とする食品に関連する通知ではサルモネラ属菌をハザードとする通知がより大きな割合を占めていた(図4)。サルモネラ属菌をハザードとするこれらの通知は、植物由来の食品についても報告された(図4)。
図4:病原微生物種および製品カテゴリー別のRASFF通知件数(RASFF非加盟国を原産国とする食品に関連する通知、サンキー・ダイアグラム)
◇サルモネラ属菌
・繰り返し発せられた通知
1) インド産のキンマの葉:計45件の通知(すべてが通関拒否通知)、ほとんどが英国を通知国とする
2) タイ産の鶏肉:計22件の通知(15件が通関拒否通知)
3) ブラジル産の七面鳥肉および鶏肉:計19件の通知(17件が通関拒否通知)、多くがオランダを通知国とする
4) インド産のゴマ種子:計18件の通知(すべてが通関拒否通知)
5) ラオス産の生鮮ハーブおよび野菜:計18件の通知(5件が通関拒否通知)、多くが英国を通知国とする