世界保健機関(WHO)からのノロウイルス関連情報
http://www.who.int/en/


汚染食品による小児の下痢性疾患
Perspectives: Diarrhoeal disease in children due to contaminated food
Bulletin of the World Health Organization 2017;95:233-234
http://www.who.int/bulletin/volumes/95/3/16-173229/en/
http://www.who.int/bulletin/en/

(食品安全情報2017年12号(2017/06/07)収載)


 2015年12月、世界保健機関(WHO)は31種類の感染因子または化学物質で汚染された食品の喫食に起因するヒト疾病被害の推定値を発表した。報告書は、汚染食品への曝露により2010年に世界中で6億人の患者(95%信頼区間(CI) [4.2億〜9.6億人])、42万人の死亡者(95% CI [31万〜60万人])、および3,300万DALYs(Disability-adjusted Life Years:障害調整生存年)(95% CI [2,500万〜4,600万DALYs])の被害が生じたと結論付けている。これらの値は、2010年(それ以降の年も同様であるが)の世界中の下痢症患者数(46億人、95% CI [35億〜65億人])および下痢症による死亡者数(160万人、95% CI [130万〜190万人])にもとづいている。

 この推定で最も重要な要素は、下痢症による死亡のうちどの程度が食品を介した感染に起因するかを見積もることであった。個々の病原体について、種々の伝播様式が占める割合の推定が専門家による体系的な意見にもとづき行われ、11種類の重要な細菌性、ウイルス性および原虫性の下痢症の場合、29%(95% CI [22〜36%])の事例が食品由来であると推定された。これら11種類の病原体で汚染された食品により、2010年に5億4,800万人の下痢症患者(95% CI [3億7,000万〜8億8,800万人])および20万人の死亡者(95% CI [13万7,000〜28万7,000人])が生じたと推定される。このうち、2億1,700万人(39%、95% CI [29〜38%])の患者が5歳未満の小児であった。5歳未満の小児に食品由来下痢症被害が偏在していることは、5歳以上の子供や成人と比較して5才未満の小児の人口10万人あたりのDALY値が高いこと(11.6倍、95% CI [8.4〜15.6倍])から明らかである。2013年についての更新情報によると、5歳未満の小児での11種類の病原体による食品由来感染は、下痢症による推定死亡者数57万8,000人(95% CI [44万8,000〜75万人])の16%の原因となった可能性がある。

 世界的には、サルモネラ属菌(侵襲性感染を含む)、腸管病原性および腸管毒素原性大腸菌、ノロウイルス、およびカンピロバクター属菌による下痢性感染症が最も大きな被害を生じる食品由来疾患であった。これらの腸管病原体に対して有効と思われる食品安全対策は、少なくとも食品の調理段階においては病原体にかかわらず類似している可能性が高い。しかしながら、対策を進めるための信頼性のあるエビデンスが不足している。食品の汚染は、食品や原材料が栽培/飼育、収穫、加工、運搬、そして販売される段階から喫食前の調理に至るまで、生産や調理の一連の工程のあらゆる段階で起こり得る。家庭における食品の衛生的な調理と保存は小児にとって特に重要だが、乳の加熱殺菌など食品供給段階における体系的な改善も同様に重要である。消費者に対する食品安全教育は消費者の行動に影響することが示されているが、食品加工、提供、小売の各業界への対策など他の多くの要因によっても疾患は予防される。

 食品由来疾患の被害に関するWHOの推定は、小児の感染予防に役立つ食品安全の改善策に特に注意を払う必要性を強調している。下痢症の発生率および致死率が非常に高い6〜23カ月齢の小児での食品由来感染を予防するための1つの重要な戦略は、母乳または調製粉乳を補うために与えられる補助食品の安全性を向上させることである。これらの補助食品の汚染は、母乳に部分的な防御効果があるにも関わらず、重症の腸内感染症を引き起こす可能性がある。食品生産動物は人の生活空間のすぐ近くで飼育されることが多い。したがって、人獣共通感染症の原因となり得るこれらの動物の排泄物への小児の曝露を防ぐために、一層の努力が必要である。小児の疾病被害を軽減し栄養状態を改善するための努力は、食品由来、水由来および人獣共通感染性の病原体への曝露を並行して制御することで効果を発揮すると考えられる。

 小児での食品由来疾患の大きな被害を軽減しようとする場合、具体的な食品安全対策を特定し検証する研究に対する幅広い支持が必要である。エビデンスの欠如に対処するための研究は、疾病被害についてより詳しい情報を得ることから始めれば良い。すなわち、特定の国の低および中レベルの所得状況における食品由来疾患の局所的な被害を特定すること、リスクが高いと考えられる特定の食品に関する疾病被害を推定すること、および、食品中の化学物質によるヒトの疾病被害を推定することが挙げられる。小児で下痢性疾患の被害が大きいにもかかわらず、これらの疾患がより安全な食品によってどの程度予防できるかを特定する介入研究は見当たらない。これは、数多くの研究が下痢性疾患に対する浄水と下水設備の効果を評価していることと対照的である。より良い疾病管理を行うためには、小児の食品由来下痢症を予防するための食品安全対策の効果に関して、信頼できるデータベースを構築する必要がある。このデータベースは、母子を対象とした対策の策定、および、下痢症患者数低減の進捗状況を監視するための効果的なサーベイランスシステムの開発と実施に役立つと考えられる。食品由来疾患による損失と食品安全対策による利益の経済学的分析が、上述の努力を後押しするであろう。最後に、ノロウイルスのような一般に食品由来の病原体に対する動物/ヒト用ワクチンを開発する研究が必要である。



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部