食品取扱者とノロウイルスの伝播:社会科学的分析
Food handlers and Norovirus transmission: Social science insights
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/report_1.pdf (報告書PDF)
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/annex_2.pdf (報告書付録PDF)
(食品安全情報2017年22号(2017/10/25)収載)
英国食品基準庁(UK FSA)は、Ipsos MORI社により実施された研究「食品取扱者とノロウイルスの伝播:社会科学的分析(Food handlers and Norovirus transmission: Social science insights)」の研究報告書を発表した。本研究は、食品取扱者の行動を理解しこれを改善させることによりノロウイルスの拡散を防ぐことを目的としている。
研究報告書の概要(Executive Summary)
○ 背景
ノロウイルスは、市中での感染性胃腸疾患の最も一般的な原因病原体である。 FSAは、英国において2014年に約74,000人の食品由来ノロウイルス感染患者が発生したと推定した。この患者数を減少させることは、FSAの重要な優先項目となっている。
ノロウイルスは、ソフトフルーツなどの生鮮農産物や、生もしくは加熱不十分のカキなどの貝類の喫食に起因する疾患のアウトブレイクに頻繁に関連している。一方、感染した食品取扱者による食品のノロウイルス汚染が、ヒトのノロウイルス感染の重要な寄与因子であると考えられているが、このことを示唆する論文の数は多くない。
2015年11月、FSAは、ノロウイルス伝播における食品取扱者の役割をより良く理解するため、ケータリング部門におけるノロウイルス伝播の理解を深める本研究に資金を提供した。本研究の目的は、以下の2点であった。
予備調査段階で、文献調査および5人の専門家へのインタビューで得られた情報にもとづき、5つの制御戦略分野(個人衛生、食品の取扱い、食品の洗浄と加熱、調理台表面および制服の洗浄、仕事に適した健康状態)が特定された。各戦略分野はノロウイルスの伝播を低減または緩和する可能性のあるいくつかの「慣習と行動」から成っている。予備調査からケーススタディ方式が提案され、32カ所の食品関連施設への視察が実施された。
それぞれの視察では、食品取扱者および食品取扱者の管理者への詳細な聞き取り調査、職場環境および行動についての体系的な観察、および少数の食品取扱者(聞き取り調査を行った食品取扱者は含まれない)の調査が行われた。
○ 主な結果
調査参加者は多くの場合、ノロウイルスという用語を認識していたが、ノロウイルスに関する知識のレベルは一般に非常に低かった。ノロウイルスがどのようなもので、どのように感染し伝播するかに関して、知識の欠如や混乱がしばしばみられた。調査参加者はノロウイルス感染症の症状、およびノロウイルスの伝播をどのように防止するかについて多少の認識を有している程度で、ノロウイルスが特に顕著な関心事であるというエビデンスはほとんど得られなかった。このようなノロウイルスに関する知識の欠如、および食品取扱いにおけるノロウイルスの重要性と関連性に関する認識の欠如は、予期されたものであったかもしれない。さらに、効果的な手洗い方法のような、より一般的な衛生慣習を含む推奨行動の認識と実行において、知識と技能のギャップが見られた。
職場環境に由来する障壁が以下の2点においてしばしば確認された。1つは職場の特徴(時間不足、忙しさ、作業負荷量、職場復帰者の経済状態と賃金)で、もう1つは食品取扱環境の物理的構造とインフラの問題である。頻度の高いこまめな行動(手洗い、手袋使用、調理台表面の洗浄など)および頻度が低い行動(制服のクリーニング、勤務からの除外など)の両方が職場環境によって影響を受けていた。社会的影響力の欠如は顕著であった。例えば、推奨行動は既に行われているという仮定だけでなく、推奨行動の実行も求める社会的圧力または期待が欠如していた(これらの欠如は食品取扱者が何が適切かを認識していないことにも関係している可能性がある)。
やる気に関連した障壁に関しては明確なエビデンスがあり、その存在は予備調査では特定されていなかった。推奨行動の不履行に関連した結果についての否定的な信念が欠如しており、ある種の行動(最も明らかなものとしては手洗いと調理台表面の洗浄)はルーチン化および常習化されていたが、多くの場合、推奨行動に沿ったものではなかった。
明確で頻繁に見られたエビデンスから、4つの包括的な制御戦略分野から以下に示す7つの「慣習と行動」がノロウイルス伝播リスクをもたらすことが明らかであった。
行動改善介入戦略案の作成における推奨慣習に従い、行動改善の予想される効果および容易さの評価にもとづき、「不十分な手洗い・乾燥」および「仕事への早過ぎる復帰」が介入戦略案作成の目的のための標的行動として選ばれた。介入の機能と戦略の分類を考慮した上で、実現可能と思われる4つの補完的な介入戦略が作成された。
この研究は、有意義な介入戦略作成のための基盤を提供するものであるが、当該の状況下における介入戦略の最適な設計、作成、および最終的な実施を確実にするには、介入戦略のより慎重な立案および作成が必要であると考えられる。