(食品安全情報2017年12号(2017/06/07)収載)
英国食品基準庁(UK FSA)は主任科学顧問Guy Poppy教授による新しい科学報告書を発表した。この第6回目の科学報告書でPoppy教授は情報科学を取り上げ、データにもとづく組織に移行するというFSAが掲げる主要目標の達成に情報科学がどのように役立っているかを報告している。
本報告書は、FSAがその規制責任を果たし、かつデータにもとづく組織に移行する方法を模索するため、食品業界からソーシャルメディアや消費者調査までの広範なデータをどのように収集しているかを説明している。また、データの最大限の利用、FSAへの支援、および他機関と共にあるいは他機関から学ぶために、ロンドン大学ビッグデータ研究所、英国統計局(Office for National Statistics)などと連携して行っている研究活動についても報告している。情報科学は、FSAの革新的なサーベイランス戦略(Surveillance Strategy)、およびFSAの規制責任の再構築に関連する「今後の食品規制(Regulating our Future)」プログラム実施の原動力となっている。
○以下に本科学報告書に記載されたケーススタディの1例を紹介する。
ツイートを利用したノロウイルス感染アウトブレイク予測の早期警告ツール
ノロウイルスは冬季に流行し嘔吐症状を誘発するウイルスとして知られ、英国の胃腸炎の最も一般的な病原体である。通常、嘔吐および下痢の症状が1〜2日間続く。ノロウイルスは感染力が強く、アウトブレイクが発生すると多くの人が集まる場所(学校、病院、介護施設など)の基本的機能に大きな障害をもたらし、英国国営医療サービス(NHS)が負担する費用は年間1億ポンドと推定されている。
Google社の「インフルエンザ流行予測(Flu Trends)」アルゴリズムが以前に成功を納めたことに触発され、FSAは、ノロウイルスアウトブレイクの早期警告のため、ソーシャルメディアデータと食品由来疾患の統計データとを比較する予測アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムでは、FSAはまずノロウイルス感染の可能性を示す特定のキーワードを含むツイートの数を週ごとに集計し、これらの数をイングランド公衆衛生局(UK PHE)が発表するノロウイルス感染確定患者数の公式統計データと比較する(図)。次に、これらのツイートから、無関係なキーワードが含まれているためにノロウイルスとは関連のないことが明確なツイート、たとえば、妊娠(つわり)、アルコールの過剰摂取、および「気分が良くない」またはこれに類する単語が使用される可能性があるその他の状況に関連するツイートを除外する。
発症から検査機関による結果の発表まで約2週間を要することを考慮し、過去のデータを使用した予測モデルの構築が行われた。患者数の大幅な増加が予測された場合、それらの予測結果が注視されることになる。ノロウイルス患者数の大幅な増加が3週続けて予測された場合、データが真実であるという可能性が高まり、何らかの対策実施の契機となる。したがって、検査機関の報告が契機となる場合に比べより早期に対策が講じられる。
図:ツイート数と検査機関確定患者数との比較
FSAはアウトブレイクを検出すると、NHS Choicesと協力し、多くの人が集まる場所の基本的機能にアウトブレイクによる障害が生じないよう広範囲にわたる対策を実施する。ノロウイルス感染症は治療法が確立されていないことから、ウイルスの拡散を防ぐ方法(手洗いの励行、外出を控えるなど)を国民に周知するための手段(ソーシャルメディアへのインフォグラフィックスの投稿など)が検討される。
このような注意喚起は、可能な限り広範囲の対象に届くよう、ソーシャルメディアの他に一般診療医や学校などにも配布される。この冬の初期にFSAはノロウイルス感染アウトブレイクの発生を予測した。これはFSAが本ツールの使用を開始してから初めて予測したノロウイルスアウトブレイクであった。FSAは、この手法の有効性について工程・影響評価を行っている。