英国食品基準庁(UK FSA)からのノロウイルス関連情報
http://www.food.gov.uk/


市中の感染性胃腸疾患に関する第2回調査(IID2調査)
The second study of infectious intestinal disease in the community (IID2 Study)
12 August 2016
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/711-1-1205_IID2_Summary_Report_FINAL.pdf (報告書要約PDF)
https://www.food.gov.uk/sites/default/files/711-1-1393_IID2_FINAL_REPORT.pdf (報告書PDF)
https://www.food.gov.uk/science/research/foodborneillness/b14programme/b14projlist/b18021

(食品安全情報2017年10号(2017/05/10)収載)


背景

 英国食品基準庁(UK FSA)は、イングランドでの感染性胃腸疾患(IID:Infectious Intestinal Disease)に関する調査報告書を2000年に発表し、IIDの公衆衛生に及ぼす影響を強調した。IID調査の主目的は、疾患実被害を明らかにすること、および全国サーベイランスシステムを較正すること、すなわち、市中での実際の感染者数を把握するために各病原体の感染報告患者数に乗じる必要のある係数を推定することであった。

 FSAの食品由来疾患低減計画は政府が主導する主要な公衆衛生対策の一環として行われている。その成果は5つの極めて重要な病原体(サルモネラ、カンピロバクター、ウェルシュ菌、大腸菌O157、リステリア(Listeria monocytogenes))の検査機関サーベイランスデータにより評価される。しかし、直近のデータを精査し将来の方向を予測するには、市中での疾患実被害と公式統計値との関係が10年以上前と同様であるか否かを知る必要がある。

 1990年代中ごろに第1回のIID調査(IID1調査)が実施されてから、全国サーベイランスにはいくつかのシステム上の改訂が行われており、これらにより上記の関係が大なり小なり影響を受けている可能性がある。このため、報告ピラミッドの各段階の間の関係について現状に合った情報が必要となっている。FSAはこのような情報を得るために、マンチェスター大学およびその他の複数の協力機関に第2回のIID調査(IID2調査)を委託した。

 本IID2調査の主な目的は以下の通りであった。

  • 英国の住民コホートおよび一般診療医(GP)受診者コホートについてIIDの実被害と病因物質を前向きに推定し、それらの結果を全国サーベイランスのデータと比較する。

  • 英国内の各国において自己申告によるIID実被害を電話調査により推定し、それらの結果を上述の前向き推定値と比較する。


調査方法

 以下の調査が行われた。

  • 住民コホート調査(8,400人・年を追跡)

  • GPを受診したIID患者の調査

  • 一次医療機関で行われる通常の臨床慣行の調査

  • 英国内4カ国の全国サーベイランスセンターへの報告率を推定する調査

  • 電話調査(1カ国あたり回答数3,600件)


調査結果

 IID2調査で得られた重要な結果は以下の通りである。

○英国の状況

  • 英国住民のIID罹患率はかなり高く、約25%が1年間に1回IIDに罹患しており、換算すると年間の患者数は約1,700万人となる。1年間に住民の約2%がIIDの症状でGPを受診しており、総受診件数は年間約100万件と推定される。

  • IID患者の約50%がその症状が原因で学校または仕事を休んだことを報告した。FSAは、これは約1,900万日の損失日数に相当すると算出した(生産年齢層では1,100万日以上の損失)。

  • IID患者の便検体から最も多く検出された病原微生物は、ノロウイルス、サポウイルス、カンピロバクター属菌およびロタウイルスであった。

  • 全国サーベイランスに報告される英国のIID患者1人につき、約10人のGP受診者および147人の市中患者が存在すると推定された。

  • クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)陽性は1検体のみで、通常は医療機関に関連するこの微生物が市中で見られることは多くないことが示唆された。


○1990年代中ごろと比較したイングランドの状況

  • 2008〜09年(IID2調査)は、1993〜96年(IID1調査)と比較するとイングランド住民のIID罹患率は43%上昇したが、IIDによりGPを受診した患者数は50%減少した。

  • 症状を呈してGPを受診したIID患者の全国統計への報告率は、1990年代中ごろと比べて上昇していた。これは、GPがより高頻度に便検査を行うようになったこと、または、一次医療機関を利用したIID患者についてIID事例として記録される頻度が上昇したことを示唆している。しかし、GPを受診するIID患者数は減少している。したがって、認識されないために報告されない市中のIID患者数は増加している。

  • 国営医療サービスの相談窓口(NHS Direct)に直接相談したIID患者は非常に少なかった(〜2%)。したがって、NHS Directに直接相談することのみでGP受診率の低下を説明することはできない。

  • 自己申告疾患の電話調査から推定されるIID罹患率は、コホート調査による罹患率に比べ、思い出し期間が28日の場合は2倍、7日の場合は5倍であった。本プロジェクトのその他の調査および外部情報源由来のデータから、コホート調査で得られる罹患率推定値の方が電話調査より信頼性が高いことが示され、このためコホート調査の結果が市中のIID罹患率の推定に使用された。


(食品安全情報(微生物)No.14 / 2014 (2014.07.09) UK FSA記事参照)



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部