(食品安全情報2015年25号(2015/12/09)収載)
食品由来疾患による世界の死亡者の約3分の1(30%)は、世界人口の9%を占めるにすぎない5歳未満の小児である。世界保健機関(WHO)は今回、人の健康と福祉に汚染食品が与える影響について今までで最も包括的に推定した報告書「食品由来疾患の世界的な実被害推定(Estimates of the Global Burden of Foodborne Diseases)」を発表し、上述のような結果を明らかにした。これらの推定値は、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)を含む世界中の専門機関の100人を超える研究者による10年間におよぶ活動と情報提供の成果である。
本報告書は、31種類の病因物質(細菌、ウイルス、寄生虫、毒素、化学物質)について食品由来疾患実被害を推定しており、これによると毎年6億人、すなわち世界の人口の約10人に1人が汚染食品の喫食により発症している。このうち、5歳未満の小児125,000人を含む420,000人が死亡している。
世界および欧州における食品由来疾患実被害
世界における食品由来疾患の実被害は甚大なもので、5歳未満の小児および低所得地域の住民をはじめ世界中の人々に及んでいる。地域別では、WHOのアフリカ地域および東南アジア地域が最も高い罹患率および死亡率を示している。報告書は、WHOの欧州地域は世界で最も低い食品由来疾患実被害推定値を示しているが、それでも同地域で毎年2,300万人以上が安全でない食品により発症し、うち5,000人が死亡していることを強調している。
オランダにおける食品由来疾患実被害
RIVMは、食品、環境、動物およびヒトを介して伝播し得る14種類の腸管病原体の患者数を毎年発表している。感染症による患者数および死亡者数は、集団における疾患実被害の指標である障害調整生存年(DALYs:Disability Adjusted Life Years)を用いて表すことができる。14種類の腸管病原体の食品由来感染による実被害は2011年の6,230 DALYから2012年には6,550 DALYへと5%増加した。この増加は、スモークサーモンによるサルモネラ(Salmonella Thompson)感染アウトブレイクが原因であった。オランダでは、調査対象の12種類の食品由来疾患のうちカンピロバクター症およびトキソプラズマ症が最も高いDALY値を示している。RIVMおよびオランダ食品消費者製品安全庁(NVWA)が発表した報告書「オランダの食品由来感染症および食中毒に関する2014年の登録データ(Registry data of food-borne infections and food poisoning in the Netherlands in 2014)」によると、2013年までの数年と比較すると2014年はノロウイルス感染アウトブレイクの件数が多く、カンピロバクター感染アウトブレイクの件数が少なかった。2014年のサルモネラ感染アウトブレイクの件数は2013年より増加したが、それでも2012年以前と比べると少なかった。
食品由来疾患実被害疫学リファレンスグループ(FERG)シンポジウム
今回WHOが発表した報告書の政策的および社会的な影響については、2015年12月15〜16日にアムステルダムで開催予定のWHOおよびRIVM主催のシンポジウムで詳しく議論される予定である。シンポジウムの詳細は以下のサイトから入手可能である。
・FERGシンポジウム
http://www.rivm.nl/en/Topics/F/Food_safety/Foodborne_diseases/FERG_symposium
・WHO報告書「Estimates of the Global Burden of Foodborne Diseases」
http://www.who.int/foodsafety/publications/foodborne_disease/fergreport/en/
(食品安全情報(微生物)本号WHO、No. 24 / 2015 (2015.11.25)、No. 6 / 2015 (2015.3.18) RIVM記事参照)