(食品安全情報2015年20号(2015/09/30)収載)
要旨
1998〜2012年にデンマーク、フィンランドおよびノルウェーの、また1998〜2011年にスウェーデンのアウトブレイクサーベイランスシステムに、水由来アウトブレイク計175件およびその関連患者計85,995人の届け出があった。当該期間には毎年4〜18件のアウトブレイクが報告された。アウトブレイクは4カ国の全域で年間を通じて発生したが、最も発生数が多かった時期は6〜8月(75/169件、44%)であった。カリシウイルス科のウイルスおよびカンピロバクター属菌が病原体として最も高頻度に見られ、病因物質が明らかになった123件のアウトブレイクのうち、それぞれ51件(41%)および36件(29%)に関連していた。原虫(ジアルジア、クリプトスポリジウム)が原因で発生したアウトブレイクは数件しかなかったが、原虫は調査対象期間中に報告された最大規模のアウトブレイクに関連しており、患者数は合わせて53,000人に達した。原水の種類が明らかになったアウトブレイクでは76%(124/163件)が地下水に関連していた。多く(130/170件、76%)のアウトブレイクでは患者数が1件あたり100人未満で、個別家庭用の給水システムに関連していた。しかし、11件(6%)のアウトブレイクではそれぞれ1,000人を上回る患者が発生した。このような大規模アウトブレイクはまれであるが、このようなアウトブレイクを防ぐには、原虫、適正な水処理法、および給・配水システムの注意深い管理・維持に対する認識の向上が必要であることが強調される。
調査方法
1998〜2012年(スウェーデンは2011年まで)に北欧4カ国の各アウトブレイクサーベイランスシステムに届け出があったすべての水由来アウトブレイクを分析対象とした。
データの収集・体系化のために、Questbackアプリケーションを用いてウェブベースの質問票を作成した。質問項目は、患者数、初発患者の発症日、発生自治体名、原因微生物、原水の種類(地表水、地下水、その他)、給水システムの種類(公営水道、私営水道、個別家庭用、その他)、当該システムから給水を受けていた人数、水の消毒の状況、アウトブレイク発生の寄与因子(原水の汚染、不完全な水処理、配水システムの不備、その他)、および飲用水をアウトブレイクの原因として関連づけるエビデンスのレベル(「強く関連している」、「関連の可能性が高い」、「関連の可能性がある」)などであった。
Questbackアプリケーションを介して収集したデータについて記述疫学的解析が行われた。
結果
○アウトブレイク
調査対象期間に北欧4カ国で計175件の水由来アウトブレイクが発生し、患者計85,995人の届け出があった(表2)。これらのアウトブレイクは年間を通じて発生したが、多くは6〜8月(75/169件、44%)および3〜5月(38/169件、22%)に発生した。
表2:北欧4カ国での水由来アウトブレイクの概要(デンマーク、フィンランド、ノルウェーは1998〜2012年、スウェーデンは1998〜2011年、n = 175)
6件のアウトブレイクについては発生時期が報告されなかった。アウトブレイクの届出件数は年によって4〜18件であり、患者数は年間300〜28,000人であった。患者数が明らかにされたアウトブレイクの大部分(130/170件、76%)は患者数が100人未満であった。しかし、デンマークを除く3カ国から患者数が1,000人を上回るアウトブレイクが報告されており(11/170件、6%)、このうち2010年と2011年にスウェーデンで発生した2件では患者数がそれぞれ20,000人を超えていた(3年ごとのアウトブレイク件数の変化を図2に示す)。
図2:北欧4カ国での水由来アウトブレイクの3年ごとの発生件数(デンマーク、フィンランド、ノルウェーは1998〜2012年、スウェーデンは1998〜2011年)
A:給水システムの種類と原水の種類の組合せ別(n=175)
B:アウトブレイクの規模別(n =170)
○原因微生物
123件(70%)のアウトブレイクについて原因微生物が特定された。最も高頻度に原因とされた微生物はカリシウイルス科に属するウイルスで、計51件(原因微生物が特定されたアウトブレイクの41%)に関連していた。このうち44件はノロウイルスを原因とするもので、残りの7件はカリシウイルス科のウイルス種が特定されなかった。2番目に多く関連した微生物はカンピロバクターで、36件(29%)のアウトブレイクの原因となった。残りの36件については、いずれも検査機関で確認された、病原性大腸菌(8件)、野兎病菌(Francisella tularensis、6件)、サルモネラ(2件)、赤痢菌(1件)、ロタウイルス(1件)、およびジアルジア(5件)やクリプトスポリジウム(4件)などの原虫が原因微生物であった。9件のアウトブレイクでは、患者/水由来検体から原因微生物が2種類以上特定された(表3)。
表3:原因微生物別・発生年別の水由来アウトブレイク件数および患者数(デンマーク、フィンランド、ノルウェーは1998〜2012年、スウェーデンは1998〜2011年、n=175)
アウトブレイク患者数でみると、クリプトスポリジウム(58%)、カリシウイルス科ウイルス(17%)、カンピロバクター(9%)およびジアルジア(7%)の4グループが原因微生物として主要なもので、これらは合わせて全患者の90%以上に関連していた(表3)。
一部の原因微生物は特定の国に限定的で、例えば野兎病菌はノルウェーのみで6件のアウトブレイクの原因微生物として報告された。
○給水システムの種類、原水の種類、消毒の状況および寄与因子
給水システムの種類が明らかになったアウトブレイクで最も多かったシステムは水道(101/168件、60%)であった。このうち62件は公営水道で、39件は民間企業が所有する水道であった。アウトブレイクの約35%(58/168件)は個別家庭用のシステムで発生していた。また9件は、野外の開放水源に関連していた。原水の種類が明らかになったアウトブレイクでは大多数(124/163件、76%)が地下水に関連しており、次いで地表水(39/163件、24%)であった。アウトブレイクに関連した給水システムの種類および原水の種類の分布は、調査対象期間を通じて比較的一定であった(図2A)。地表水を原水とする公営水道に関連したアウトブレイク(17/175件)が最も多くの患者(全患者の67%、57,315/85,995人)に関連し、次いで地下水を原水とする公営水道に関連したアウトブレイク(42/175件)であった(全患者の28%、23,816/85,995人)(表4)。
122件のアウトブレイクでは、アウトブレイクの発生以前に水の消毒は行われていなかった。個別家庭用システムで発生したアウトブレイクで消毒の状況が明らかになったもの(50件)はすべて、消毒されていない水が原因であった。最も高頻度にみられた寄与因子は原水の汚染で、95件のアウトブレイクに関連していた。配水システムの不備は26件のアウトブレイクに関連していた(表4)。
表4:給水システムの種類別および寄与因子別の水由来アウトブレイク件数(患者数)(デンマーク、フィンランド、ノルウェーは1998〜2012年、スウェーデンは1998〜2011年、n=175)
○各アウトブレイクの飲用水との関連の強さ
Tillettらの分類法に従うと、アウトブレイクのうち32件は飲用水と「強く関連」し、51件は「関連の可能性が高い」、56件は「関連の可能性がある」に分類された(図3)。飲用水との関連の強さが明らかにされたアウトブレイクの割合は、1件あたりの患者数の増加にともない高くなっていた。計36件のアウトブレイクについてはデータ不足により分類が不可能であった。
図3:飲用水との関連の強さおよび規模により分類した水由来アウトブレイク(デンマーク、フィンランドおよびノルウェーは1998〜2012年、スウェーデンは1998〜2011年、n=170(5件は患者数不明))