Eurosurveillanceのノロウイルス関連情報
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冷凍イチゴに関連してドイツの複数州にわたり発生したノロウイルス胃腸炎の大規模アウトブレイク(2012年)
Large multistate outbreak of norovirus gastroenteritis associated with frozen strawberries, Germany, 2012
Eurosurveillance, Volume 19, Issue 8, 27 February 2014
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20719

(食品安全情報2014年16号(2014/08/06)収載)


 2012年9月20日〜10月5日、ドイツにおいてそれまでで最大規模の食品由来アウトブレイクが発生し、原因病原体としてノロウイルスが特定された。これに関連して、3連邦州の複数の中学校で、4件の分析疫学的調査、すなわち2件の症例対照研究とその他2件の調査(患者計150人)が実施された。患者はドイツ東部の5連邦州の計390の公共施設から全部で約11,000人が報告された。


結果

記述疫学的分析

 公共施設における最初のアウトブレイクは2012年9月20日に発生し、最後は10月5日に発生した。大多数が9月25〜28日に集中して発生し、発生のピークは9月27日(計108施設、28%)であった。1施設あたりの小児患者数の中央値は21人であった(四分位範囲[IQR]:12〜37人)。

 患者が発生した公共施設の大多数は学校(244/390、63%)および保育施設(140/390、36%)で、残りは障害者施設が3カ所、老人ホームが2カ所、およびリハビリ施設が1カ所であった。

 患者計10,950人のほとんどが小児および10代の若年層であったが、施設職員の罹患も報告された。施設に日常的に通う者に占める患者の割合の中央値は、患者が発生したすべての施設では14%(IQR:10〜22%)で、保育施設では18%(IQR:12〜27%)であった。少なくとも38人(0.3%)が入院したが、患者の大多数は罹患期間が短く疾患は自己限定的であった。Saxony、BrandenburgおよびBerlinの3連邦州で患者が多く、患者が発生した施設の数(それぞれ130、129および88施設)も多かった。

 患者が発生した5連邦州のうち4州の保健当局から、2012年10月8日までに計555人(患者339人、食品提供業者X社の従業員から便宜的に抽出された感染状況不明の216人)の検体の検査結果が報告された。このうち32%(患者の40%、従業員の20%)の検体がノロウイルス陽性であった。本アウトブレイクに関連して各州保健当局から、その他のウイルス性および細菌性病原体や細菌性毒素の検出は報告されていない。


分析疫学的調査

 症例患者150人および対照274人を対象とした計4件の分析疫学的調査を実施した結果、イチゴを使用した料理(シロップ煮、またはクォークチーズ)が原因食品として特定された(表)。


 表:複数州にわたり発生したノロウイルスアウトブレイクのリスク因子の単変量および多変量解析の結果(ドイツ、2012年、n=424)



○症例対照研究1

 この調査は、症例患者43人および対照54人(年齢中央値はともに11歳)を対象に実施され、家庭内での二次感染の可能性がある患者3人は症例から除外された。発症日は2012年9月24〜30日で、9月26日に患者数の急激な増加および流行曲線のピーク(n=16)がみられ、感染源が単一であることが示唆された(図3A)。


 図3:ノロウイルスアウトブレイクの経時変化 ― 4件の分析疫学的調査(A〜D)における発症日ごとの患者数(ドイツ、2012年、n=148)



 症例の大多数が9月24日および25日に学校の食堂で食事をしており、食事をした者の割合は対照群より症例群の方が高かった(表)が、その後の2日間では状況が異なっていた(症例の大部分は既に発症していた)。24日、25日のいずれかに供された料理のうち、p <0.1で疾患と関連していたのはセモリナプリンのみであり、この料理は9月24日にサクランボ・砂糖・シナモン、または冷たいイチゴのシロップ煮のどちらかとともに供されていた(表)。

 症例患者36人のうち26人がセモリナプリンの喫食を報告した。しかし24日は、イチゴのシロップ煮は4種類のうち3種類の献立に含まれていた。そこで、イチゴのシロップ煮を含む献立の喫食について、症例群と対照群を比較した。イチゴのシロップ煮を含む献立の喫食は、対照群より症例群で有意に多かった(p<0.05)。9月24日に学校の食堂で食事をした者に対する二次的な調査において、症例37人のうち28人(対照群では40人中11人)がイチゴのシロップ煮を喫食したと報告した(オッズ比(OR)=8.20; 95%信頼区間(CI)[2.66〜26.03]; p<0.01)。

 9月24日に供された料理が原因食品である可能性が高いことが特定されたことから、潜伏期間の中央値は2日間と見積もられた(IQR:2〜6日間、発症日のデータは日単位)


○症例対照研究2

 この調査は、症例39人および対照73人(年齢中央値はそれぞれ11歳と12歳)を対象に実施され、家庭内での二次感染の可能性がある患者3人は症例から除外された。流行曲線から、発症者数が2012年9月25日(n=17)および26日(n=19)に大幅に増加したことが示され、症例患者39人のうち36人がこの2日間に発症したことが分かる(図3B)。

 症例のほとんどが9月24日および25日に学校の食堂で食事をしており、食事をした者の割合は対照群より症例群の方が高かった(表)が、その後の2日間では状況が異なっていた(症例の大部分は既に発症していた)。24、25の両日とも各1品の料理の喫食が疾患と有意に関連しており、それらは、24日はセモリナプリンのイチゴのシロップ煮・砂糖・シナモン添え、25日はボロネーゼソースのパスタであった(表)。また症例対照研究1の場合と同様、24日はイチゴのシロップ煮が4種類のうち2種類の献立に含まれており、イチゴのシロップ煮を独立の曝露変数として分析すると、その喫食と疾患との間により強い関連が示された。曝露変数として24日のイチゴのシロップ煮、および25日のパスタを含む多変量解析では、イチゴのシロップ煮の喫食のみが引き続き疾患との有意な関連を示した(OR=16.87; 95% CI [5.23〜54.4]; p<0.01)。


○その他の調査1(インターネットによる質問票への回答)

 この調査は、症例54人および対照75人(年齢中央値はともに12歳)を対象に行われた(回答率29%)。流行曲線は発症日の3つのピークを示した(図3C)。全体として、2012年9月20日〜27日に学校の食堂で昼食を摂った者の割合は、対照群より症例群の方が有意に高かった(98%対76%、OR=16.7; 95% CI [2.4〜710.1]; p<0.01)。

 単変量解析により、1回目のピーク時での発症が9月20日に供されたイチゴのクォークチーズと生鮮プラムの喫食と関連していることが明らかになった(表)。多変量解析では、イチゴのクォークチーズの喫食との関連のみが統計学的に有意であった(OR=27.13; 95% CI [5.24〜276.40]; p<0.01)。

 2回目のピーク時の患者については、多変量解析により9月24日の学校の食堂での喫食と有意な関連が示された(OR=11.1; 95% CI [1.38〜88.4]; p<0.05)。同日および翌25日に供された食品35品目のうち、6品目が疾患と関連し、多変量解析によりイチゴのシロップ煮(OR=33.80; 95% CI [3.41〜∞]; p<0.01)およびニンジン・エンドウ豆(OR=23.66; 95% CI [2.22〜∞]; p<0.01)について有意な関連が示された。

 3回目のピーク時の患者については、単変量解析により3品目の食品の喫食が発症と関連していることが示された。多変量解析ではイチゴのクォークチーズのみが統計学的に有意な関連を示した(OR=45.42; 95% CI [3.31〜2,944.92]; p<0.01)。


○その他の調査2(電子メールによる質問票への回答)

 この調査では計86人から質問票への回答が得られ(回答率10%)、このうち14人が症例群、72人が対照群であった。年齢中央値は両群とも12歳(年齢範囲はそれぞれ9〜16歳、9〜17歳)であった。発症のピークは9月27日午後から翌日午前にかけてであった(図3D)。

 9月24〜28日に学校の食堂で食事をした者の割合は、対照群より症例群の方が有意に高かった。当該期間に供されたすべての料理のうち、単変量解析で疾患と統計学的に有意な関連を示したのは、イチゴのシロップ煮を添えたセモリナプリンのみであった(表)。イチゴのシロップ煮は、中国野菜とともにデザートとしても供されたが、これを喫食したのは1人の生徒のみであった。メインコースが何であるかは問わずイチゴのシロップ煮のみに限定してその喫食の有無を尋ねた際に、疾患との最も強い関連が示された。イチゴへの曝露があった可能性が最も高い日時(9月26日13時)および個々の患者の発症日時から、潜伏期間の中央値は35時間(範囲:12〜40時間)と算出された。


食品追跡調査

 X社の各地域の調理施設では冷凍イチゴが使用されていた。これらはドイツのY社(Saxony州)が中国の業者から輸入した1ロット計22トン(2,201箱に10 kgずつ包装)のうちの一部であった。患者が発生した公共施設のうち情報が得られた施設の98%(368/377)はX社の各地域の調理施設から食品の供給を受けており、残りの2%は規模がより小さい食品提供業者2社から供給を受けていた。これらの3社には同一の業者(Y社)が食品を納入しており、患者が発生した公共施設はすべて問題の冷凍イチゴを含む製品を受け取っていた。10月5日、ロベルト・コッホ研究所(RKI)、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)およびドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)は合同で記者発表を行い、Y社は当該ロットの冷凍イチゴの回収を開始した(この時点で同社は既に当該製品の出荷を停止していた)。これらの出荷停止および回収により、当該イチゴ製品のうち計1,136箱以上(11トン以上)について、消費者に届くことを阻止することができた。残りの1,065箱(約10.7トン)は回収開始時に既に使用済みであったか、回収発表後に地域の食品安全当局の監視下に廃棄された。10月8日、Saxony州立衛生検査機関は、当該ロットの未開封冷凍イチゴ製品から採取した検体中にノロウイルスを検出した。

 アウトブレイクの発生から1週間以内に原因食品が特定されたことにより、時宜を得た製品回収が可能となり、当該ロットの半分以上について消費者に渡ることを阻止することができた。本アウトブレイクは、食品が国際的に取引される時代における大規模アウトブレイク発生のリスクを実証する例となった。また、これにより、食品安全のための適時のサーベイランスと疫学調査の重要性が強く示された。



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部