米国疾病対策センター(US CDC: Centers for Disease Control)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


州保健当局の食品安全分野の疫学関連能力の調査 − 米国、2010年
Food Safety Epidemiology Capacity in State Health Departments - United States, 2010
Morbidity and Mortality Weekly Report, December 23, 2011 / 60(50);1701-1704

http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6050a2.htm?s_cid=mm6050a2_w

(食品安全情報2012年1号(2012/01/11)収載)

 全米各州および各地域疫学専門家審議会(CSTE:Council of State and Territorial Epidemiologists)は、2002年に初めて国内の食品安全関連の疫学調査に関する能力評価を行った。この評価は、州および地域の食品由来疾患管理プログラムにおいて最低限の実施基準を設定するための基礎となった。サーベイランスの実施には、食品安全にかかわる職員の研修と教育、疫学と検査の能力、およびサーベイランスを支える情報技術(IT)に関する情報を収集するため、CSTEは2010年4月にWebベースのフォローアップ調査の質問票を各州担当者に送付した。本報告はその結果を要約したものである。

 2010年、米国の各州、各地域(region)および各地区(local)の保健当局には食品由来疾患関連の疫学専門家として合計787人のフルタイム職員が就業していた。このうち、疫学関連の学位を取得、もしくは何らかの疫学課程を修了した者は616.5人(78%)であった。170.5人(22%)は正式な疫学研修を受けていない者、もしくは実務で経験を積んだ(仕事の中で教育を受けた)だけの者であった(表)。正式な疫学教育を受けた職員の割合は州の機関が最も高く、食品由来疾患関連の疫学専門家のほとんど(73%)が疫学の学位を取得、もしくは何らかの疫学課程を修了した者であった。看護学の学位取得者が食品由来疾患関連の疫学専門家として就業している職員の割合は、地区の保健当局(19%)の方が地域(5%)または州(4%)より高かった。各州からの報告によると、プログラムを完全に遂行するためには各州あわせてフルタイム職員304人を追加採用する必要があり、特に修士号を取得した疫学専門家の要望が最も大きかった(必要人員の50%)。

表:行政機関別にみた食品安全関連の疫学専門家の教育・研修のレベル − 米国、2010年

 食品由来疾患を電子的に報告する能力を十分に備えている検査機関の数を検査機関の種類別にみると、公衆衛生検査機関が最も多く、他の検査機関(たとえば病院附属の検査機関、リファレンス検査機関、その他の臨床検査機関など)はそれより少なかった。43州が、全国電子疾患サーベイランスシステムの腸炎患者用データベースを利用していると報告した。42州が、アウトブレイク調査に州の保健当局の電子データベースを利用していると報告し、13州が地区の電子データベースを利用していた。全ての回答機関が、米国疾病予防管理センター(US CDC)の食品由来疾患アウトブレイク電子報告システムおよび全国アウトブレイク報告システムを利用していた。ほとんどの州が、それぞれの腸炎患者の電子ファイルに複数の項目を記録していた。項目には、検査機関での検査結果(49州)、疫学的リスク因子(44)、臨床症状(42)、旅行歴(42)、環境暴露(42)、喫食歴(35)、食品の購入場所(30)などが含まれていた。

 サルモネラおよび大腸菌O157による散発性腸炎患者の調査において、各州の調査能力は様々であった。ほぼすべての州(49州)がこの2種類の病原菌による患者のデータを電子データとして入力していた。その他の作業については、概して大腸菌O157の方がサルモネラより多くの州で実施されていた。例としては、分離株の収集(大腸菌O157 48州、サルモネラ46州、以下同)、PFGE法による解析(48州、42州)、統計データの解析(46州、45州)、患者分類の標準的な症例定義との比較(49州、44州)、患者への聞き取り調査(47州、39州)、より詳細な質問票によるレビュー(42州、38州)などであった。

 全ての州で数々の病因物質による食品由来疾患アウトブレイクの調査が行われているが、他に比べて調査の実施率が高い病因物質がいくつかみられた。アウトブレイク調査の実施率が75%を超える州の数は、病因物質別にみると、大腸菌が最も多く(全ての州の86%)、次いでリステリア(81%)、サルモネラ(78%)、カンピロバクター(73%)、その他の食品由来病原体(68%)、ノロウイルス(55%)であった。一方、これらの病因物質によるアウトブレイクの調査の実施率が25%未満であると報告した州の数は、カンピロバクター(全ての州の16%)、リステリア(13%)、大腸菌(10%)、ノロウイルス(7%)およびサルモネラ(4%)であった。(図1)。

図1:表示した病因物質関連のアウトブレイク調査の実施率別にみた州の数 − 米国、2010年

 食品由来疾患アウトブレイクの調査の一環として、全ての州で食品検体より検便検体の採取の方が多く行われていた。検便検体や食品検体の採取を必ず行っていた州は比較的少なかった(それぞれ5州、1州)。検便検体については33州が全アウトブレイクの50〜99%で採取していたが、食品検体の採取については36州が全アウトブレイクの50%未満においてであった。39州が過去3年間に市販製品の追跡調査を1〜10件行ったと報告した。同期間に11件以上の追跡調査を行った州は比較的少なく(7州)、3州では追跡調査が全く行われていなかった。

 全ての回答機関が食品由来疾患または腸炎のアウトブレイクの調査に関して問題点の存在を報告した。中程度または重要な問題であると報告されたものには、アウトブレイクの通知の遅れ(41州)、食品安全に携わる職員数の不足(29州)、調査の優先順位の低さ(27州)、時間外賃金の支払能力の不足(20州)、疫学の専門知識の不足(12州)、州内の機関間の連携の困難さ(8州)、事務的支援の制約(8州)、他州または連邦政府機関との連携の困難さ(5州)などがあった(図2)。

 本報告書は、食品安全に携わる職員の増員、職員研修の機会の増加、ITの導入の不足への対応、食品由来疾患アウトブレイク対応における州・地区の衛生当局と連邦機関との連携強化を進める戦略を作成すべきであるとしている。

図2:過去3年間の腸炎アウトブレイク調査における各種問題点を報告した州の数 − 米国、2010年


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部