(食品安全情報2012年26号(2012/12/26)収載)
ドイツでは、2011年初夏に生の発芽野菜による大規模な腸管出血性大腸菌(EHEC)感染アウトブレイクが、また2012年秋には冷凍イチゴによるノロウイルス感染アウトブレイクが発生した。これら2件のアウトブレイクは、食品を介した疾患の伝播の重要性を消費者に認識させる警告となった。
2012年11月12〜14日、200人以上の研究者がドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)で開かれた会議に出席し、この分野の最新の知見および進歩について議論した。専門家らは、衛生対策の遵守と規制、微生物検査法の開発、全国的アウトブレイクの調査方法の改善、および人獣共通感染症モニタリングプログラムの期間延長を実行に移すことが必要であると指摘した。
ドイツの食品由来感染症の原因としてはカンピロバクターおよびサルモネラが多くを占める。サルモネラの感染事例は減少しており、これは人獣共通感染症対策が成功した良い例である。家畜生産分野での対策により、サルモネラ症の年間患者数は5年間で約55,000人から25,000人未満に減少した。一方、カンピロバクター症は依然としてヒトで最も多い人獣共通感染症で、今のところ患者数の減少をみていない。
ドイツでは、細菌感染症の他にノロウイルスおよびロタウイルスによる感染症も重要である。しかし、それらの伝播経路、生残性(tenacity)および不活化に関しては重要な知見がまだ不足している。また、両ウイルスに比べ調査対象範囲がそれほど広くない人獣共通感染性のE型肝炎ウイルスも患者数が着実に増加している。国際的な食品流通の拡大に伴い、ドイツ国内でこれまで重要度が低かったウイルスによる食品汚染の増加も予想される。
会議では、衛生管理対策、特に様々な人獣共通感染症病原体への対策における洗浄・殺菌の重要性が強調された。また、実施した対策の厳密な有効性評価も重要であるとされた。フードチェーンの全段階でサルモネラやカンピロバクターなどの重要な病原体への対策を徹底すること以外に、特定の病原体と特定の食品の稀な組み合わせを潜在的危害として考慮することも必要である。最近発生した様々なアウトブレイクは、植物由来の食品によっても人獣共通感染症病原体が伝播し得ることを示している。
病原体を検出する検査法は日々進歩しているが、これによる新しい課題も生じている。今や病原体の全ゲノム解析は技術的に容易となり、病原体の性状および遺伝子突然変異に関する詳細な知見が得られるようになった。しかし、一方でこのような解析技術の進展により、得られたデータの解釈に問題が生じている。たとえば、病原体は性状を変えて、植物などの新しい生息環境に定着することがある。したがって、微生物検査方法や疫学は常に改良を繰り返すことにより、個々の問題に対応できるようにしていかなければならない。
データの記憶や管理に関する処理能力の向上、および新しいシミュレーション法の開発により、リスク評価の改善と迅速化が可能となっている。また、疫学や微生物検査の能力の向上により、感染源の特定および個々の病原体のリスク評価が着実に進歩している。基本的に必要なのは、様々なフードチェーンでの病原体の汚染頻度や性状について、人獣共通感染症モニタリングプログラムから得られる現時点での状況である。このためモニタリング活動をさら強化する必要性が生じている。
大規模な食品由来疾患アウトブレイクの調査では、食品の供給チェーンの分析が中心的役割を果たしてきた。アウトブレイクの原因を究明するには、高度に専門化された検査機関での微生物検査と、BfRが行っているようなIT技術を活用した疫学調査を併用することが重要である。また、食品の輸送経路や流通関係が複雑であることから、食品原材料の追跡調査の方法を改善する必要があることが確認された。