(食品安全情報2011年20号(2011/10/05)収載)
英国食品基準庁(UK FSA)は、2011年9月初めに、英国全土の感染性胃腸疾患事例に関する第2回全国調査(IID2)の最終報告書を発表した(本号UK FSA記事参照)。これにより、FSAや、その他の英国公衆衛生機関による感染性胃腸疾患モニタリングおよび低減戦略策定を支援するために1990年代半ばに開始された活動が前進した。IID2調査の第1の目的は、英国内の感染性胃腸疾患(IID)事例およびその原因微生物を解明し、1990年代半ばにイングランドで実施された同様の調査(IID1)後の状況の変化を調べることであった。第2の目的は、国の公式統計情報とコミュニティにおけるIID患者の実際のレベルを比較することであった。
IID2には、互いに関連した以下の個別7調査が含まれた。
・前向き住民コホート調査(Prospective Population-Based Cohort Study)
全英88カ所の一般開業医(GP)の患者6,836人を対象とした前向き住民コホート調査
・一般開業医受診者調査(General Practice Presentation Study)
全英37ヵ所のGPで下痢および嘔吐症状について医療チームの診察を受けた全患者からの検査用サンプルの採集
・一般開業医検証調査(GP Validation Study)
一般開業医受診者調査で対象となった37ヵ所のGPでの上記調査参加者の検証
・一般開業医患者全数調査(GP Enumeration Study)
40ヵ所のGPにおいてIID症状で受診した患者の全数を調査
・微生物学的調査(Microbiology Study)
前向き住民コホート調査および一般開業医受診者調査からの便検体を最新の検査法により検査
・全国報告率調査(National Reporting Study)
全国サーベイランスから得られたデータとその他の調査から推定された発生率とを比較する調査
・後ろ向き電話調査(Retrospective Telephone Survey)
英国全土の14,726人を対象とした疾患の自己申告調査
英国の状況
・ 英国のコミュニティにおけるIIDへの罹患率は高く、全人口の約4分の1(最多で1,700万人)が1年に1回IIDを罹患していると推定された。毎年全人口の約2%がIIDの症状でGPを受診しており、総診察回数は年間100万回と推定される。
・ IID患者の約50%がその症状で休学または休職したと報告した。マンチェスター大学は、これによる損失日数を約1,900万日(生産年齢人口では1,100万日)と算出した。
・ コミュニティのIID患者から採集した便検体で最も一般的に検出された原因微生物は、ノロウイルス(16.5%)、サポウイルス(9.2%)、カンピロバクター(4.6%)およびロタウイルス(4.1%)であった。
・ GP を受診したIID患者から提出された便検体で最も一般的に検出された微生物は、ノロウイルス(12.4%)、カンピロバクター(13%)、サポウイルス(8.8%)およびロタウイルス(7.3%)であった。
・ 全国サーベイランスに報告される英国のIID患者1人につき、GPへの実際の受診者数は約10人、実際の患者数は147人であると推定された。
・ Clostridium difficileは陽性が1検体(<1%)のみであり、一般に医療施設に関連して見られるこの病原菌はコミュニティではあまり広く見られないことが示唆された。
1990年代半ばと比較した2008〜2009年のイングランドの状況
・ イングランドのコミュニティのIIDの発生率は、1993〜1996年(IID1)と比較して2008〜2009年(IID2)には43%増加していたが、IIDによりGPを受診した患者数は50%減少した。
・ IIDの全国統計への報告率は、症状があってGPを受診した患者では上昇していたことから、GPが便検体を採集する傾向が高いこと、あるいは一次医療サービスを利用する患者についてIID事例の登録の改善が見られたことが示唆された。しかし、IIDの症状でGPを受診する患者は減少している。このため、確認されず報告されないIID患者がコミュニティで増加している。
・ 英国国営医療サービスの直通窓口(NHS Direct)に連絡してきたIID患者の割合は非常に少ない(2%以下)。そのためNHS Directへの連絡の増加によりGPの受診率が低下したとは考えられない。
・ 自己申告疾患の電話調査から推定されたIIDの発生率は、コホート調査における発生率の2〜5倍高く、この値は記憶期間(Recall length)によって異なっていた(それぞれ28日後または7日後)。本プロジェクトのその他の調査および外部情報源のデータから、コホート調査でより信頼性が高い推定値が得られたことが示され、したがってこの調査の結果をコミュニティのIID発生率の推定に使用した。