(食品安全情報2011年11号(2011/06/01)収載)
英国健康保護庁(HPA)の最新データの解析によると、2010年にイングランドおよびウェールズで、食品由来感染症の一般アウトブレイク61件がHPAの「食品由来およびその他の胃腸炎アウトブレイクの電子サーベイランスシステム(eFOSS:electronic Foodborne and Non-foodborne Gastrointestinal Outbreak Surveillance System)」に報告された。これは前年度の91件より少なくなっている。
一般アウトブレイクの総数が減少したのは主にサルモネラ属菌感染に起因するものが減少したためである。2010年のサルモネラ属菌感染症アウトブレイクはわずか8件で、1992年にこのサーベイランスシステムが設立されて以来最も少なかった。
2010年の食品由来疾患アウトブレイクの病因物質としてはサルモネラに代わってカンピロバクターが最も多くなり(18/61件、30%)、次いでノロウイルス(10/61、16%)、原因不明(ノロウイルスの疑い、10/61、16%)であった(図1)。この数年最も多かったサルモネラは13%であった(8/61)。鶏レバーのパテ/パルフェは2010年の食品由来疾患アウトブレイクにおいて最も多い媒介食品であり、その病因物質の80%はカンピロバクターであった。
一般アウトブレイク61件による患者総数は1,396人で、このうち616人の感染が検査機関で確定され、82人が入院し、5人が死亡した。アウトブレイク件数が最も多かったのはSouth East of England(11件)、最も少なかったのはWest Midlands(1件)であった。全国的なアウトブレイクは4件であった。
図1:2010年にイングランドおよびウェールズで発生した食品由来疾患アウトブレイクの病因物質(*その他にはスコンブロトキシン、ヒスタミン、細菌(サルモネラ属菌およびウェルシュ菌)の疑いおよび複合病因物質を含む)
発生施設、媒介食品および寄与因子
2010年の食品由来疾患アウトブレイクは、昨年までと同様に、大部分が食品サービス業部門で発生していた(52/61、85%)。次いで学校、病院、福祉施設等(6/61、10%)で発生しており、小売店での発生は5%(3/61)であった(表1)。食品サービス業関連のアウトブレイクのうち、半数以上がレストランと持ち帰り料理店で発生しており(30/52、58%)、料理としては英国料理(12/30、40%)または魚介料理(6/30、20%)が多かった。カンピロバクター症アウトブレイクでは、1件を除くすべてが食品サービス業部門で発生しており、ホテル(8/18、44%)とレストラン(6/18、33%)が多かった。ノロウイルス感染アウトブレイクとノロウイルス感染疑いのアウトブレイクでは、2/3がレストランと持ち帰り料理店に関連していた(13/20、65%)。
表1:eFOSSに2010年に報告された食品由来疾患アウトブレイクの病因物質別の発生施設
a レストラン、持ち帰り料理店、ホテル/ゲストハウス、パブ/バー、イベントでのケータリング業者など
b 学校、病院、福祉施設など
c スーパーマーケット/ハイパーマーケット、小売店など
d スコンブロトキシン、ヒスタミン、細菌(サルモネラ属菌およびウェルシュ菌)の疑いおよび複合病因物質など
アウトブレイクの84%(51/61)で媒介食品が特定された。最も多かったのは家禽肉で(20/63、32%)、次いで甲殻類と貝類(13/63、21%)、赤身肉(10/63、16%)であった(表2)。特に家禽レバーのパテ/パルフェ料理(家禽肉)(14/63、22%)とカキ(甲殻類と貝類)(11/63、17%)が多くを占めていた。家禽肉に関連するアウトブレイクのうち80%(16/20)がカンピロバクターによるものであり、一方、甲殻類と貝類によるアウトブレイクの全てがノロウイルスまたはその疑い事例であった。赤身肉によるアウトブレイクの病因物質は様々で、カンピロバクター(2)、ノロウイルス(2)、ウェルシュ菌(3)、リステリア(Listeria monocytogenes)(1)、不明(2)であった(表2)。アウトブレイクでの媒介食品のエビデンスに関しては、分析疫学と微生物学の両方のエビデンスがあるものが5%(3/61)、微生物学的エビデンスのみが20%(12/61)、分析疫学的エビデンスのみが16%(10/61)であり、記述疫学的エビデンスのみが43%(26/61)であった。
表2: 2010年に報告された食品由来疾患アウトブレイクの病因物質別の媒介食品
a スコンブロトキシン、ヒスタミン、細菌(サルモネラ属菌およびウェルシュ菌)の疑いおよび複合病因物質など
b 軽く加熱または非加熱の食品の材料に使用された生の殻付き卵
c 1件の食品由来疾患アウトブレイクで複数の媒介食品が特定される場合があるので、合計は報告されたアウトブレイク件数と異なる
食品由来疾患アウトブレイクの87%(53/61)で寄与因子が特定された。多かった順に、加熱調理が不十分(24/66、36%)、交差汚染(12/66、18%)、食品取扱者が感染していた(9/66、14%)、保存が不適切(時間および温度)(9/66、14%)、未加工の汚染された材料(4/66、6%)、個人の不衛生(3/66、5%)、手洗い設備の不備(3/66、5%)、冷却が不十分(2/66、3%)であった。カンピロバクター症アウトブレイクでは主として、加熱処理が不十分(14/24、58%)および交差汚染(5/24、21%)であった。ノロウイルス感染アウトブレイクでは食品取扱者が感染していたことによるものが多かった(6/9、67%)。
カンピロバクター症の増加とサルモネラ症の減少
サルモネラ症アウトブレイクは2009年の28件に対し2010年はわずか8件で、過去10年以上にわたって減少傾向が続いている(特にS. Enteritidis)(図2)。アウトブレイク件数の減少は2010年のサルモネラ感染確定患者報告数の減少にも反映されており、家禽群への対策の効果を明確に示している。
これに対して、カンピロバクター症アウトブレイク件数は増加し(2010年18件、2009年13件)、この増加は家禽のレバーパテ/パルフェの喫食と関連していた(2009年が9/13、2010年が14/18)。患者数も同様に2010年は2009年から増加した。2010年のアウトブレイクから得られたエビデンスによると、特別に食品提供業者(caterers)に向けた食品安全上の助言が出されているにも関わらず、2009年と同様、仕出し業者がレバーを用いたパルフェやパテを調理する際に、中心部に赤味を残すためにわざと十分に加熱しなかったことが明らかになった。
図2:1992〜2010年にイングランドおよびウェールズでeFOSSに報告されたサルモネラ症アウトブレイクの件数