米国疾病予防管理センター(US CDC)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


ノロウイルス胃腸炎アウトブレイクのための米国の新しいサーベイランスネットワーク
Novel Surveillance Network for Norovirus Gastroenteritis Outbreaks, United States
Emerging Infectious Diseases, Volume 17, Number 8, 1389-1395, August 2011
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/17/8/pdfs/10-1837.pdf
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/17/8/10-1837_article.htm

(食品安全情報2011年23号(2011/11/16)収載)

序論

 ノロウイルスのアウトブレイクに対して全米で統一された強化サーベイランスを行うために、米国疾病予防管理センター(CDC)と各州の協力機関は共同で、国レベルのサーベイランスネットワークであるCaliciNetを立ち上げた。CaliciNetの設立目的は、ノロウイルスアウトブレイク株の標準タイピング法の改良、地理的に異なる複数のノロウイルス疾患クラスターの関連付け、新規ノロウイルス株のすみやかな確定および同定、および米国におけるノロウイルス株の包括的なサーベイランスネットワークの樹立である。ここでは、CaliciNetについて説明し、新規GII.4変異株の同定を含む、CaliciNetの初年度の成果を報告する。

方法

CaliciNet
 CaliciNetは、米国の州および地域の公衆衛生検査機関を結ぶ新しい電子サーベイランスネットワークで、CDCがとりまとめを行っている。CaliciNet参加機関は、逆転写PCR(RT-PCR)と増幅産物の塩基配列決定のための標準プロトコルを用いてノロウイルス株の分子タイピングを実施する。CaliciNetデータベースには、ノロウイルスの遺伝子配列情報や基本的な疫学情報(表1)が収集される。これらの情報は安全な接続を介して電子的にCDCのCaliciNetサーバーに登録される。その後、疫学および配列データは複数のアウトブレイクを共通の感染源(汚染食品など)に結び付ける目的に利用することができる。質の高いデータの登録を確保するため、CaliciNetサーバーへの情報入力は州または地域の参加検査機関の有資格者が行い、最終的な品質保証/品質管理はCDCが行う。

 CaliciNetへの参加認定は、データ入力と配列解析についての評価、および検査機関パネルテストの2段階のプロセスになっている。各検査機関は毎年、技能試験に合格しなければならない。検査機関の参加認定試験および技能試験では、リアルタイムRT-PCR法および通常のRT-PCR法による一連の便検体の分析と、それに続く双方向の配列決定が実施される。認定された参加検査機関は、ノロウイルスアウトブレイク1件につき2検体以上のデータをCaliciNetデータベースに入力可能である(表1)。

表1:CaliciNetデータベースへの入力時に必要な疫学データ項目*


* RT-PCR: 逆転写PCR
† 託児所、クルーズ船、病院、長期療養介護施設、パーティーまたは催事、レストラン、学校やコミュニティ、矯正センター
‡ 領域CまたはD(VP1遺伝子)
§ 領域Dが推奨されるが領域Cでも可
アウトブレイク株
 2009年10月〜2010年3月にCaliciNetに登録、またはCDCの国立カリシウイルス検査機関(NCL: National Calicivirus Laboratory)に提出されたすべてのアウトブレイク株は、D領域の解析により遺伝子型分類を行った。GII.4 New Orleans変異株と確定するため、CaliciNet参加検査機関から提出されたアウトブレイク株の一部と2009年10月?2010年5月にNCLが受領した各アウトブレイク由来の2検体についてはP2領域を解析した。

結果

 2011年2月時点で、20州の公衆衛生検査機関がCaliciNetの認定を受けており、これらの州の人口は合わせて全米の53%に相当する(図1)。2009年3月のCaliciNetの開始から2010年5月までに、552件のアウトブレイクがCaliciNetデータベースに登録された。伝播経路としては、食品由来が78件(14%)およびヒト−ヒト感染が340件(62%)のアウトブレイクで報告されたが、残りの134件のアウトブレイクでは伝播経路が報告されなかった。

図1:CaliciNet参加州(灰色)、不参加州(白色)、およびP2領域解析用にノロウイルス陽性検体をCDCに提出した12州(★印)

 アウトブレイク552件のうち395件(73%)がGII.4ウイルスによるものであった。アウトブレイクの月ごとの件数は、2009年10月の4件から、2010年1月にピークの110件に達し、その後2010年5月には31件に減少した(図2)。GII.4の新規変異株(GII.4 New Orleans)は2009年10月に初めて確認され、同年11月にはアウトブレイクの原因として、GII.4 Minerva 株の11%に対して新規変異株は56%を占めた。この新しい変異株は同年12月および翌2010年1月でも引き続き優勢な株として残存し、12月は48%、1月は65%のアウトブレイクの原因となった。2010年2月には、アウトブレイク件数が84件に減少したが、GII.4 New Orleans株によるアウトブレイクの割合は依然として高かった(60%)。同年3月には、GII.4 New Orleans株によるアウトブレイクが全体の75%を占めた。4月にはアウトブレイクの総数が43件に減少し、うちGII.4 New Orleans株によるものが67%およびGII.4 Minerva株によるものが7%を占めていた、5月は総数が31件で、GII.4 New Orleans株によるものが52%、GII.4 Minerva株によるものが13%を占めていた。

 C領域およびD領域の解析では、遺伝的に相互に極めて近縁であるGII.4変異株間の識別ができない可能性がある。このため、CaliciNet参加の4州から提出されたGII.4 New Orleans D領域陽性の20株についてP2領域をさらに解析し、また代表的なアウトブレイク株についてVP1遺伝子の全塩基配列を決定した。最近の他のGII.4変異株と比較すると、GII.4 New Orleans株には数カ所のアミノ酸置換が見られ、それらの変異は、突出領域(アミノ酸残基294および396)や血液型抗原(HBGA: histo-blood group antigen)との相互作用部位(アミノ酸残基339?341)の近傍に位置していた。

 CaliciNet参加検査機関からの20株のほかに、CaliciNetに参加していない12州(図1)が提出した75株のGII.4アウトブレイク株についてもP2領域の配列を決定した。このうち72株(96%)において、GII.4 New Orleansプロトタイプ株と塩基配列の相違が2%以内であるP2配列が認められた。残りの3株のアウトブレイク株は、2008年にオーストラリアで初めて検出されたGII.4変異株と近縁であった。

図2: 2009年10月〜2010年5月にCaliciNetに登録された胃腸炎アウトブレイクのデータ。円グラフはGII.4 New Orleans(白色)、GII.4 Minerva(黒色)、またはその他すべての遺伝子型(灰色)として報告されたノロウイルスアウトブレイク株の割合を示す。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部