米国疾病予防管理センター(US CDC)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


急性胃腸炎の発生率の推定とノロウイルスの役割(米国ジョージア州、2004〜2005年)
Incidence of Acute Gastroenteritis and Role of Norovirus, Georgia, USA, 2004-2005
Emerging Infectious Diseases, Volume 17, Number 8, 1381-1388
August 2011
http://www.cdc.gov/eid/content/17/8/101533.htm
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/17/8/pdfs/10-1533.pdf

(食品安全情報2011年19号(2011/09/21)収載)

 米国では、急性胃腸炎(AGE:acute gastroenteritis)の患者が年間約1億7,900万人発生すると推定される。しかし、ウイルスに関する臨床検査は通常行われないため、医療機関を受診したAGE患者でのウイルスの役割については十分に理解されていない。本研究では、市中(community)および外来診療(outpatient)でのウイルスごとのAGE発生率を推定した。 【方法】

調査対象母集団および検体の選択
 Kaiser Foundation Health Plan of Georgia(KP)社は、ジョージア州に約28万人の会員を有する医療保険組織で、会員はほとんどの場合、同社関連の医療施設のみを利用している。1カ所の微生物検査機関がジョージア州のKP社の全会員をカバーしており、外来患者の検便を毎月約140検体引き受けている。外来担当医が検便を発注すると、患者に検便キットと採取方法の説明書が渡され、患者は、採取した検体を冷蔵保存し、速やか(一般的には48時間以内)に担当医に提出するよう指示を受ける。その後、検体は当日配達の運送会社によってKP社の微生物検査機関に送付される。

 2004年3月15日〜2005年3月13日の各週に、異なる患者の計11検便検体を無作為に選択して調査対象とした。症状の継続期間が短いAGE患者による便検体の提出の可能性を同期間が長いAGE患者の場合の4分の1であると仮定して、ノロウイルスの10%陽性率を95%信頼区間 [5〜15%]で検出できるように、目標検体数として572検体が選択された。一部の患者については追加の診断検査(寄生虫および寄生虫卵(ova)、Clostridium difficile、酵素免疫定量(EIA)法によるロタウイルスなど)が発注される場合もあったが、本研究では原則として担当医による通常の培養検査の発注後に検体が提出された患者のみを調査対象とした。検体ごとに、患者の外来受診日からKP社の検査機関での検体受領日までの日数、患者の5歳きざみの年齢グループ、患者の性別、便の硬さ、およびKP社の検査機関でのすべての診断検査の結果についてデータを入手した。

検査
 通常の培養検査用に提出された全ての検便検体は、KP社の検査機関でカンピロバクター、赤痢菌、サルモネラ属菌の検査が行われた。発注によっては、ジアルジア、クリプトスポリジウム、ロタウイルス(EIA法)、およびC. difficileの毒素産生株の検査も行われた。その後、検体は米国疾病予防管理センター(CDC)の研究室に送付され、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、および腸管内アデノウイルスについて分子(RNAおよびDNA)レベルでの検査が行われた。

発生率の推定
 検便検体での各病原体の陽性率より、調査対象母集団での病原体ごとの急性胃腸炎の発生率を算出した。このために、AGE発症時の医療機関の受診に関するFoodNet(Foodborne Diseases Active Surveillance Network)による3回(2000〜2001年、2002〜2003年、2006〜2007年)の住民調査(自己申告方式)の統合データ(pooled data)を利用した。すなわち、市中における発生率は検便の実施率と医療機関の受診率の両方、外来診療における発生率は検便の実施率のみを用い、検便検体での各病原体の陽性率を外挿して推定した。 

  【結果】

 調査対象は計572検体であった。すべての検体で通常の細菌培養検査とPCR法によるウイルス検査を実施し、375検体(65.6%)では寄生虫卵および寄生虫検査、161検体(28.1%)ではC. difficile検査、28検体(4.9%)ではEIA法によるロタウイルス検査も実施した。寄生虫卵および寄生虫検査またはC. difficile検査を行わなかった検体は、これらの病原体について陰性であると見なした。検査した全検体のうち、325検体(56.8%)は26〜65歳の成人患者、316検体(55.2%)は女性患者のものであった。KP社の検査機関における診断検査では、42検体(7.3%)から病原体が検出された。その後のCDCにおけるPCR検査では53検体(9.3%)で1種類以上のウイルスが検出され、何らかの病原体が検出された検体(EIA法でもロタウイルス陽性となった5検体、細菌とウイルスの両方が検出された2検体を含む)は全部で88検体(15.4%)であった。これらの88検体中、53検体(60.2%)でウイルス、30検体(34.1%)で細菌、7検体(8.0%)で寄生虫が検出された。複数の病原体が検出されたのは4検体のみであった(表1)。全体ではノロウイルスが最も高頻度に25検体から検出され(全検体の4.4%)、何らかの病原体が検出された88検体の28.4%を占めていた。便検体からの病原体の検出率は5歳未満の小児で最も高く(32.1%)、年齢の上昇とともに有意に減少し、65歳以上では3.6%であった(p<0.001)。

表1:外来患者からKP社の検査機関に提出された検便検体から検出された各種病原体(患者の年齢層別、2004年3月15日〜2005年3月13日)

 総合すると、何らかの病因によるAGEの市中での推定発生率は、10万人年当たり41,000人(90% 信用区間(CI)[38,000〜44,000人])で、そのうち13,000人(32%、90% CI [ 10,000〜20,000人])については特定の既知の病因物質によるものであった(表2)。外来で診療を受けたAGE患者の推定発生率は10万人年当たり5,400人(90% CI [4,400〜6,700人])で、このうち1,600人(30%、90% CI [1,300〜2,400人])が特定の既知の病原体によるものであると推定された。ノロウイルスは、市中および外来診療での最も主要な既知のAGE病因物質であり、市中の全AGE患者の16%(10万人年当たり6,500人、90% CI [3,700〜12,000人])、および全外来AGE患者の12% (10万人年当たり640人、90% CI [360〜1,200人])で病因物質となっていた。

表2:市中(community)および外来診療(outpatient)での病原体別の急性胃腸炎の推定発生率(KP社の会員、2004年3月15日〜2005年3月13日)

 市中での推定発生率について、細菌全体(10万人年当たり1,700人、90% CI [1,100〜2,300人])および寄生虫全体(10万人年当たり420人、90% CI [200〜790人])と比較すると、ノロウイルスによる市中でのAGEの発生率はそれぞれ4倍および15倍高かった。同様に、医療機関の受診を必要とするノロウイルス感染の発生率は、細菌全体の場合(10万人年当たり240人、90% CI [160〜320人])の3倍、寄生虫全体の場合(10万人年当たり60人、90% CI [29〜110人])の10倍であった。アストロウイルスは、市中および外来診療で2番目に主要な既知のAGE病原体であり、10万人年当たりの推定発生率は、市中では1,800人(90% CI [880〜3,400人])、外来診療では270人(90% CI [130〜590人])であった。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部